好きな女の子と同じ高校に行くために自転車競技を始めたら光速スプリンターと呼ばれるようになっていました

中原圭一郎

中学生編

第1話 好きな子と同じ学校に行きたい!

中体連柔道の地区大会一回戦。

「判定!」

主審の声に応じて、副審二人はそれぞれ、赤、白の旗を上げる。

判定は分かれた。

主審は、赤の選手側の手を上げ、勝利を告げる。

一歩下がって礼。

この瞬間、青山冬希の夏は終わった。


ああ、なんと情けないのだろう。

小学2年から、親に言われて嫌々とはいえ、7年半続けてきた柔道だったが、最後は地区大会で1年生相手に一回戦負け。数か月前まで小学生だった相手に。


序盤、得意の内股で技ありを取ったが、その後にすぐに何かの技をかけられ、気が付いたらひっくり返っていた。すごい音がしたらしく、会場がどよめいていたのは、何となく憶えている。


どうやら一本ではなかったが、こっちは脳震盪を起こしたらしく、記憶もあいまい。ただ、攻めなければという気持ちだけで試合を続けたものの時間切れ。


技ありも取れたし、ちゃんと攻め続けられたみたいなので、悔いはないかも。

「まあ、話のタネにはなるか」

これで一生モノの話のタネが出来たのなら、収支はトントンかもしれないと、何となく前向きな気持ちになってきた。


翌日には早速話のタネを披露するタイミングが来た。

学校の放課後の掃除時間、冬希が律儀にも昇降口を塵一つない状態まで掃除し終えた時に彼の思い人、荒木真理がごみ箱を抱えて現れた。


彼女はクラスは違えど、2年生の時には同じクラスで、尚且つ同じ班だった。

冬希からするとドストライクの美少女だったが、あまり目立つタイプではなかった為、学校で噂されるようなこともなかった。


「おつかれさま」

冬希は心臓がバクバクする中、極力表情を抑えて真理に話しかけた。

表情を抑えていなかったら、さぞかし気持ち悪いニヤけ顔になっていただろう。

「青山くん、お疲れ様。すごいね。昇降口ってこんなにきれいになるもんなんだ・・・」

昇降口を見渡し、しみじみと感心した様子。


「俺、昇降口の掃除得意だから」

「すごいスキルだ。うらやましい」

とケラケラと笑う真理。かわいい。

多少会話を交わしたところで心臓も落ち着いてきたので、ゴミ捨てを手伝うことにする。

思春期の中学生でありながら、ナチュラルに女子を手伝えるのは、不本意ながら自分勝手な姉の教育の賜物だ。


「青山くん、中体連どうだった?」

「一回戦負け。しかも1年生に。いやぁ、強かった。ビクともしなかった。あれは前世は岩かなんかだな」

「そうなんだ、残念だったね。あと、せめて前世は生き物にしてあげようよ」

「まあ、力は出し切れたから悔いはないかな」

「あ、スルーされた。でも、悔いが無いならよかったね」

嬉しそうにしてくれる真理。かわいい。


そうだ。今しかない。進路を聞き出すんだ。

真理とはこういう偶然でもなければ話す機会はない。

「荒木さん、進学先の高校はもう決めた?」

「うーん、大体は。」

「ど、どこ?」

「簡単に教えちゃったら面白くないなぁ。クイズにします!」

「えー・・・」

「名付けて、クイズ神崎高校!!」

「答えがクイズ名になっちゃった!!」

ちょっとズレている。だがそこがいい!!

「あはは、でもあそこすっごく難しいから今の私だと学力的に微妙なんだ。だから変えちゃうかも」

確かに神崎高校は千葉県屈指の進学校。ということは、荒木さんは学校でもトップクラスの頭の良さということになる。

「まだ確定したわけじゃないから秘密だよ」

「もちろん。拷問されても言わない」

せっかく聞き出したのだ。荒木さんのことが好きな誰かに俺が拷問されたとしても、絶対に言わない自信はある。

「さすがに拷問されそうになったら言ってもいいけど・・・」

そこまで重大な秘密じゃないからっと苦笑する真理。


それにしても神崎高校か。

どこの公立高校でも努力すれば何とか・・・と思っていたけど、神崎高校は途方もない。

今の冬希の学力は、中の上、もしくは上の下あたり。


それに対して、神崎高校は上の上のトップクラスが、1人か2人受けるかどうかのレベルだ。

受かるかどうかではなく、受けるかどうか。


これは厳しいことになってきた。

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