裏13.『真反対の剣士』

 ユウヤたちが魔王軍幹部レジーナとの戦闘を繰り広げてる頃。王都内では、魔王軍の幹部が攻め込んできたことで国民は皆、城内へ避難指示が出されていた。とっくに、辺りは人の気配はしない。

 それに比べて、外は大人数が集まっている。魔王軍の軍勢を迎え撃つための万全の態勢を築くためだ。魔王軍には現全勢力をぶつけなければならない。


 しかしこの男は未だに王都内でその力を持て余していた。

 本来、騎士であるこの男は誰よりも早く戦いの場に出向かなければならない。なのに、今この場にいる。しかしそれには、それなりの理由があった。


「まいったな。まさか、お前たちがこんなところに現れるなんてね」


 この男、ライドはある者と対峙していた。その者は大人しく通してくれそうな様子はない。ライドが見つめる先には黒装束を来た、一人の男が立っていた。男は剣を腰に掛けている。見た目でわかるようにこの男はライドに戦闘を仕掛けようとしているのだ。


「お前たちというのは間違いだ。オイラは一人で貴様と対峙している」


「それが嘘という可能性は?」


「魔王様に誓ってそれはない。それにこれはオイラの一存で動いている。貴様が魔王軍の邪魔にならないよう、死守するためにな」


 男は黒装束のフード部分を脱ぎ、その素顔を晒した。男、正しくは少年は威勢を張り、少年の朱の髪と同じような意思を感じる。


「君がどれだけ鍛錬を積んでいようと、僕の剣術には敵わない」


「ライド、貴様は自分が一番強いとでも思っているのか? なら、それは間違いだ」


 少年は剣を抜き、構えの姿勢をとる。


「オイラはクロード・ウェストン。魔崇教、司教の一人だ」


「っ! やはりね。しかし、君はまだ若いのに司教か。でも、それなら見逃すことはできないな。できれば、生け捕りにしたいところだけど、素直に言うことは聞いてくれなさそうだしね」


 魔崇教司教。それは魔崇教内でも、特に魔王軍への忠誠が高い者に授けられる肩書きだ。大きな権力を持つ者たちで、魔崇教の活動の主犯格の者たちだ。司教の人数は未だ、調査が進んでいないが複数人いるというのはわかっている。中にはそれなりの手練れもおり、死者も多数出ている。謎の怪奇事件もいくつか司教が絡んでいるのではないかという噂もある。魔王軍とのコンタクトを行なっており、魔崇教の行動は全て魔王軍が管理している。そのため、生け捕りにすれば魔王軍の情報を掴める可能性が高い。

 しかしこの男、クロードは魔王軍への忠誠が大き過ぎる。生け捕りにしたとしても、死ぬ間際になったとしても、一言も話さないだろう。


「オイラも元は剣を極めていた者だ。それなりに戦える。簡単には伏せないぞ」


「なら、全力で捻じ伏せるのみだよ」


 お互いに剣を構える。ずっしりとした剣の重みが緊張によって更に重く感じる。そして、王都の壁の向こうで聞こえてくる地鳴りを合図にクロードが仕掛けてきた。


「くっ……!」


 重い剣撃がライドを襲う。早すぎて見えなかった。とっさに剣がガードしたが、身体に負担がかかり過ぎている。


「どうしたんだ? 貴様はその程度か? 『ラバンの殺魔鬼』!!」


 続いて剣撃を繰り出してくる。二度目からは動きに付いてくることはできたが、それでもクロードの凶刃は止まらなかった。

 こちらからの攻撃ができない状態になっている。早くユウヤたちのいる戦場へ向かわなければならないが、相手は魔崇教の司教。そう簡単には倒すことはできない。もとより、このクロードという男は剣の腕も立ち過ぎている。ライドを押しているのがその証拠だ。


「一の太刀『弧雷斬こらいざん』!」


 縦に弧を描き、一時ではあるがクロードを退かせた。


「貴様は強くはない。だが、剣撃の威力は高い。敵であるというのが口惜しい」


「君こそ、一つ一つの攻撃が重い。僕でさえも耐えるのに必死だった」


 お互いにお互いの剣技を褒め合い、自分との相違点を認めている。だが、それは逆に自分にできることを誇らしげに語っているのと同じだった。


「だがな、貴様はここで敗北する」


「それはどうか、なぁ!」


 ライドは隠していた投擲武器を投げ、クロードの攻撃を一つ減らす。投擲武器を弾き、ライドに剣を振り下ろす一瞬の間にクロードに間合いを詰める。


「二の太刀『爆雷ばくらい』!」


「何を、……!」


 ライドが雷を帯びた剣を地面に叩きつけると、爆発が起こった。この国の地面は石材で舗装されているため、地面で爆発が起こると石片が飛び散る。これを利用し、クロードに少しでも手負わせるつもりだ。


「中々、やるみたいだがオイラはそんな小細工じゃ、やられない」


「くっ……! 七の太刀『雷凍らいとう』!」


 剣を振ると先程と同じ雷が出たが、少し違う。凍てつく冷気を出しながら、斬撃を飛ばすのだ。クロードの左腕に切り傷を付けることはできたが、大きな傷にならないように避けられたため、小さく凍っただけになった。

 異様な光景にクロードは一瞬、目を丸めたがそれは本当に一瞬でしかなかった。


「へぇ、凍る雷の斬撃か。面白いものを見せてくれる。奇術師か何かに転職した方がいいんじゃないか?」


「余計なお世話だよっ!」


 続けて斬撃をお見舞いする。しかしクロードはまだ若い。そのため、軽い身のこなしでかわす。

 剣の腕と軽い身のこなし。この二つは非常に厄介な組み合わせだ。


「『ラバンの殺魔鬼』がこんな弱っちい技しか出せないわけがない。貴様、手加減とかしてるんじゃないのか?」


「そんなわけがない。僕はいつでも全力で戦ってるよ」


 クロードの方が技量が上なだけだ。ライドは威力は常を逸しているが、技量に関してはまだ甘い。その点、クロードは剣の扱い方が常を逸している。だが、威力はライドには及ばない。

 威力と技量のぶつかり合いが起こっているのだ。


「なら、オイラの剣技について来れるか?」


「無論、君こそ簡単に僕の剣に潰されないでくれよ」


 剣を交わし、お互いの力量を測ったところでラバン王国ストリート街の剣戟はセカンドラウンドへ移る。

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