11.『いい感じの雰囲気』
国王から『魔道具店アロリナ』に向かえ、と言われ、地図通りに来たのだが、想定外のことが起きていた。
「この魔道具店って、こんなに繁盛してるものだったのかよーー!?」
店には朝早くにも関わらず、長蛇の列ができるほど人がいた。見た感じでは剣を腰に据えた人やお年寄りが多い。
魔道具店というだけあって、薬草や漢方で人気のようだ。
二時間近く並び、ようやく、店の中に入ることができた。
店内は薬品コーナーや魔鉱石コーナーなどの普通の商品が並べられているが、国王は前に関門を魔王軍に占拠されていると言っていた。そのため、輸入などが追いついておらず、こういう魔道具を必要としている人たちの需要がこうした長蛇の列を作っているのだろう。
「あ、ユウヤさん!」
俺がまじまじと商品棚を見ていると、カウンターの方から聞き慣れた声がした。
「おお、メリナ。やっといたよ」
一通りの挨拶を済ませ、メリナは浮かない顔になる。
「昨日の傷、大丈夫ですか? 私、何もできなくて、迷惑ばかりかけてしまって……」
そんなことを気にしていたのか。だから、早く城を出て行ったのか。
「別にメリナは迷惑なんてかけてないし、傷もほら、この通り」
俺はジャンプして元気なことを見せる。
しかし、痛みは取れていない。なので、神経の至る所が痛みを感じる。
「それでさ、言いたいことがあったんだ」
そう言われ、メリナは小刻みに揺れながら俺が何を言うのか心待ちにしている。ここはあまり溜めない方がいいな。てか、可愛いな。
「助けてくれてありがとうな。メリナがいなかったら、多分死んでた」
「そんな。私は何もできてないですよ」
「いや、そんなことねぇよ。メリナがミノタウロスの足止めをしてくれたから倒せた。師匠と俺だけじゃ、力不足だった」
メリナが顔を赤くし、目を逸らす。
「……そういうことにしておきます。……それで他に用があって来たんじゃないですか?」
自然な感じで話が終わらせられた。やっぱり脈はないのかな。
とりあえず気持ちを切り替え、本題に移る。
「俺、滋養効果のある漢方薬ってのを国王に言われて取りに来たんだ。あるか?」
「うん、あるよ。倉庫にあるから取ってくるね」
そう言われ、メリナは店の奥へ消えていった。メリナを待つ間にもう一人カウンターの方にいるのに気が付く。
「あの~」
「はいぃ、なんでしょうかぁ」
何かゆったりとした喋り方をする女性だ。
「あなたはここの店員さんですか?」
「う~ん、店員というよりぃ、店長ですかねぇ」
「全く見えねぇ」
つい本音が出てしまった。
見た感じは腰まで伸びたぐしゃぐしゃの髪にメガネをかけた胸の大きい女性だ。あと、服が軽装過ぎる。目のやり場に困る。
整えられていない髪からも店の長を務めるには似合わない風体からは考えにくいものだった。
「よく言われますぅ。友達からももっと身綺麗にした方がいいって、素材はいいんだからってぇ。だから、まずは伊達メガネだけでもってぇ」
伊達なのかよ。
「俺もそう思いますよ。あなたは外見はかなりいいのであとは服装とかを清楚にすればポイント高いですよ」
「ありがとうございますぅ。参考にさせてもらいますねぇ」
俺、何言ってんだろ。口説いてるのか、バカにしてるのかどっちかにしろよ。アホなのか? アホだな。
「ユウヤさん、アロエ。何してるの?」
わけはわからないが、何か殺気のような鬱のオーラを放った、いや、冷気を放ったメリナが倉庫から戻ってきていた。
店内が急に冷やされたことで店内にいた客はみんな、外へ逃げてしまった。
「あ、メリナぁ~。この人、ユウヤさんって言うんですかぁ。メリナの知り合いでしたぁ? メリナがいなくて寂しいからこの人と話をしてたんですぅ」
アロエは素直に俺とのことを話した。もちろん、後ろめたいことは一つもない。はず。
「そう。ユウヤさんは私の恩人なの。ほら、前に話したでしょ? 荒くれた男たちに襲われていたときに助けてくれた人がいたって」
「あ~、ありましたねぇ。たしか、ライド殿下といた人でしたねぇ。ライド殿下よりその人の方が話が長かったので覚えて、むぐっ!」
突如、メリナがアロエの口を塞ぐ。
「それ以上は互いの幸せのために話さないでおこうね?」
なんか怖い。口止めの言葉が怖い。
なんかアロエが呼吸できなくて堕ちそうだからやめたげて。それ以上はやめたげて。
「はい」
アロエのゆったりとした話し方が消えた。相当、効いたのだろう。
メリナの怖い一面を垣間見た気がする。
「それで、ユウヤさん。言ってた漢方薬持ってきましたよ」
「ありがとう」
でも、メリナは優しいな。言ったことを素直に受け止める。だって、見た感じ、漢方薬を倉庫にある在庫分全部持ってきてるもの。
「一つで良かったんだけどな」
思わず笑いをもらす。
俺が笑ってるのを見たメリナも笑いが溢れてきた。
そんな二人をアロエがジッと見つめる。
「なんか二人共いい感じの雰囲気ですぅ」
アロエがボソッとそんなことを言ったが二人の耳には届かなかった。
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