千三話 約一分

戦争に関する話を終えた後、アラッドたちは国王に誘われ、共に昼食を食べることとなった。


昼食の間、国王はアラッドたち三人に対し、どのような冒険を送っていたのか尋ね続けた。

少人数での食事ということもあり、アラッドたちも比較的緊張せずに美味な食事を食べ、会話を楽しむことが出来た。


「アラッド君、少し良いだろうか」


「はい、なんでしょうか」


そして昼食後、アラッドたちがひとまずパロスト学園に向かおうと考えていたところに、護衛として王を守っていた騎士の一人が声を掛けてきた。


「良ければ、訓練場で訓練を行っている者たちと手合わせをしてもらえないだろうか」


「手合せですか……それは、俺の仲間のガルーレやスティールも参加出来ますか?」


「あぁ、勿論だ」


騎士としては、特にアラッドとスティームたちと分断させ、他の騎士たちと共にリンチをしようなどとは考えていなかった。


「……ねぇねぇ、アラッド。私も参加して良いならさ、ヴァジュラとかも参加して良いんじゃないの」


「それはどうだろうな……すいません、ガルーレのヴァジュラという従魔も手合わせに参加しても良いですか」


「ヴァジュラ……と言うのは、そちらの女性の従魔であるハヌマーンの名前だったか」


「えぇ、そうです。あいつは素手だけではなく、棒を使って戦うことも出来て、ある程度人の言葉も理解出来ます」


「なるほど……であれば、そのヴァジュラも手合わせに参加してほしい」


「分かりました」


約十分後、王城の一部にある訓練場にアラッドたち三人とヴァジュラ、そして三人と同じ昼食を食べ終えた騎士たちが集まった。


「おい、あの強面の奴は」


「あぁ……間違いない。あのアラッドだ」


「だな。あの時のトーナメントは俺も観てたから覚えてるぜ」


「あれが、ねぇ……本当にあのフローレンスに勝ったのか?」


「アラッド君は、クロという名の従魔を従えている。その存在も含めて、アラッド君の全力だろう」


「…………仲間の二人も含めて、良い雰囲気を持ってるじゃないか」


集まった騎士たちの反応は様々だが、アラッドがまだ学生自体、初めてアラッドに出会って絡んでしまった愚か者ほど、彼を下に見ている者はいなかった。


ただ、この中にも騎士の爵位を持っているにもかかわらず、冒険者として行動しているアラッドに嫌悪感を持つ者は何名かいた。


「では、早速手合わせを行おうか。始めにアラッド君と手合わせをしたいも「はい!!!」……それじゃあ、バジェスタ。前に出ろ、次に手合わせしたい者は順番を決めておけ」


上官騎士が言い終わる前に手を上げたのは、比較的若い男性騎士、バジェスタ。


(次、その次を決めておけと言ってたから、直ぐに終わらせては意味がないな)


そもそも試合や決闘ではないため、あまり早く終わらせては行う意味がない。


両者は木剣を持ち、手合わせの開始の合図や終了は自分たちで決める。

そのため、スティームとガルーレも直ぐに手合せの相手が決まり、剣と剣を、もしくは剣と拳をぶつけ合う。


「いくよッ!!!!」


(加速力は、あるな)


アラッド対バジェスタ。

先に仕掛けたのはバジェスタであり、まだ強化系のスキルなどは発動していないが、それでも一気に距離を縮めてアラッドに斬りかかる。


「よっ! ふっ!! せいッ!!!」


(当たり前だが、そこら辺の、学生よりは……全面において、上だな)


縦、横、斜めと振り下ろされる斬撃をアラッドは的確に受け止め、流して対応。


権力を利用して、才に胡坐をかいてといった不良出身ではなく、順当に階段を上がり続けている騎士、バジェスタ。

だが……アラッドからすれば、ただただ順当に階段を上がっているだけの若手騎士。


「ふぅ……っし!!」


「ぐっ!!!」


スキルや魔力を使わないという同じ条件であれば、決して弱くはない。

手合せすることに面倒と感じることもないが……それでも胸が高鳴るような相手ではない。


相手の力量を把握し、攻めに転じて数十秒。

強めに相手の木剣を弾き、バジェスタが体勢を立て直す前に剣先を喉元に突き付ける。


「ッ……参ったよ」


「ありがとうございました。では、次の方どうぞ」


時間にして、約一分の手合せ。

休憩はいらないとばかり、次の相手を求める姿に、前に出る騎士の気合が高まる。


「ッシャ!!!!!!」


気合一閃、同じく木剣を持つ男性騎士は最初からフルスロットルでアラッドに斬りかかる。

当然、今回の手合せもスキルや魔力を使わず、純粋な身体能力と技量を使っての手合せ。


(……そろそろか)


十分に対戦相手の攻撃を受けた。

そう思ったアラッドは、バジェスタの手合せと同じく、攻撃に転じて数十秒後、そのまま急所に剣先を突き付けて終わらせた。


「ぐっ、ま、参った」


「ありがとうございました。では、次の方どうぞ」


三人目の手合せ相手が前に出る……そして四人目、五人目……十人目と続き、そこである一人の男性騎士が気付いた。


(おい……ちょっとまて、あいつ……全部の手合わせで、大体三十秒ほど攻撃を受けて、その後は三十秒ぐらい反撃して、約一分で終わらせてるよな)


アラッドが手合せをした騎士たちの実力には当然バラつきがあり、全員を同じほぼ同じ時間で手合せを終わらせるのは、非常に難しい。


加えて……ある話を知っている者は、同僚から聞いた話を思い出していた。

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