罪
そんな、シミュレーションの果てに、俺はある事に気付いた。
それは、気付いてはいけない、いや、もっと早く気付かなくてはならない事だった。
俺がヤダガミを警戒し始めた時、ひょっとしたら、奴はマサミを諦めつつあったのではないかということだ。
だから、俺がいくら待っても奴は姿を見せなかったのではないか。
にもかかわらず、マサミが言ったようにただ一緒にいるだけで良かったにもかかわらず、俺はわざわざヤダガミを殴り、奴を追い詰め、マサミを死に追いやったのではないか?
全身から血の気が引くのを感じた。
俺は……俺は……。
結局、守る事が煩わしくなった俺がマサミを殺したんだ。
俺は前髪を両手で掴むと思いっきり握りしめた。
やたらと息苦しくなって鼓動が早くなるのを感じた。
体がたがた震える。
目から涙がこぼれ落ちる。
マサミ。
俺は心の中で救いを求めるように呟いた。
返事をしてくれ、マサミ。
俺は自分の右手にかみつく。
うっすらと塩っ辛い俺の手をかみしめると口でなのか手でなのか分からない所で痛みを感じる。
その痛みだけが何故か俺を救ってくれる、そんな気がした。
不意に俺を呼ぶマサミの声が耳に飛び込んできた。
俺は驚き辺りを見渡す。
ドアを叩く音と共にマサミの声が確かに聞えた。
「マサミ?」
俺はあわてて立ち上がろうとしたが足は急に動く事が出来ず、俺はカップラーメンの器が並べられたテーブルに倒れた。
器が砕け、中に残った冷たい汁が俺の腕に取憑いたが、そのままに玄関に向かって壁ぶつかりながら走った。
(マサミは死んではいなかった。
マサミは死んでなんかいなかったんだ!)
俺は心の中で叫びながら、ドアに体当たりすると、チェーンとカギを不器用な手で外した。
そして、思いっきり開けた。
「マサミ!」
目の前にマサミの妹、ユミの驚愕する顔があった。
希望が失望に代わった。
俺はドアにもたれ掛り、崩れ落ちた。
(ユミ、お前ってそんなにマサミの声に似てたっけ)
と悪態をつきたかったが、力なく喉の奥でフェイドアウトした。
突然、目の前にハルナさんの顔が現れた。
その目からは大粒の涙が零れていく。
頭を掌で叩かれた。
何度も、何度も。
「どれだけ心配させる、このバカガキ!」
と悪態をつかれた。
俺はただ、そんなハルナさんを見上げるしか出来なかった。
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