横暴ツンデレ皇子と天然真面目文官

梨子ぴん

横暴ツンデレ皇子と天然真面目文官

 今日はジュンシー皇子が成人を迎える、十八歳の誕生日。

 あれほどまでに賑やかだった周囲は静まり返っていた。

 高級な調度品と上官に囲まれた、美しい青年となったジュンシー皇子が私に告げる。

「お前に、僕の妻になってほしい」

 急にどうした。昔はあんなに可愛く……いやものすごく我儘で横暴で、生意気だったな。思い出すと結構腹が立ってきた。

 私の頭は走馬燈のように思い出が流れて行った。



***


 事の始まりは八年前のこと。

 元々、私の生まれた家の格は高い一方で、金銭的に余裕のある家ではなかった。学に傾倒してばかりで、お金の遣り繰りが壊滅的に下手くそだったのである。そのため、私の家については、頭は良いが、馬鹿の集まりと言われた。そして、私自身もしっかりその血を受け継いだため、現在非常に金策に困っているというわけである。

「はあ……、どうしたものか……」

 別に、全く援助の手がないわけではない。優秀な人材だって輩出している。ただ、入ってくる金以上に出ていく金が多いのだ。皆、研究の材料や資料などを好き勝手に買うものだから、金などすぐになくなってしまう。

「ううっ、一家の長男坊だからといって任されたのはいいが、まずいぞ。大変まずい」

 今、私の手元にあるのは、各々の請求書である。中には、何でこんな高いものを、断りもなく購入したのか問いただしてやりたくなるものもあった。

「はあ」

 今日で何度溜息を吐いただろう。幸せが逃げていってしまうではないか。

「おいおい、ヤン(洋)。随分と時化た顔してんな。また女にでも振られたか?」

「っ、フェイロン(飛龍)! 違うよ、いつもの困りごとだよ」

 私は力なく笑った。するとフェイロンは、あ~、と頭を掻きながら言った。

「お前の家って、真面目そうなのに金遣い荒いよな」

「何かに没頭する癖があるからね。それ以外のことはおざなりにしがちなんだ」

「お前も大変だなあ」

「まあね。ところで、何かいい話ない?」

「ええ? そういや、皇帝の末の息子が、そろそろ本格的に学を習得したい、みたいな話は出てたな~」

「それだ!!」

 私は呆気にとられている悪友を尻目に、一目散に皇帝の待つ王宮へと駆けていった。

「……あいつ、結構一直線なやつだからな~。大丈夫かねえ」



***



 皇帝は燃えるように真っ赤な玉座に座りながら欠伸をしていた。。相変わらず、威厳があるんだかないんだか、よくわからない皇帝だ。

「ふむ、それで余の末の息子の家庭教師になりたいと?」

「ええ、私は家柄も悪くないですし、何より学にはよく精通しております。いかがでしょうか。」

「まあよい。それに、其方の家は現状かなり金に困っているようだし……、とりあえず一週間ほど様子を見ようか。」

「有り難き幸せでございます、殿下。」

「うむ。ところでお前、齢はいくつだ?」

「? 十五でございます」

「ほう」

 皇帝は立派に生えた顎髭をすり、と手で擦った。目が悪戯っ子のようだったのは気のせいだろうか。



 そして、数日後。私は件の皇子と対面することとなった。皇子の名は、ジュンシー(俊熙)という。齢は十歳。黒々とした髪を後ろで三つ編みにして流している。顔は大変愛らしく、本当に男の子かと疑ってしまいたくなる。目は吸い込まれそうなほど大きく、頬は薄く色づき、唇は桃色で小さい。

「はじめまして、皇子。私、ヤンと申します。」

「知らん」

「は?」

「お前のような馬鹿は別にいらない」

「……言っておきますが、私はこれでも学に精通している方なのですが」

「お前の家は、貧弱で、のめり込んだら狂ったように研究に明け暮れる阿呆の集まりなのだろう? 僕はそんな馬鹿に教えてもらいたくないね」

 思わず私はカチンと頭に血が上りそうになったが、相手は子供で皇子。失礼な真似をするわけにはいかない。下手したら私の首が飛ぶ。物理的に。

「では、この組み木を解いてみせよ」

 そういって皇子が渡してきたのは、横顔になっている同じ女性が二人描かれた小さな木箱だった。

「これは?」

「父上から渡された」

 木箱を振ると、あまり音がしない。中には何も入ってないのだろうか。

「で? これがお前に解けるか?」

「解けましたよ」

「はあ?」

 皇子が今まで一番大きな声を出した。あ、ちょっと子どもっぽくて可愛いな。なんだかんだでまだ十歳だもんなあ。弟たちとそんな変わらない年齢だし、当然か。

「皇子。この木箱は、間違い探しなんですよ」

「それはわかる。同じ絵と言いながら、贋作が出回るのと一緒だな」

「……それはともかく、これはただ見るだけじゃだめなんです。いいですか、こうやって目の焦点をぼやかして、一致させたときに違った模様で浮かび上がる場所が、正解の場所となります」

「なんと」

「そうして見つけた箇所を一緒に押すと、箱が開きます」

 パカ、と木箱が開く。中には、小さく折りたたまれた紙が一つ入っていた。広げると、どうやら地図のようだった。ある一点には、大きく赤字で×が描かれている。

「……この問題、一問で終わらない感じでしょうか」

「そうだな。あと、お前。どうしてさっきの箱の原理がわかった?」

「ああ、昔似たような作りをした作品に会ったことがあるんですよ。だから、これもそうかなと思いまして」

「ふ~ん……」

 皇子はそっぽを向くと、早く謎解きに付き合え、と急かしてきた。これでは、家庭教師というより子守なのでは? と少し思った。



***



 全ての問題が解き終わった後、私と皇子は陛下に謁見を求めた。手に入れた品を、陛下にお渡しするためだ。

「陛下。こちらが今回献上したい品でございます」

「ふむ」

 渡したのは、漆で塗られた番の鴛鴦が描かれている櫛だ。年季が入っているが、とても美しい櫛だった。

 最後に謎を解き終わった後、手に入れたのがこれだったため、何等かの意味があるのではないかと皇子と相談し、今に至る。

「よくぞ、あの問題たちを解いたな。褒めて遣わす」

「有り難き幸せでございます」

「では、ヤン。引き続きジュンシーの家庭教師を頼むぞ」

「はい?」

「お前もそれでよいな」

「父上がそうおっしゃるなら、僕はこの馬鹿で良いです」

「はは、お前は嘘が下手だな。あと、この櫛はジュンシーが持っているといい。お前がいつか一生を添い遂げたい、と思った相手に成人の際に贈るとよい」

「かしこまりました」

 皇子は陛下から恭しく櫛を受け取り、大事そうに懐にしまう。もしかして、既に想い人がいるのだろうか。



 謁見が終わった後、私は純粋な好奇心で聞いてみた。私と皇子は多くの謎解きを経て、幾らか仲が近くなったと思ったからだ。

「皇子。その櫛はどうなさるんですか? もしかして、すでに想い人が?」

「は、はあ?!」

 顔を真っ赤にする皇子。まさか図星だったのか。ちょっとまずいかもしれない。

「うるさい! お前には関係ないだろう! あと!」

「あっ、はい」

「僕のことはジュンシーと呼べ。僕もお前をヤンと呼ぶ。いいな!」

「わ、わかりました」

 大変な剣幕で言われたら従うほかない。私は素直に頷いた。

 そして、次の日からがまた大変だということに、私は知らなかった。



***



「ヤン。この問題はどう解いたらいい?」

「ええ。これは、以前お教えした通り、この式の原理を用いまして……」



「ここにいたのか、ヤン。昼餉を食べるぞ。こっちに来い」

「え? 私はあくまでも家庭教師ですので、そういうわけにはいかないのですが」

「僕が良いと言ったら良いのだ」

「はあ」



「添い寝はしてくれないのか」

「はい?」

「その、なんだ。家庭教師なんだからそういうことを教えてくれてもいいのでは、ないのか」

「ああ、なるほど。今参考書をお持ちしますね」

「……」



 こんな風に、ジュンシー皇子は事あるごとに私を呼びつけるようになってしまった。これでは私の本分である研究がなかなかできない。幸い、私の研究は文学が主である。そのため、連日部屋に籠ったり、外で延々と植物の世話をするということはないのだが、流石に困る。

「皇子。流石に私もまとまった研究の時間を取りたいのですが……」

「知らん」

「いや、困りますよ。私、研究が生きがいなので」

「はあ? この僕がお前をこんなに構ってやっているのに、何だその態度は! 家庭教師を外されてもいいのか!」

 ジュンシー皇子は怒鳴る。相当怒っているようだ。確かに、下の者が自分の言うことを聞かなかったら不機嫌にもなるだろう。

「その件に関しましては、昨日で十分な資金を陛下からいただきまして。無事に解決いたしました」

「……じゃあ、なんだ。家庭教師は終わりということなのか」

 消え入りそうな声でジュンシー皇子は聞く。いや、そういう悲しい顔をさせたかった訳では……。

「いいえ、これからも家庭教師として働いた方が実入りがあるので続けさせていただこうと思っています」

「! まあ、そうだろうなと思っていた。では、早速だが」

「嫌です」

「僕の言うことを聞け。夜に寝所に来い」

 やはり、ジュンシー皇子は一人で寝るのが怖いのだろうか。まだ十歳だ、私の弟もよく一緒に寝て欲しいとお願いしていたな。

「かしこまりました」

「うむ」



 日は沈み、夕餉とを終え、風呂も入った後はジュンシー皇子の部屋に向かうだけだ。私は丸い月を眺めながら廊下を歩く。もうすぐジュンシー皇子の部屋というところで、ひそひそと話し声が聞こえてきた。

「知っているか? あの我儘皇子、また新しい家庭教師を雇ったらしいぞ」

「ああ。でも、今回は続いているらしいな。珍しいこともあるものだ。まあ、どうせその家庭教師も辞めてしまうだろうが」

「全く。あの末の皇子の我儘ぶりには困らされてばかりだな」

 なるほど。あの皇子は思ったよりも悪評が付いていたらしい。私は世情に疎いところがあるから、あまり知らなかった。ただ確かにジュンシー皇子は我儘なところはあるし、現在進行形で困らされてはいるな。

「しかも、その家庭教師が例の研究馬鹿の家の息子ときた! 理屈ばかりこね回す奴に務まるかね?」

「ないな。ジュンシー皇子の機嫌を損ねて首でも刎ねられてしまうのではないか! ははは!」

「いえ、私の首は御覧の通り繋がっておりますよ」

 私は指で首を指し示す。私がいることに気が付いていなかったらしい官僚は狼狽える素振りを見せたが、すぐに落ち着いたように見せかけてくる。

「まあ、ヤン殿も大変ですね。研究もありながら家庭教師まで務めるのは」

「ええ。でも、ジュンシー皇子は未来ある御方ですから、やり甲斐はありますよ。きちんと自身で物を考え、民を想える優しい方です。ああ見えて、年相応の可愛らしいところもあります」

「ほ、ほう」

「では、私はこれで」

 舌打ちが聞こえたが、素知らぬ振りをした。どんな人間でもあっても、好かれも嫌われもする。ただ、ジュンシー皇子のことを馬鹿にされるのは我慢ならなかった。



 部屋に着くと、ジュンシー皇子が赤い顔をしていた。私はすぐに駆け寄って額に手を当てた。

「ジュンシー皇子、大丈夫ですか? 熱でもあるのではないかと思いましたが……」

「い、いや。その」

「?」

「先ほどの話がこちらまで聞こえてきたのだ」

 なるほど。それで怒っていらっしゃると。

「ジュンシー皇子。私は貴方と知り合ってまだ幾月かしか過ごしておりませんが、とても素晴らしい人だと思っております。例えば、最初の木箱は別ですが、謎解きの際、私から与える最低限度の知識で答えを見つけておられました。或時は、民の様子が見たいと言って町へ繰り出した時も、民と語り合い、少々馬鹿にされることがあっても冷静に打ち負かし、その後は見事に仲直りされていました。あと、上のお兄様の誕生日を祝うために、一生懸命贈り物を選ぶ様子は微笑ましかったです。それから……」

「もういい! わかった!」

 私が言葉を紡ごうとすると、片手で私の口を塞いだ。もう片方の手は、ジュンシー皇子自身にあてられている。

「その、ヤンが私のことを大切に想ってくれているのはわかった」

「はい。それは良かったです」

「僕も……ヤンのことを大切に、あ、その、好きだなと……」

「えっありがとうございます」

 そこまで大事に思われていたとは思わなかった。

「いや。やっぱり今のは忘れろ。いいな」

 いやどっちだ。まあ、いいか。元気そうだし。

「僕は、お前のその教養や知性にまず興味を持った。あとは、研究とかを楽しそうに話す姿が面白いなと思った。結構、思ったことはハッキリ言うし、顔に出る所も気に入ってる」

「左様で」

「うむ」

「では、本日も勉強しましょうか」

「はっ? それは、その夜伽の……」

「ええ。いつもの通り沢山参考書を持ってきました。いざという時に困らないようにしましょうね、ジュンシー皇子」

 まあ、童貞である私が言えたものではないが。うん、まあ知識はあればあるほど役に立つだろう。

「はあ~~、もういい、わかった。する」

「頑張りましょうね」

「イライラしてきたからしばらく黙れ」

「そういう所が我儘って言われるんですよ」

 ジュンシー皇子は参考書を投げて来そうだったが、急に動きを止めた。

「いつか、その体で分からせてやる。今しないことを絶対に後悔させてやるからな」

 小さく呟かれたので、何を言ってるか分からなかったし、聞くとまた面倒くさそうなのでやめておいた。

 さあ、今日も家庭教師の仕事を全うするとしよう。



***



 私がジュンシー皇子の家庭教師になってもうすぐ一年になるかという頃、ジュンシー皇子は私を寝所に呼ばなくなった。そうか、ついに寂しさを克服したんだな、と感慨深かった。

「ジュンシー皇子、寂しいのを克服されたのですね」

 ただ、日中は相変わらず呼び出される。まあ、私もここ一年近く家庭教師をしていると慣れてきた。

「いや、ますます寂しくなった。だから、その穴埋めと練習をしておこうと思ってな」

 冷たい表情で答えるジュンシー皇子。だが、口元には笑みを零しており、何故か私はそれを怖いと思った。

「さあ、今日も昼餉に向かうぞ」

「はい」

 上機嫌なジュンシー皇子を見て、私の気のせいかと考え直し、ジュンシー皇子の部屋へと向かったのだった。



***



 ジュンシー皇子は昔からとても美しかったが、粗暴で我儘なところがあったため、すこぶる評判が悪かった。だが、成長するにつれて落ち着きを持ち、溜息を吐きたくなるほどの美青年となった。

 あれからもう七年か。ジュンシー皇子は今年で十七歳となる。成人まであと一年だ。

「ジュンシー皇子も本当に大きくなられましたね」

「ああ。今では、其方の背も追い越してしまったな」

 にやにやと楽しそうに笑うジュンシー皇子。こういう悪戯っ子な部分は変わらないんだよなあ……。

「何だ?」

「いえ。やはりジュンシー皇子は昔と変わらす、可愛らしい方だなと思いまして」

思わず私はくすりと笑う。

「そうか。可愛いか」

「ええ」

「ところで、来年は成人ですよね。どなたを妻にされるかは決めておれられるのですか?」

 昔の我儘なジュンシー皇子ならともかく、今は気品のある落ち着いたジュンシー皇子だ。伴侶の話が噂になってもおかしくないのに、こっれぽちもない。ただ、見合いの話はわんさか来ているらしい。私は少し心配になった。

「妻は決めている」

「そうなのですか! おめでたいですね~! きっと相手の方も婚姻を受けてくださるでしょう」

 私は自分のことのように喜んだ。なにせ、七年間もお仕えした方の結婚だ。嬉しくないわけがない。

「ああ。というか無理やりにでも契るから大丈夫だ」

「ジュンシー皇子、貴方、本当は根っこの部分は変わっていないのでは……?」

「冗談だ。ところでヤンはどうだ。良い話がきたか?」

「全然来ません」

「そうだろうと思った。良かったな」

「良くないですよ」

「ははは」

 口を大きく開けて笑うジュンシー皇子。自分が美形だからといって馬鹿にしすぎではないのか。

 確かに私は、凡庸な見た目をしている。ただ、家柄自体は高いし良い方だ。正直、これまで一件も見合いの話が来ていないことが悲しい。やはり、研究馬鹿の家と縁を持つのは嫌なのか……? でもお金は十分工面できるようになったのにな。私ももう二十二歳だ。そろそろ身を固めていくことを視野に入れたい。

「私も何か顔に施した方がいいのでしょうか」

 妹は化粧を学び、見事に化けて見せた。正直、家族である私も妹が妹であると分からなかった。

「いや、ヤンは何も施さなくていいだろ」

 ジュンシー皇子の私よりも大きくなった手の平が頬に触れる。

「はあ」



***



 そして、ジュンシー皇子は十八歳の儀を迎える。ジュンシー皇子が口上を述べているとき、私は思わず泣きそうになる。横にいる友人のフェイロンがそれを見て揶揄う。

「おいおい、お前はジュンシー皇子の親かよ」

「違うが八年間も面倒を見てきたものだから、大きくなったなあと」「……。なんというか、まあ、頑張れよ」

「?」

 そして、口上の最後に、私と目を合わせる。何かあるのだろうぁ。

 そして、とんでもない発言をしたのだ。

「お前に、僕の妻になってほしい」

「は?」

「というか、妻になるべくの手続きはすでにしてある。話も勿論しておいた」

「いや、私は何も知らないのですが」

「驚かせようと思って。あと」

 ジュンシー皇子が私の元までやって来る。顔が近い、と思ったら唇を奪われていた。

 途端、周りはざわめく。

 口づけは一瞬だった。え、何だこれは。気が付くと、手にはいつぞやの思い出の櫛を持たされていた。

「おお、やはりジュンシー皇子の愛は本物なのですな」

「いや~、これでお二人は未来永劫共にするということですか! 素晴らしい!」

 周りは完全にお祝いムードで私だけが取り残されている。どういうことなんだ?

「昔、謎解きの末に手に入れた櫛だが、それは王族の者が相手に永遠の愛を誓うときに渡すものだ。これで、僕たちは一生を共にすることになるということだ」

「……私に拒否権は?」

「あると思うか?」

 今まで一番優しい笑顔を向けるジュンシー皇子。

「私は貴方のことを弟のように可愛がっていたのですが」

「僕はヤンのことを昔からずっと欲情の対象にしていた。大丈夫、夜伽もかなり練習したから上手くいく」

「困ります」

「僕もこの欲をどうすればいいか困っていたんだ。お合いこだな」

ああ、駄目だ。八年間も寄り添ってきた相手だ。無下にできるわけがない。いや、もしかしてそこまで考えて私をずっと家庭教師に任命していたのか? まさかな、考えすぎか。それに、男相手だ。すぐに飽きるだろう。だから、私は受け入れた。

「かしこまりました。その婚姻の申し入れを受けさせていただきます」

「ああ。これからよろしく頼む」

 ジュンシー皇子は私を引き寄せ、両腕で包み込む。

 そして、耳元でそっと囁いた。

「ずっと共にいよう」

 あっこれは本気のやつだな、と思ってジュンシー皇子の顔を見ようと思ったが、腕に込められている力が強くて無理だった。

 まあ、いいか。

 正直、ジュンシー皇子にはだいぶ絆されていたので諦めて一緒に前に進むことにすることにした。

 私のような研究馬鹿が好きだなんて、ジュンシー皇子もやはり変わり者だ。私はそっとジュンシー皇子の体を抱き締めた。

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