第24話 リミッター解除

「行くわよ、私。リミッター解除!」


 ドンッ!


 宣言した瞬間、身体から夥しい量の魔力が溢れ、誰もが視認できるほどの魔力のオーラが現れる。そのあまりの魔力の強大さに足元の地面が耐えられず、どんどんと辺りの大地を削っていった。


「我は命じる。大地を裂き、全てを崩壊せんとす彼の者の姿をここに! 全ての身体を晒け出し、宙に持ち上げ、魔力を削ぎ落とし、圧縮せよ! コンプレッション!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 先程とは比べものにならないほど大地が揺れる。


 バキ、バキバキバキ……メキョ、メキメキメキメキ……っ


 都市は完全に崩壊し、大地の裂け目から引き上げられるようにシュド=メルの全貌が現れる。

 そして地下から引き摺り出されたヤツの身体は私の魔法によって宙へと浮かんでいった。


「思ったよりデカいなー」


 さすが、大都市のエネルギー全てを飲み込んでいたのも納得の大きさである。この全貌を見たら恐らく誰もが絶望するだろう。……私を除いて。


「さて、ここからが腕の見せどころってね! これくらい討伐できなきゃ、最強の聖女の名が廃るってもんよ!」


 追加で自分の中にある魔力を注ぎ込み、あの巨体をどんどんと持ち上げながら圧縮していく。

 まるで折り畳まれるように、触手を端から順にだんだんと身体が圧縮されていくシュド=メル。


【貴様、何ヲ……ウグォオオオオ】


「動き出しちゃったか。でも、もう止められないわよ!」


 シュド=メルの拘束が解けたようで、己れの身体が圧縮されていることに気づいてのたうち回り始める。

 だが既にそこは宙の上。

 タコがもがき苦しむかのようにグニャグニャと暴れ回るしかできなかった。


「さらに小さく! さらに圧縮せよ!」


【ヤメロヤメロヤメロヤメロォオオオオ!!】


 沸騰したかのように私の身体が熱くなる。私の中にある魔力が沸々と燃え滾り、ヤツをどんどんと潰していった。


「はぁ……はぁ……あともうちょっと……っ! さすがに、このサイズをどうにかするのは、ちょっとしんどいわね」


 汗が滴る。毛穴という毛穴から汗が噴き出していた。


 これが終わったら速攻で風呂に入ってやる。

 とっておきの入浴剤入れて、たっぷり半身浴してデトックスしてやるんだから……!


 都市と同じ大きさだったシュド=メルの魔力は削ぎ落とされていき、ようやくサイズも家くらいの大きさまで圧縮した。


 あともう一踏ん張り!


【キェェェェェェェェェ!! 貴様ァァァァ! 殺シテヤルゥゥゥ!!!】


 未だに暴れ続けるシュド=メル。どうにか触手をこちらに伸ばそうと必死に抵抗していた。

 それをすかさず顕現した大剣を振り回して切り落とし、パチン、パチンとどんどんと燃やしていく。


【熱イ熱イ熱イ熱イ熱イ熱イ熱イ熱イ!!】


 再びのたうち回るシュド=メル。

 そろそろ、頃合いだろう。ここまで魔力が削げたならきっと戻っては来られないはずだ。

 私は近くにあった人間の頭部くらいの瓦礫を手に取る。そして自分の魔力を込めた瓦礫を上空に放って大剣をバットに変形させると、そのバットを大きく振りかぶった。


「いっけぇぇぇぇぇ!!」


 カキーーーーーーーーン!


 勢いよく振りかぶったバットで瓦礫を打ち、まっすぐまっすぐシュド=メルに向かって飛んでいく。


【ナ、ナ、何ダトォオオオオ!? ウガッ】


 ヤツの腹部に瓦礫が命中する。


【クククク。受ケ止メ……キレテナイダトォォォォ!??】


 シュド=メルは一瞬受け止めたと勝ち誇った笑みを浮かべていたが、瓦礫の勢いは止まらず、次元の狭間に向かってシュド=メルごと飛んでいく。

 シュド=メルは必死に抵抗するものの、既に抗えるほどの力はないためそのまま時空の裂け目まで到達すると吸い出されるように次元の狭間に落ちていった。


【マダダマダダ、マダコンナトコロデ終ワルワケニハーーーーーー……!】


「よし、ホームラン! ……我は命じる。開いた裂け目を縫い合わせ、時空の裂け目よ消失せよ! リペア!!」


 バシュン!


 素早く修復魔法を飛ばすと、時空の裂け目は綺麗さっぱりと消え、一気に静寂に包まれて何事もなかったかのような空に戻っていた。


「ふぅ。どうにか討伐できたわね。あー、怠い……」


 討伐完了したことで安堵感から一気に疲労が襲ってくる。

 想定よりも魔力を使ってしまったようで身体が重い。こんな感覚初めてで「魔力ってやっぱり枯渇するんだ」なんて今更なことを自覚する。


「シオン!」

「あー、ヴィル。お疲れ。大丈夫だった?」

「大丈夫だった? じゃないだろ! シオンのほうが大丈夫なのか!? 顔色が悪いぞ!」

「もう、失礼ね……女性に向かって顔色が悪い、だとか……」


 足元がなぜかおぼつかない。ふらふらっと身体がよろめくのを自分でどうすることもできず、倒れそうになった瞬間ヴィルに支えられる。


「あー……ありがとー、助かる」

「おい、すごい身体も熱いじゃないか! すぐに医者に診てもらわないと!」

「大丈夫ダイジョブー。まだ後処理だって残ってるでしょ? 聖女たるもの壊滅した都市をこのままにはしておけないし……」

「そんなのシオンがやらなくたって誰かがやる! とにかく早く医者のところへ!」


 なぜか視界が霞んでよく見えないが、ヴィルがなぜか泣きそうな顔をしているのは何となくわかる。せっかく魔物の討伐したのに何でそんな顔をしているんだろうか。


「ヴィルは心配、しすぎよ。私は……最強の聖女なんだから。ちょっと魔力使いすぎちゃっただけだし、こんなの……ちょっと休めば……」

「シオン!? シオン!! シオン!!!」


 ガクンッと全身から力が抜ける。そのまま私の意識はそこで途切れた。

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