第4話 その小さな手を守りたいから


 そうして僕がダンジョンでリアラを拾ってから、半月が経った。


 晴れて冒険者となった僕たちは短期間で目覚ましい成長を遂げていた。

 目の見えない彼女を命の危険に晒してしまうのは不安だったけれど、それは杞憂だった。


 恐怖なんかよりも、リアラは見えることの喜びと好奇心に溢れていた。

 勇敢にモンスターへ攻めていく姿は、僕よりもよっぽど冒険者らしかった。



 それに彼女の祝福の力はあまりにも強大だった。


 全てを切り裂く魔法の剣を。

 何者も拒む頑強な鋼の盾を。


 僕が状況を『コネクト』で伝え、リアラが『創造』した武器で打破する。

 僕と手を繋いでいる間の彼女は、文字通り無敵だった。


 もちろん、戦闘技術はつたなかった。だけど彼女の祝福はそれを補って余りあるほどに強大なのだ。生み出された武器も使っていくうちにどんどん洗練されていき、今では伝説の武器でもあっという間に量産されている。

 あの不細工な真っ黒土偶も、今ではゴーレムとして僕らのダンジョン探索に一役を買っている。



 かくして冒険者としての生活にもだいぶ慣れた僕たちは、遂にミード神薬が眠るダンジョンへと向かうのであった。



「大丈夫か、リアラ」

「平気です。メージュさんがこうして手を握ってくれているので!!」

「……ああ!! 絶対に手を離すなよ」


  そこでも数々の困難に襲われた。けれど、僕たちが歩みを止めることは無い。

 モンスターやトラップを次々と退け、何日もかけて着実に進んでいく。



 過去の僕では到底辿り着くことのできない高難度のダンジョンだ。

 震えあがりそうな恐ろしいモンスターも、彼女が隣りに居れば僕は戦える。

 一人じゃないということが、こんなにも勇気をくれるとは。


「危ないっ、右だ!」

「盾よ、護ってっ!!」


 今の弱い僕じゃ彼女の盾にはなれないけれど、目の代わりにはなれる。僕にも彼女を護れるんだ――!!


 ……でも、もし僕たちがエリクサーを手に入れたら?

 彼女の目が見えるようになったら、僕はどうなってしまうのだろう。

 また独りぼっちになってしまうのかな。


 それはなんか嫌だな。

 僕も彼女の家族の一人になれたらいいのに……。




 こうして攻略開始から四日ほど経った頃。

 僕たちはダンジョン最後のフロアに辿り着いた。


 最奥の祭壇には神像が鎮座している。

 これに祈りを込めれば、めでたく目標達成だ。


「やっとついた……」

「やりましたね、メージュさん!!」


 ここまでの苦労を思い出し、僕たちは抱き合って喜んでいた。

 最初の頃は手を繋ぐのさえちょっと恥ずかしかったけれど、同じものを見て過ごしてきたせいか、今じゃまるで夫婦のようだ。


 ともかく、これで念願のエリクサーを手に入れられる。

 リアラの目も治せるんだ――



「クハハッ!! 『創造』の祝福がここまで強力とはな。創造の女神と不老不死のエリクサー、俺に譲って貰おうか……!!」

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