第11話 公道には危険がいっぱい

冬希は、個人タイムトライアルと、クリテリウムの両方が行われる大会に参加するため、袖ケ浦にあるサーキットを目指していた。


個人タイムトライアルは朝一で、クリテリウムは午後から。

その間は時間がたっぷりあるので、他のクラスのレースを、ゆっくり観戦させてもらう予定だ。


冬希が参加するクリテリウムは、フレッシュマンというクラスだ。

レース経験1~3回の初心者向けのレースだ。


冬希は、レース経験1回なので、このクラスになる。

経験の浅い冬希が、これ以上のクラスに参加しようとすると、他の人たちに迷惑になるだろう。


流石に自宅から袖ケ浦までは遠かったので、エンデューロの時にもらった3位の商品の中に入っていた、輪行袋を利用して、最寄りの駅まで電車で移動してきた。


駅で、輪行袋から自転車を取り出し、組み立て、ウォーミングアップもかねて、サーキットへ移動する。


すると、同じようにロードバイクで、前を走る人がいた。

この人も、レースに参加するのだろうか。


冬希は、一定の距離を保ちながら、同じ道を走っていく。


一台の車が、左手のコンビニから出ようとしている。

前を走るロードバイクは減速し、車を先に通した。


車は車道に出て加速する。ロードバイクも車を通した後に加速する。

すると、車がウインカーも出さずにいきなり左折した。


「うわあああああ」

ドンッと大きな音を立て、路側帯を走るロードバイクは、左折してきた車に突っ込んだ。


ロードバイクに乗っていた人は、ボンネットを飛び越え、向こう側に顔から落ちていった。

巻き込み事故だ。


冬希は慌てて自転車を止め、倒れている、ロードバイクに乗っていた男性に駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

男性は、顔から血を流している。


車を運転していた60代ぐらいの、おじさんも車から降りてくるが、動揺して、何を言っているかわからない。


とりあえず、車を移動させ、倒れている自転車を移動し、被害者の男性を歩道の奥に退避させる。

顔や腕、膝から出血があるものの、意識ははっきりしており、歩くこともできた。


「救急車を呼びましょうか?」

「救急車は大丈夫・・・」

動揺しているのか、返事は弱々しいが、会話は出来る。


今度は動揺している運転手さんに声をかける。

「まず、110番しましょう」

「あ、はい」

事故の加害者の方が、自分から警察に電話した方が、後々印象が良いかもしれない、と思い、運転手自身に電話を掛けさせることにした。


数分でパトカーが到着した。

「救急車は呼びましたか?」

「いえ、被害者の方が不要だということだったので」

「今日は日曜日で、通常の病院は休みなので、救急車を呼んだほうが良いと思います」


警察官は、被害者の方を説得し、救急車を手配してくれた。


そして二人の警察官は、まず加害者に、その後、被害者に話を聞いていた。


どちらも動揺して、話が支離滅裂だ。

運転手さんは

「自転車が通してくれたので、先に走って曲がったら、自転車が突っ込んできた」


ロードバイクの男性は

「車を先に行かせたので、走り出したら、急に曲がってきた」


それぞれの言い分を聞いていると、状況が全くわからないと思ったので、目撃者として、主観を交えず、客観的に、それぞれどのような状況で、事故が起こったのかを、警察官に説明した。


救急車が到着した。

搬送されるのは良いが、被害者のロードバイクを、どうするか。


そこで、加害者の家が近いので、一旦加害者の家に置いておく。

被害者は、救急車で病院に行き、車で取りに来る。という調整を行った。


救急車に乗りながら、ロードバイクの男性は、冬希に頻りに感謝していた。

住所を聞かれ、必ずお礼すると言って、救急車で搬送されていった。


レース参加者ではないようで、今日は久々のサイクリングで、ずっと楽しみにしていたのに・・・と悲しそうに語っていたのが、印象的だった。


後日、冬希の共に、大量の補給食用のゼリーが届くことになるのだった。


救急車を見送って、冬希もサーキットへ向けて走り出した。


予定より遅れてしまって、試走には間に合いそうにない。

だが、個人タイムトライアルの、受付締切にはまだ間に合う。

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