第100話 第8ステージ表彰式

 表彰式は、山岳賞の表彰から始まった。

 山岳賞の表彰を受けることになっている静岡の尾崎が、第8ステージ途中に体調不良で棄権した丹羽智将の病院に行くため、先に表彰式をやらせてほしいと相談した。

 大会運営者側は、一旦検討を行うと回答したが、ステージ優勝とスプリントリーダーの冬希、総合リーダーの船津も是非そうして貰いたいと申し出て、新人賞の植原もそれに同意したので、TV局側の了承を得て、即時表彰式が開始された。

 表彰式で1番最初にステージに上がるのはステージ優勝者のみに許された栄誉ではあるが、冬希は既に4度目と言うこともあり、そこに配慮する必要はないという判断もあった。

 尾崎が山岳ポイント1位で表彰を受けた後は、ステージ優勝者の冬希、総合リーダーの船津、スプリントポイントリーダーの冬希、新人賞の植原と表彰式は滞りなく終わった。

 まだ午前中ではあるが、直ぐに屋久島を出て、佐賀の武雄まで移動する必要があったので、その後の選手達の片付け、移動はバタバタしていた。幸い、ゴール地点が港のすぐ前だったため、昼前には、選手達は出港することができた。


 選手達がバタバタと移動準備をしている時、表彰式を先に終わらせた静岡の総合系エース尾崎は、ゴール地点から少し遡った場所にある病院にいた。丹羽が運び込まれた場所だ。

 丹羽は、ベッドで点滴を受けていた。スタート時よりは、顔色も良くなっている。

「点滴って効くんだな」

 思ったより元気そうに言う丹羽に、尾崎は安堵した。

「レースはどうなった?」

「青山が勝ったよ。俺は集団でゴールした」

「そうか、無事にゴールできてたならよかった」

 丹羽がよかったと言った対象に、冬希が含まれていることに、尾崎は気づかなかった。

「途中でリタイアすることになって申し訳ないな」

「気にするな。岸川も沢田も陸川も、今日はゆっくり休めただろうから、明日はお前の分まで頑張ってもらうさ」

「1人少ない分、不利には変わりない」

「いや、そうでもない。千葉は、青山がスプリント勝負するのにアシストがフル稼働だったから疲弊はしているはずだ。状況は五分と言っていいだろう」

 そこまで言って尾崎は、ふとあることに気がついた。しかし、口に出したのは別のことだった。

「症状はどうなんだ?」

「肺炎になりかけているそうだ。少し良くなったら、直接静岡まで帰ることになる」

「そうか、まあ、ゆっくり休めよ。まだインターハイも国体も、全日本選手権もある」

 尾崎は、施療室を出て廊下を歩きながら考えた。もしかしたら千葉は、丹羽を失った自分達のために、アシストを使ってスプリント勝負をして、完全ではないにしても、条件を合わせようとしたのではないかと。

「考えすぎか」

 千葉は、尾崎達の静岡だけではなく、まだ福岡や東京などに対しても戦って行かなければならない。自分達を不利にする理由がない。だが、冬希や船津には、どこかそういう武士道的な思考や行動をする部分が見受けられるような気がした。

 尾崎は軽く頭を振ると、余計なことを考えるべきではないと、この件を忘れることにした。


■第8ステージ結果

1:青山 冬希(千葉)121番 0.00

2:土方 一馬(北海道)11番 +0.00

3:柴田 健次郎(山梨)191番 +0.00

4:草野 芽威(島根)321番 +0.00

5:松平 幸一郎(福島) 71番 +0.00

6:立花 道之(福岡)405番 +0.00


■総合成績

1:船津 幸村(千葉)125番 +0.00

2:尾崎 貴司(静岡)1番 +1.06

3:植原 博昭(東京)131番 +2.36

4:近田 徹(福岡) 401番 +3.15


■スプリント賞

1:青山 冬希(千葉)121番 251pt

2:坂東 輝幸(佐賀)441番 214pt

3:柴田 健次郎(山梨)191番 71pt


■山岳賞

1:尾崎 貴司(静岡)1番 78pt

2:船津 幸村(千葉)125番 64pt

3:近田 徹(福岡) 401番 50pt

4:丹羽 智将(静岡)2番 44pt

5:植原 博昭(東京)131番 41pt

6:秋葉 速人(山形) 61番 37pt


■新人賞

1:植原 博昭(東京)131番 0.00

2:有馬 豪志(宮崎)451番 +3.21

3:南  洋平(栃木)95番 +20.38

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