舞台に立つには未熟過ぎだ
シヨゥ
第1話
『日常に飽き飽きしていないか。行動を起こせずモヤモヤしていないか。変わる時がやってくるのを待っていないか。そんな受け身な自分を変えたくないか』
そんな文句が書かれた立て札が気になったのはたまたまだ。ましてやその札を立てたギルドに足を運んだのなんて偶然でしかない。
「なんで剣なんて握っているのか」
今頃丁稚が帰ってこないと商会は騒いでいるかもしれない。まあお使いは済ませたのだから問題はないだろう。問題があるとしたら商会に戻ることができないことだろう。
あの立て札は体のいいスカウト広告で、実のところは人さらい。船に詰め込まれてやってきたのは未開の地。
「変わらざるを得ない状況を用意させていただいた。さあ剣を取り、生き残る道を切り開くのです」
遠い沖合から男が叫んでいる。追いすがると棒で殴ってきたあの男はどんどん遠ざかっていく。
「仕方がないか」
浜にとどまっていても仕方がない。まず1歩。そして2歩と歩けば聞いたことのない獣の唸り声が聞こえる。
「あぁこれは死んだわ」
そう思った瞬間には赤く焼けた鉄の棒を押し当てられた時と同じ痛みが走る。世界はぐるりと周り視界が地面とほぼ水平になる。痛みはないが、意識が遠のいていく。どうやら見知らぬ獣に致命の一撃を受けたようだ。
死にゆく最中に思うことはただ1つ。急な変化なんてろくなもんじゃない。ただそれだけだ。
舞台に立つには未熟過ぎだ シヨゥ @Shiyoxu
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