九百五十七話 称号は既に持っている

(アラッドなら、逆鱗状態になったドラゴンが相手でも倒せるかな? でも、あぁなったドラゴンは元の強さはあまり関係無い恐ろしさを放つし……いや、モンスターたちからして、アラッドが狂化を発動した状態が似た様な感覚となると……やっぱり、アラッドなら大丈夫なのかもしれないね)


現在、アレクはアラッドの狂化が学生の頃と比べて、更にパワーアップしていることを知らない。


それでも、学生時代にトーナメントの決勝戦でフローレンスを相手に狂化を発動した状態は観客席から見ており、当時はまだ高等部の一年生が、どのような道を歩めばあそこまでの狂気を放てるようになるのかと、本気で疑問に思った。


「アレク先生」


「ん? なんだい、アッシュ」


「一つ気になったのですが……どうして、アラッド兄さんたちはここ最近、ドラゴンとよく戦っているんですかね」


前回は風竜ルスト、今回は闇竜デネブ。

手紙には、雪原地帯で一般的な雪竜よりも強大な力を持つ雪竜に遭遇したという内容も記されていた。


「偶々じゃないの?」


「シルフィー、ドラゴンという存在は、偶々連続で遭遇できるモンスターではないんだよ」


「むむ……でも、それじゃあどうして……あっ、もしかしてドラゴンスレイヤーの称号を手に入れるため?」


ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れる為に、ドラゴンを探して討伐する。

割と大冒険ではあるが、行動は理に適っている。


だが、シルフィーはある事を忘れていた。


「はぁ~~~~~~……シルフィー、前にアラッド兄さんから貰ったプレゼントはなんだい」


「今回と同じ大剣よ」


「そうだな。それで、その大剣にはどういった素材が使用されていた?」


「えっと…………あっ!!!!」


ようやく思い出したシルフィー。


ドラゴンスレイヤーという、戦闘者を目指す者であれば、一度は憧れを持つ称号。

その称号を……アラッドは既に有していた。


「そう、アラッド兄さんは既にAランクのドラゴンゾンビを討伐していて、クロと一緒に出はあるけど、Aランクドラゴンの轟炎竜も討伐してる。アラッド兄さんは、既にドラゴンスレイヤーと呼ばれるほどの功績を上げてるんだよ。なのに……こうも立て続けにドラゴンと遭遇し、討伐してるのはおかしいと思わないか」


「それは……ん~~~~~~~~…………強いモンスターとの戦いを求めてたら、やっぱり行き着く先がドラゴンだった……っていうのは違うのかな」


「ドラゴンが強いのは間違いないだろうね。でも、アラッド兄さんは冒険者なんだ……それだけを求めるとは思えない」


「………………」


兄がここ最近ドラゴンと連戦してるのには、何か理由があるんじゃないかと思い始めたアッシュ。


そんな中……迂闊に言葉を口に出来ない人物がいた。


「アレク先生、何か知りませんか」


「っ、ん~~~……そうだねぇ…………………まぁ、二人はアラッドの関係者と言っても過言じゃないもんね。ただ、僕は現役じゃないから得た情報は知り合いから聞いた程度の正確性しかないよ」


「……知っておきたいです」


「私も!!!!」


「分かった……アラッドはね、この先起こるであろう大きな戦いに備えて、敵側に着くかもしれないモンスターの討伐を行っているらしいんだ」


「大きな戦い、敵側…………っ、なるほど」


あまり明確ではないワードから、アッシュはアレクが何のことを言っているのか理解した。


(それでドラゴンを……でも、何故今のところドラゴンをメインで…………あっ、そうか……ん~~~~……だからといって、父さんが悪いとは言えない、か)


これまた、虫食いだらけの情報から、細かい情報を探り当てるアッシュ。


「????? アッシュ、どういう事なの?」


「……僕も、詳しい事は解らないよ。ただ、そこそこ……一年ぐらい前に? ギーラス兄さんが、父さんが昔討伐した暴風竜ボレアスの息子、風竜ストールを討伐したのは覚えてるでしょ」


「えぇ、覚えてるわ! あのドラゴン、私たちの実家にも多数のワイバーンを使って仕掛けてきたんでしょ」


「そう、その件。あれで、終わったと思ってたけど、もしかしたら暴風竜ボレアスの血縁や同じ風竜だけじゃなくて、別のドラゴンたちが何かを行おうとしてるのかもしれない」


「何かって……もしかして、ストールってドラゴンと同じで、お父様やその関係者をどうこうしようって考えてるかもしれないってこと?」


「かもしれないし、また違うことを企んでるのかもしれない……詳しい事までは、僕も想像出来ないよ」


アラッドの関係者ならと、アレクは多少話してくれた。


だが、おそらく起こるであろうゴリディア帝国との戦争に関しては、まだ公にはされておらず、あくまで騎士団や魔法師団、冒険者ギルドの上層部しか基本的に知らない。


その事情を瞬時に察し、アッシュはまだシルフィーに伝えては駄目であろう内容は口にしなかった。


「そっかぁ…………はぁ~~~~~~、もう私がアラッド兄さんから貰った大剣をバッチリ扱えるぐらい強くなってたら、手伝えたのにな~~~」


本当にそこまで強くなれば、手伝えることは間違いない。

間違いないが……仮に現時点でそこまで強くなってしまうと、絶対にどんなヤバいドーピングをしたのかと疑われてしまう。

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