九百五十九話 誰が戦るか
「あそこだな」
途中からそれぞれの従魔に乗って移動し、ようやくハプターラに到着したアラッドたち。
ロッサの密林の最寄り街であるカルトロッサに負けない程の都市であるため、中に入る為にそれなりに多くの者たちが門の前に並んでいた。
アラッドたちもその列に並び、自分たちの番まで待とうとしたが……列に並んでから数分後、数名の門兵がアラッドたちの元へやって来た。
「アラッド様、でよろしいでしょうか」
「? はい、そうですね。俺はアラッドですが」
念の為、ギルドカードを門兵たちに見せる。
確認を終えた門兵はギルドカードをアラッドに返すと、門の方へ手を向けた。
「確認いたしました。あちらへどうぞ」
「あちらへって……並ばなくても良いんですか?」
「勿論です」
門兵たちは巨狼と大鳥に大猿と、噂が途切れない冒険者パーティーの従魔だと、一目で確認出来た。
ハプターラに訪れた理由は解らずとも、直ぐに街へ通すべきだと、門兵としての本能が判断。
それは一人だけの判断ではなく、本日勤務している門兵、全員の判断だった。
「……分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」
街にはいるまで待つ時間が暇であることは間違いないため、アラッドは門兵たちの提案に甘えることにした。
「そういえば、アラッドって貴族なのよね」
「そうだよ」
「ついつい忘れちゃうわね」
もう何度も同じやり取りを繰り返してきた。
それはガルーレも分かっているが、本当に今回の様に何度も何度も忘れてしまっていた。
「……別に良いよ」
アラッドとしては、そこに関して感謝こそしているが、その立場に対してプライドなどはあまり持っていない。
加えて、貴族ではない冒険者と思われるほど、親しみやすい存在となっているのであれば、それはそれで良い事だと思っていた。
「アラッド、とりあえず冒険者ギルドに行く?」
「そうだな。まだ時間的に……宿を優先する必要はないだろう」
現在の時刻は昼手前。
アラッドの言う様に、まだ宿の部屋が全て埋まってしまい、泊まる場所がなくなってしまうような事態になることはない。
とはいえ、小金持ちであるアラッドは普通の宿が一杯一杯で泊まれなくなれば、特に気にせず高級宿と呼ばれるところに泊まるつもりである。
「まずはあれだよね。虎竜っていうのが、本当にいるかどうかを探すところからよね!」
「そうだな。とはいえ、グレイスさんが教えてくれた情報だから、とりあえず存在してるとは思うんだがな」
普通に考えて、虎とドラゴンの特徴を持つモンスターなど、いるわけがないだろうと……存在して貯まるかとツッコミたい。
バーサーカーではない戦闘者たちからすれば、最悪過ぎるハイブリットモンスターである。
アラッドも普通なら、話を聞いてワクワクはするものの、本当にそんなモンスターが存在がいるのかと、半信半疑にはなる。
だが、今回虎竜に関する情報を教えてくれたのは、雪竜の中でもトップクラスの実力を持ち、人の言葉を話せるほどの知能を持つグレイス。
故に、アラッドは虎竜の存在は、噂の中だけではないと思っていた。
「因みに、今回は誰が虎竜と戦うのかな」
ハプターラに到着するまで、まだ決めていなかった三人。
今回討伐対象である虎竜に関しては……珍しく、三人とも戦ってみたいと思っていた。
アラッドとガルーレだけではなく、スティームも虎竜に対して強い興味を持っている。
「私!!! って言いたいところだけど、ぶっちゃけさぁ……この前、全員がっつり戦ったよね」
「そうなんだよね」
前回、闇竜デネブとの戦闘ではデネブが闇の力を与えたモンスターとの戦闘もあり、全員がっつり戦っていた。
ただ……そうなると、唯一……前回の戦闘で戦わずに切り札として待機していた者がいた。
「……そうなると、やっぱり今回虎竜と戦うのは、クロだな」
「ワフ?」
本当に自分が戦っても良いのか? と尋ねるクロ。
正直なところ、クロも虎竜という存在には興味がある。
だが、それでもアラッドたちが戦いたいのであればと、全然退くつもりであった。
「良いに決まってるだろ。あの時……轟炎竜と戦った時は俺と一緒にだったけど、楽しかっただろ」
「ワゥ」
「今回戦えるかもしれないモンスターは、この前戦った風竜より強い筈だ」
「…………」
「どうだ、ワクワクしてくるだろ」
「ワゥ!!!!」
ワクワクしてくると、クロは正直な感情を零した。
「ふふ、じゃあ今回はクロね」
「だね」
そんな楽しそうな顔をされては、ガルーレとスティームとしても、それでもなんて言葉は出てこない。
「キャキャキャ」
「クルルゥ」
前回の大戦で、ヴァジュラは黒色ハードメタルゴーレムと、ファルは黒色ハーピィと戦っていたため、当然の様に退くつもりであった。
とはいえ、本当のところは虎竜というモンスターに興味津々だったヴァジュラ。
しかし、先輩従魔であるファルから「君……勿論解ってるだろうね」といった視線を向けられては、後輩従魔として従わない訳にはいかなかった。
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