個性豊かな異世界召喚

佐原奏音

第一章 『始まりの一ヶ月』

1.『平凡な日常との別れ』

 太陽がジリジリと照らす暑い夏の日。

 蝉の鳴き声が響き渡る学校の帰り道には夏休みだとはしゃぎながら小学生たちが帰っていた。

 俺、ムクノキ ユウヤは今年十七歳になったばかりの高校二年生であり、そこそこの学力で、運動神経は良くも悪くもない、平凡な高校生だ。

 しかし、小学生と同じように俺も夏休みが嬉しくて内心かなりウキウキしてしまっていた。

 その様子を隣を歩く親友は何かを察し、引いているようであったが……。


 家に帰り着き、リビングへ行くとエアコンで冷え切った空気が俺の肌を撫でた。

 しかし、外が暑すぎて涼しく感じる。ソファーを見ると先に帰っていた妹が棒アイスを食べながらテレビを見ていた。


「おかえり、ユウ兄。それと、……もしもし警察ですか。家に怪しい人間が上がり込んできました」


「ちょっとぉ、ユミちゃん!? 俺、今何か悪いことしたかな!?」


 妹が耳にスマホを当て、警察への救援要請をする。それに親友は自身の行いを振り返る。


「ユミ、警察沙汰になるのは御免だから辞めてくれない?」


 冷静に静止の言葉をかける。妹はその言葉を聞き入れ、スマホを下ろした。

 この二人は俺の大事な妹のムクノキ ユミと親友のイガラシ タクミだ。


 ユミは他では珍しく、俺のことをユウ兄とちゃんと慕った名で呼んでくれる。

 他の家庭の妹は兄を呼び捨てにしたり、暴言を吐いたりしているのが多いらしい。

 だが、俺は幾度となく思った。ソイツ等は妹の育て方を間違えたのだと――。

 ちゃんと毎日優しく接してやれば、どんな兄でも長年一緒に暮らしている妹は兄を理解し、慕ってくれる。ユミはとても良い子に育った。

 しかし、たまに毒を吐いてくる。


 タクミは俺とは幼い頃からの付き合いで家が隣の同級生であり、俺の親友でもある。タクミには兄弟がおらず、一人っ子だが、俺とユミを本当の兄弟のように思っている。

 少し、楽観的な態度をとることが多いが、この中で一番の大人はおそらく、タクミだろう。いざというときにとても頼りになるのがタクミのいいところだ。

 しかし、ユミ同様、たまに毒を吐いてくる。


 そんな二人だが、長年一緒にいるのに、ユミは理由もわからず、何故かタクミのことを毛嫌いしており、俺は何度も手を焼かされている。

 幼い頃はよく甘えてきたのにコレも思春期と言うやつなのかな。

 ユミがタクミを足蹴にしているが、俺にとってそれはいつも見慣れた光景だ。

 可愛い娘に踏まれて羨ましいなと思いつつ、俺は木造の階段を上がり、自分の部屋へ入った。


 部屋は窓際に勉強机とベッド、クローゼットの横にテレビや収納されたゲーム、壁には中学の頃好きだったアニメのポスターが貼られてあるだけだ。

 ……と言いたいところだが、俺は家事スキルが乏しく、料理、洗濯、掃除、どれも上手くこなしたことは一度も無い。

 なので、実際は先程の説明に加え、床は衣服や飲みかけのペットボトルなど片付けるべきものが散らかっており、ずっと引きこもり生活を続けていたかのような有様だ。

 俺は自立できる、いや、しなければならない年ではあるが、自立ができないのは一人だと色々とやらかしてしまうからだ。一人で無くとも、やらかしてしまうこともあるけど……。

 しばらくして、ユミとタクミが冷えた炭酸ジュースと薄塩味のポテチを持って部屋に入ってきた。


「ユウヤ……お前、いくら絶望的に女友達がいなくて、男友達も数人しかいないからと言っても部屋くらい片付けろよ」


 タクミが悲しそうな目で俺を見て言う。


「お前、部屋に入って最初の一言がそれかよ!? てか、親友を友達の少ない、コミュ障童貞を見るような目で見るなよ!? 事実に限り無く近いけど俺にだって女友達の一人や二人普通にいるからな!?」


「いや、そこまでマジレスされるとちょっと引くわ」


 タクミが引きつつ持ってきた物を置いた。その横で俺は渋々、部屋を片付けた。

 それで済めば良かったが、さらなる毒の矢が俺に目掛けて飛んできた。


「ユウ兄の女友達って、近所の小学生のことだよね」


「おい、それ言うなよ!? もう終わってよかった感じだっただろ!?」


 俺は何故か昔から小さな子に懐かれやすい体質だった。

 それ故に近所の奥様方から小学生ホイホイ、ロリっ子ハンターなどと呼ばれ、遂には学校で小学生を誘拐しようとしている高校生がいると噂になっている。


 その名は伊達じゃなく普通に外を散歩しているだけで小学生が寄ってくる。

 そのせいか同年代の友達より小学生の知り合いの方が多くなっている。

 ユミからは小学生たちに同類だと思われているんじゃないかと言われたことがあるが、それを信じたくなく、小学生たちから距離を置いていた。

 それでは脳が小学生と同レベルだと言っているのと同じと思ってしまったからだ。


「お前の悲しい友人関係は置いといて早く全クリしちまおうぜ、マジックライフ。あと無属性だけだろ?」


 俺を貶す時のみ息が合う二人があまりに理解不能だ。いつもはいがみ合っている(主にユミ)くせしてタッグを組み、酷い扱いをする。

 本当に仲が良いのか悪いのかわからない。


「ゲームはやるけどお前らホント、俺に何の恨みがあるの?」


 マジックライフはRPGゲームの一つで四年前に中古屋で一つしかなかったのを見つけた。興味本位で買い、簡単にプレイしてみたがすぐに敵モブに殺される。いわゆる、クソゲーだった。


 しかし、そのゲーム内容は面白かった。

 十の属性から一つ選び、魔王とその幹部を倒していくだけのゲームだが、属性一つ一つが難しく中々魔王を倒すことが出来ないのだ。


 それにストーリーがかなりラノベに近い構成になっていきそこがまた良かった。

 俺たちは十の属性を全てクリアすれば、何か特別なことが起こると説明書に書かれていたため、何気にずっと進めていたのだ。いかにもクソのような内容のゲームだが、とっくに九の属性をクリアしている。

 人気の無いクソゲーをクリアしてやるのが楽しみという特殊な趣味を持ち合わせている、それが俺たちだ。

 全クリを目指すために夏休みを費やすという非生産的な夏休みの過ごし方だが、ユウヤたちにとっては有意義な過ごし方であった。


「まぁまぁ、気にすんなって、楽しければいいんだからよ」


「俺は遊ばれた気分なんだが」


「よし! やるか!」


「おい、会話しろよ」


 無視されるのって、結構寂しいものなんだぞ。


    ※     ※     ※


「……よ、ようやく終わったぁ」


「もう、マジで眠い。一つやるだけで何でこんなにかかるかな」


 もうどれくらい時間が経ったかわからない。

 時計を見ると時針は六時二十三分を指していた。

 今は朝と夜のどちらだろうか。外は明るい。お天道様は既に昇っている頃だ。

 かなりの時間やり込んでいたようだった。その証拠に瞼がとても重く感じていた。加えて、取り憑かれてるように体がダルく感じる。夏休みだからといってハメを外し過ぎた。


「温かいベッドにダイビングしたいな」


 タクミには泊まりでプレイしてもらっているが、さすがにそろそろ家に帰らせたほうがいいかもしれない。


「タクミ、そろそろ帰るか? 親とかも心配してるだろうし」


「いや、大丈夫だ。クリア後の物語とか気になるし、親も一週間ほど旅行に行ってくるって言ってたからな」


「そうか、だけどまぁ……」


 俺はその場で毛布に包まりながら考えた。

 俺たちはクリア後の物語をまだ見ていない。

 しかし、四年間も待ち続けたがまず先に俺たちにはやることが残されていたそれは……。


「「「プレイする前に一旦、寝よう」」」


 全員が一致した。

 瞼を閉じるとすぐに眠る姿勢に入った。体は一気に力が抜け、目の前は暗い。だんだん意識が途切れていく。

 まるで、違う世界に入っていくように。


    ※     ※     ※


 暗い。浮遊している感じもする。宇宙にいるみたいに感じる。何だか気持ちも少し落ち着いてくる。


「……て!」


 暗い何も無い世界に何かが聞こえる。


「……ミ……きて!」


 また聞こえた。

 だが、よくは聞こえない。

 まだ頭が目覚めきっていないのか声が途切れて聞こえる。

 人が気持ち良く眠りこけていたのに起こそうとするとは失礼極まりないな。 

 俺は二度寝の姿勢に入る。

 しかし、その声は俺を眠らせてはくれなかった。


「キミ! 起きて!」


 今度ははっきりと聞こえた。まだ重い瞼を小さく開くと白い空間に立っていた。それに驚き、一気に目を見開いた。

 しかし、この空間にはオフィスチェアと机しかない。


(ここはどこだ? 俺の夢の中か? 今の声の主は?)


 辺りを見回してもその声の主はいない。


(何だったんだ、今の声は?)


「キミ! ようやく起きてくれた? 私の言っていることがわかりますか?」


(どこから聞こえてるんだ?)


「って、キミ! 私のこと視認してないな! あーもう、キミ! 下を見て!」


 言われたとおりに下を見ると小さな女の子がいた。

 髪はおさげの目立つ金で目は碧眼、幼さを残したクリっとした目に色白で少しばこり露出が多い服装ではあるが、育ちの良さそうな可愛らしい顔立ちをしている。


「やっとこっち見たね。これ翻訳できてるのかな?」


(なんかわけのわからないこと言ってるんだけど。翻訳? 何か機械を使っているようには見えないが。え、話しかけても大丈夫かな。とりあえず適当に返さないとな)


「あの~、翻訳ですか? できてると思いますよ」


 話しかけてあげると、ほっとしたように息をついた。それからキリッと気持ちを切り替え、こちらを見た。


「それならよし! じゃあ早速だけど自己紹介から始めるわね。私の名前はレアミール。周りのみんなは、私のことをレミと呼ぶわ。まぁ、キミの世界で言うところの神様よ」


 神様、そう言われ、すぐには理解できない。神様というものは身近に感じないものだからだ。

 それにまだ夢の中ではないかと思ってしまう。

 夢の中であればなんでもアリだと思ってしまっているからだ。


「えっと、僕はユウヤだよ。気軽にユウヤお兄ちゃんって呼んでね、レミちゃん」


「ちょっと、私これでも神様なんだよ!? 確かに背は小さくて幼く見えるけど、私、キミより長生きしてるから! あとレミちゃんって言うな! 普通そこはレアミール様でしょ! って頭撫でるな!」


(可愛い。何だコレ。可愛いの集合体かよ)


 語彙力を失うほどの可愛さに頭を撫でる手を止められなかった。

 しかし、次の瞬間。


「いい加減にしろー!」


 レミちゃんの手のひらが淡い青の光を放ったと気付いた時にはもう遅かった。


「どぉっ……!?」


 一瞬のことだった。

 何が起こるのかわからないままレミちゃんの頭を撫でていると、重たい衝撃がみぞおちに当たり、俺は床に転倒してみぞおち辺りを押さえた。


「何……だ……何が起きた?」


 夢なのに痛みを感じる。ハンマーで殴られたかのような痛みだ。

 今まであまり腹筋を鍛えていなかった自分を悔やんだことは初めてだった。


(もしかして薄々、思っていたけどコレって夢じゃないのか? いや、でもそんなことあり得るのか?)


 今まで感じていた疑問が痛みと共に溢れ出してくる。

 そこへレミちゃんが声をかけてくる。


「キミねぇ、私を小さくて可愛いだけの女の子だと思わないことね。神様なんですから、……で、落ち着いてくれた?」


「……ハイ」


 自らを可愛いと言っているがそこには触れないでおこう。またあんな痛みをくらうのは嫌だ。

 逆らうのはやめといた方が良さそうだな。しかし、これだけはなんとしても許してほしい


「あの、せめてレミちゃんって言うのは許してもらえると嬉しいな。見た目が少女で可愛いし」


 俺は羞恥心を捨て、愛くるしい目をして言ってみた。


(許しを貰えるのなら何でもしてやる)


 周りから見ると酷い光景であった。

 地に膝を付き、レミちゃんより下の目線になって目から俺の気持ちを伝えるという、幼女に媚びている光景だ。

 誰が見ても酷いと思う。


「うぅぅぅううぅぅう……、いいわよ! もう! その呼び方でいいからそんな目をしないで! 気色悪いから!」


「やったー!」


 散々、悩んだ末に許しをもらえた。

 気色悪いと言われたのはちょっと悲しいが。


(良かった。だってこんな可愛い子にちゃん付けできないとか苦しすぎる)


「ねぇ、そろそろ本題に入りたいんだけど。前置きが長いわよ」


「あぁ、ごめんごめん、いいよ。それで、僕に言いたいことって何かな?」


(さすがに遊び過ぎたな。そろそろ話を聞いてあげるか)


 ワクワクしながら聞くと、レミちゃんは少し本気の顔になり、俺の顔を真っ直ぐ見ると、何かを覚悟するかのように告げた。


「キミ、……世界を救う勇者になってくれない?」


「……は?」


 不思議な白い空間にいきなり現れた謎の少女に世界を救う勇者になってくれと言われた。

 普通の生活を送っていて、勇者になってくれと言われる機会があるだろうか。いや、あるわけが無い。


(俺が世界を救うとか、そんなの……)


「……そうよね、いきなりそんなこと言われても困るでsーー」


「めっちゃ楽しそうじゃん!」


「……え?」


(世界を救う勇者? そんなのやりたいに決まってるじゃん。俺、そういうラノベ展開めっちゃ好きなんだぞ。しかも、そんな面白そうなこと、人生で一度あるかないかだぞ。断る理由が何処にあるんだ。断る奴はそうとうつまらない奴なんだろうな)

 

 俺はレミちゃんに期待の眼差しをやると驚いていた顔をしていた。


「どうしたの……?」


「いや、大抵の人は断っちゃうからまさか了解を貰えるとは思ってなかったの。それにそんなにはしゃぐほど嬉しいだなんて、キミ、相当な物好きね」


「そんなにおかしいことなの?」


 レミちゃんの方から勧めてきたのにその反応はおかしい。何か裏があるように見える。そこで、質問をしてみた。


「ねぇ、レミちゃん。勇者になるのは良いけど、なったら俺が困ることがあるのかな?」


 それを言われ、レミちゃんは何かを思い出したようだ。やはり何かあったようだ。


「あー、先に言っておくべきだったわね。えーと、勇者になったらね、異世界に飛ばされるの。そこで魔王とその配下たちを倒してほしいの。それで困ることっていうのはね、魔王を倒すまで元の世界に帰れないってことなの」


(元の世界に帰ることができない? それじゃあ、魔王を倒すまで元の世界にいるユミやタクミに会えないってことか? だとしたら勇者になるのはここで諦めるのか?)


「あ、キミの妹さんとお友達もこの後勇者に誘うつもりだから安心していいわよ。キミたちはあのゲームをクリアしたからね。それに時間軸もキミたちの世界と異世界は時間の流れが違うから元の時間帯に戻すことができるわ」


(それなら良かった。ユミたちも誘うなら勇者になってもいいな。……今、俺の顔を見ただけで不安要素を言い当てなかったか?)


「それはね、私がキミの頭の中をよんだからよ。でも怒らないないでね。これはプライバシーの侵害じゃなくて、神様の特権♥」


「え、何それズルい」


(頭の中を読めるとか何だよそれ、羨ましい。それがあれば相手が何を考えているかわかるじゃないか。勇者になれば習得できるかな。そういえばレミが俺の頭の中を読んだ時、眼が紫紺に輝いていたような……)


 そんなことを思っていると、一つの疑問が浮かんだ。


「ユミたちも来るのなら安心なんだけど、さっき言ってたマジックライフをクリアしたから勇者になれるってのは?」


(ゲームをクリアしたから勇者になれるなんて夢ならばあり得るかもとは思ったが、あの受けた痛みから考えて夢ではないことは確信している。そもそも夢にしてはちょっと俺が気が利く言葉を言えてない気がする。それに俺はもうちょっと背が高いはずだし)


「よーく、考えてみてね。考えたらわかることだと思うわ」


(教えてくれないのかよ。自分で考えろってかクソ、まったくわからん。妙なところで悪知恵が働くのが俺の才能だろうが、レミが今まで言っていたことを思い出せ)


 レミの言動から現状、わかることは四つ、一つ目は勇者は複数人必要だということ。

 二つ目は勇者になる条件は俺たちがやったゲームが関係していること。

 三つ目は異世界があること。

 四つ目は異世界には魔王とその幹部がいることだ。

 わからない。

 何がこの四つを繋いでいるのか全く思い当たらない。


(マジックライフは魔王はいるが、勇者が複数人必要なことなんて無いはず……。いや、マジックライフは十の属性。十ってことは単体では無い。つまり……!)


 わからない点を全て繋げてみたら、一つ思い浮かんだものがあった。

 しかし、普通はわからない。

 こんな発想に追い付くなんてこと一般的な人間には難しい。

 


「異世界ってマジックライフの中のことか?」


 それ以外は発想が追いつかない。間違っていると悪いが、レミちゃんは満足したように微笑んだ。


「ご名答、流石ゲームをクリアしただけはあるわね」


(その顔がまた可愛い)


「あのさ、具体的にマジックライフと異世界の繋がりって何なの?」


 なぜ、マジックライフと異世界が同じなのか、そこが一番の謎である。


(さすがにこれは教えてくれるはz……)


「向こうの世界の人が教えてくれると思うから、その人たちから聞いてね」


(……この幼女意地悪だな。その性格の女の子は大抵何らかの罰を受けるものだがレミはこの身長の低さが罰になっているのか?)


 チラ見するとレミちゃんの瞳は紫紺に輝いていた。そしてまた小さな掌が淡い青の光を帯びていた。


「あ、えっと、きゃーレミちゃんかわいいー。……その、優しくしてね」


 レミちゃんは少し闇を感じる笑顔で「大丈夫、痛くないわよー。すぐに終わらせるからー」とは言ったが、その笑顔が俺の最初にくらった、あの恐怖のスイッチの引き金となった。


   ※      ※      ※


 また同じ過ちをしてしまった。レミちゃんは言っていた。頭の中を読めると、すっかり忘れていた。その能力があれば相手が何を考えているかわかってしまう。どうやらレミちゃんの瞳が紫紺になった時は頭の中を読まれているらしい。


(気をつけなければ即アウト。人は二度も同じ目に合っていれば攻略方法は必ず見つけられる生き物だ。まずは……、)


「身分をわきまえずアホなことを想像してしまい、誠に申し訳御座いませんでした!」


(土下座をする。友達が言うには俺の土下座は綺麗すぎて見事な土下座らしい。土下座なんて人生でほとんどしたことが無いのに、土下座慣れしていると言われたことがある。

 そして頭の中を読まれるなら、頭を謝罪でいっぱいにすればいい。子供っぽい発想だが、今はこれしか方法が無い)


 ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ。


「……」


 瞳が青くなっている。頭の中を読んでいるようだ。


「いいわ。許してあげる。嘘はついていないみたいだしね」


(良かった、許してもらえた)


 許してもらえなかったらどうしようかと思ったが、その心配はいらなかったらしい。てか、こんなので許してもらえるのか。


「ちょっとからかっただけなのに、あの言いようは酷いんじゃない?」


(あら、理不尽。それに段々、口調がユミに似てきたな)


「ま、まぁ、とりあえず異世界とマジックライフの繋がりは何?」


「あのゲームはキミがさっき言った、異世界の中というよりかは異世界を模したものなのよ」


 そう言われてもはっきりとはピンとこない。


「えと、それってつまり?」


「あのゲームはキミが今から行く異世界のチュートリアル的なもので、あれは私たち神々が創り出した試練だったのよ」


(なるほど、勇者になる器かどうか試したわけか)


「まぁ、アレは完全に異世界をそのままそっくりゲームに組み込んだわけじゃなくて、プレイヤーの発想能力を試していただけなの」


「どういうこと?」


「キミ、さっきから本当に勘が悪いわね」


(……悪かったな、勘が悪くて)


 可愛い幼女に悪口を言われると余計に心にくるものがある。


「魔法は具体的なイメージが大事になってくるの。だから、発想能力の無い人は異世界に行っても魔法なんて使えずにすぐに魔物に喰い殺されちゃうわ」


「何それ、何も出来ずに殺されるとか怖すぎるだろ」


「ちなみにさっき私がキミに撃ったのが魔法よ。私が使えるのは無属性と聖属性と氷属性、それから雷属性も使えるわ」


「おお、魔法か。やっと来たなファンタジー」


「さっきのは氷属性の魔法で作った小さな氷柱ひょうちゅうで、威力は死なない程度に抑えて撃ったんだけど、どうやらキミには利きすぎたみたいね」


(あれで抑えてたのかよ。マジで殺しにかかってきてなかったか?)


 レミちゃんは呆れたように言うが、あれは人に対する攻撃では無かった。あれで先が鋭利になっていたら、俺を貫いていたことだろう。


「魔法ってどうやって使うの?」


「えーとね、魔法は十種類の属性があるのは知ってるわよね」


 もちろん知っている。あのゲームをやったのだから知っていて当然である。

 俺は首を縦に振った。


「キミたち勇者は十人いてね、全員あのゲームをクリアした人で今のところは七人の勇者が出揃っているの。各属性に適した人を向こうの世界の魔道具が選ぶからそれに従って。魔道具の示したことに間違いはないから」


(十の属性を一人ずつ分けるのか、ん? ちょっと待てよ)


「ねぇ、各属性に一人ずつならそれってその一つ属性しか魔法は使えないの?」


「え? うん、そう」


(マジかよ、俺、色んな魔法使いこなしたかったんだけどな。せめて、無属性だけは俺だけには来ないでほしい)


 俺は無属性をプレイしたからわかるが、かなりクリアするには手間がかかる。

 それ故にクリアするのに時間がかかってしまった。無属性は種類が豊富なのだが、攻撃性のある魔法はあまりない。だから、難しい。


「あ、でもその属性だけ威力向上とか、勇者だけの新たな魔法を開発して戦いに応用出来たりとかするから大丈夫よ」


 そうで無ければ、もう勇者はいらないことになる。普通の国の騎士や魔道士で充分だ。


「魔法は体内にある魔力を使うんだけど、魔力は人それぞれ量が違うから優劣があるの。まぁ、魔法の詳しい使い方のは向こうで聞いて」


 レミちゃんは魔法の説明が終わり、小さなため息をこぼし、俺を見た。


「それでそろそろ時間も無くなってきたわね。早速、キミを送りたいんだけど、準備はいいかしら」


(俺が世界を救う勇者か、なってはみたかったけどあまり姿が想像できないな。どんな勇者になれるのだろうか)


 不安ばかり思い浮かんでくる。

 しかし、もう決まったものは仕方がない。


「ああ、大丈夫」


 既に覚悟は決まっている。ならば、行く他無いのだ。


「それじゃあ、いくわよ。『テレポート』!」


 魔法のかけ声と共に俺の足元に巨大な魔法陣が現れた。魔法陣から出た光に包まれ、少しずつ体が光に飲み込まれ、消えていった。異世界へ転送されているのだろう。


「レミちゃん、俺、必ず魔王を倒してみせるから! そこで俺の勇姿を見ててね!」


「ハイハイ、それじゃファイト」


「あと、ちゃんと身長伸ばすために牛乳飲んでおくんだよ! 早寝早起きも大切だからね!」


「余計なお世話よ! キミは私の保護者かなんかなの!? そんなの良いから世界救ってこい!」


 レミちゃんのツッコミを受けつつ、俺が手を振っているとそこからは先は光に包まれて何も見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る