九百五十三話 星には手が届かない

「修羅場ってやつ……とはまた違うか」


「かもしれないね。まだ実際に付き合ってなかったんでしょ?」


「そうだね。でもあれだよ~、知り合いになった女の子が、明らかに好意を向けてるだろうな~~って人とは、なるべくやろうとはしなかったよ」


(なるべく……なるべくって事は、何回かは我慢できずにやったんだな)


やっぱり常識が欠けているのでは? とは思わなかったアラッド。


親友、友人が好意を抱いてる男性と性欲を抑えきれずにやってしまったのであればともかく、あくまで知人と言えるレベルの女性冒険者が好意を持っている男性冒険者とやっただけ。


中にはそれでも常識に欠けているのではないかと思う者もいるだろう。


だが、ガルーレからすれば意識されようと、アクションを全く起こしていないのは如何なものなのかとツッコミたい。


「……ガルーレの場合、逆に振られたが故に逆恨みで絡んで来そうな奴もいそうだな」


「あぁ~~~……なるほど、ね。うん、確かに逆恨みしそうな人はいるかも」


何故逆恨み? と首を傾げるガルーレ。


アラッドとスティームから見て、ガルーレという人物は見た目云々を抜きにしても、良い人だというのが解る。

基本的に誰に対しても分け隔てなく接する。


(タイプは違うけど、似た様な人がいたな~~~~…………アラッドの言う通り、もしかしたらそっちの理由で、同業者に絡まれる……襲われる? かもしれないね)


自身に自信のない者にとって、明らかに自分よりも立場が上の人間に優しくされると、最初こそ恐れ多いと感じるものの……それが重なっていくと、「もしかして……○○さんって、僕に気があるんじゃないのかな」といった感じで、妄想が爆発してしまうケースが無きにしも非ず。


自分が話しかけることすらない相手と認識しているからこそ、そんな自分に話しかけてくれるってことはもしかしてと…………貴族社会であっても、他の世界と比べて生きる者たちに大きなプレッシャーを受け続けることから、そういった自信不足な者は決して珍しくない。


「確かに告白されて断ったことは何度もあるけど、そこまで……なる? だってほら、えっと……女性なんて星の数ほどいる? って言うじゃん」


「それ、普通は女性側が言う言葉じゃないだろ……確かに、なにも女性はガルーレだけじゃない。ガルーレに振られた奴らも、冒険者を続けていくのであればこれから多くの女性には遭遇するだろうけど、結局劇的な変化がないか、奇跡でも起きないと、その星に手が届くことはないんだよ」


残酷な内容であり、尚且つなんでお前がそんな上から目線に語っているんだと……アラッドの事をそこまで知らない男性冒険者たちからすれば、思いっきりツッコみたい。


ただ、この世界でアラッドは殆ど社交界に出席していないにもかかわらず、多数の婚約の申し込みが届いた。

侯爵家の令息という要素もあるが、アラッドの場合それ以外の要素も強い要因となり、多くの婚約申し込みが記された手紙が送られていた。


「女性は星の数ほどいるけど、決して星には届かない……上手いこと言うじゃん、アラッド~~~~」


「褒めるところか? 別に良い言葉ではないと思うんだが。ともかく、フラれた野郎にとってはずっとガルーレっていう星にしか興味を持てないって可能性もあると俺は思ってる」


「それって…………褒められてる?」


星と言われて、悪い気はしないガルーレ。


実際にアラッドも一応褒めてはいるが、だからこそ危ないとも伝えている。


「褒めてはいるけど、それとこれとはまた別って感じだよね」


「そんな感じだな」


「ふ~~~ん……二人とも私の事ばっかり言うけど、二人はそういうのないの?」


「ないな」


若干頬を膨らませながら反撃してきたガルーレに対し、アラッドは即座にそれはないと答えた。


「冒険者として、戦闘者としての恨み? 的なものは買ってると思うが、そういった色恋に関する恨みは買ってない筈だ」


まだ冒険者になって数年も経っていないアラッドではあるが、もう何度か同業者たちと衝突している。


(一番恨みを買ってそうなのは………………あれだ、えっと………………ギル、だったか)


アラッドの逆鱗を踏んでしまったが故に、冒険者ギルドから追放されてしまった男、ギル。


心の底から恨まれててもおかしくないだろうなと思いつつも、ギルが考え無しに行動に移してしまった事を考えれば、ギルドからの追放というのはまだ優しい処罰と言えなくもない。


「僕も、そういう恨みは買ったことはないと思うな……もしあったとしても、ホットル王国であった事だろうから、わざわざアルバース王国まで何かをしに来ることはないと思うな」


国境を越えた復讐がこれまでになかったのかというと……歴史上、珍しくはあるが、ないことはない。


「まっ、結局はあれだよね。皆どこかしらで恨みを買ってるかもだから、気を付けて行動しようってことね!!!」


「……そうだな。それで間違ってはいないな」


パーティーの中で一番気を付けて行動しないのはガルーレだろうとツッコミそうになるも、割とブーメランになるかもしれないと思い、アラッドはそっとその言葉を飲み込んだ。

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