第9話


「理沙さん、お願いします。」



今日は花金。

お店はもれなく満席御礼で、私は相変わらず絶賛呼び出され中。




『安藤さん、ルイ入れてくれるって。女の子増やして。あと、最後らへんでまた戻してね。』


小声で葵ちゃんに告げると。


「あらー・・・困ったな。もう戻せないかも。次、VIPルームなんだけど。」


葵ちゃんの背を追って登る螺旋階段。





VIPルームは、その名の通りVIPな方をお通しするお部屋で。

とはいえ、いちおう六本木では一流有名店と言われる弊店は、芸能人や政界の方でも珍しくないので。




VIPルームにお通しするのは、よっぽどお店が大事にしてるor人目を集めてしまう大物の方だけ。


誰だろう?野球系はまだシーズン中だし。





『失礼します。』


営業スマイルを貼り付けて、別階にある重厚な扉を開けた。











「久しぶりだね。」



重厚な部屋の中で。


大きな赤いソファーに座っている人。コワモテなのに、誰よりも優しい笑顔で私を甘やかす人。




『倫くん!』


「お疲れ様。元気そうだね。」





一気にリアルに引き戻される感覚。

まさか、倫くんが来てると思わなかった。




私以外に、倫くんを倫くんと呼ぶ人を知らない。

倫くんは、私の人生を変えた元カレの大親友で。

元カレ同様、私にとって家族だった。

ずっとずっと前からの私を知っている人。ダメで弱くて子供な私を、ずっと見守ってくれてる人。






『コーラお願いします♡』


倫くんの隣に座るなり、ボーイに声をかける。頷いてイヤホンで注文を通してくれる。



『あ、お断りする前に頼んじゃった。』


「今さらか。笑

いいよ、何でも飲みな。今日はもう、仕事終わったようなものだな。」


『そんなことないよ!働くよ~~

倫介さん、お久しぶりですネ♡』


「ははは・・・」



ああああ、安心するなぁ、この笑顔。

倫くんには悪いけど、もう今日は営業終了だ。



『一人なの?どこか飲んできた?』


「うん、ちょっと取引先とね。いちおう、今人呼んでるからもうすぐ来ると思うけど。」


『そうなんだ。』


「相変わらず忙しそうだな。・・・最近は体は大丈夫か?」


『おかげさまで♡稼げるうちに稼がないとね、よっしゃカンパーイ♡』




コーラを高らかに持ち上げると、笑いながらグラスを合わせてくれた。

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