九百話 理解している
ファルが体色が半分ほど黒いワイバーンを倒し終えた後、本来はもう数日アンドーラ山岳で探索を行うつもりだったが、アラッドたちはゴルドスへと戻り……フローレンスたちを探した。
「まだ戻ってきてない、か」
だが、残念なことにフローレンスたちはまだゴルドスに戻ってきていなかった。
「……すれ違いになっても困る。フローレンスたちが戻ってくるまで、待つとしよう」
再度アンドーラ山岳へと向かい、フローレンスたちを探すということも出来なくはないが、すれ違いになっては困るため、アラッドたちはゴルドスで戻ってくるのを待つことにした。
そして数日後、三人の耳にフローレンスたちが戻ってきたという情報が入り、アラッドたちは速足でフローレンスたちの元へと向かった。
「フローレンス!!」
「アラッド? そんな焦った顔をしてどうしまっ!?」
「話がある」
よくある構図である、焦りを感じていた者が、探していた人物を見つけ……名前を呼び、手を掴む。
そして話があると伝える。
よくある構図、よくある光景ではあるが……アラッドの内心を知らない者たちからすれば、彼女をどこかに連れて行こうとしてるのではないか。
他人には知られたくない事を、伝えようとしているのではないか。
そう思われてもおかしくない構図でもあった。
「お前らにも話がある」
だが、この瞬間……ほんの少しだけフローレンスの心に生まれた淡い気持ちが霧散。
珍しく浮かんでいる焦りの表情に、微かに不安が混ざっているのを見抜いた。
「分かりました。直ぐに移動しましょう」
今回はわざわざ個室のある店に移動するといった手間は掛けず、アラッドたちが泊っている宿へと移動。
やや人数が多いものの、アラッドたちはそれなりの宿に泊っているということもあり、すし詰め状態になることはなかった。
「まず、俺たちは今回の探索で、体色の半分が黒いワイバーンに遭遇した」
「っ!! そうでしたか。実は、私たちも体毛が黒に近い灰色のラバーゴートに遭遇しました」
灰色、というところで判断に迷うも、この場で自分たちにそれを伝えるという事は、同じラバーゴートと比べてワンランク上の強さを有していたのだと解る。
「そうか……誰も消えてないところを見るに、無事に討伐出来たんだな」
「えぇ。それで、これからが本題でしょうか」
「そうだ。まず、以前対峙した風竜がワイバーンたちに、冒険者や騎士の狩り方を教えていたと伝えただろ。もし……今回俺たちが狙っている闇竜が同じぐらいの知能を持っていた場合、アンドーラ山岳ではなく、他の場所で戦えと指示を飛ばす可能性があるという考えに至った」
それに何の意味があるのか、どこに恐れる必要があるのか。といった事を口にする者はいなかった。
特にアラッドを嫌っているソルでさえ、唾をごくりと飲み込み……数秒間、動けなかった。
「なるほど……その方法なら、冒険者を襲う場合、確実に殺さなければならないという条件が付きますが……闇竜が適当に力を与えているのではなく、しっかり選び、見定めているのであれば……あり得そうですね」
「そうだろ。それに、強くなる……闇の力を上手く使えるようになる為に相手をするのは、なにも冒険者や騎士じゃなくても構わない」
「……力を与えられたモンスターたちがどこまで考えているかは解りませんが、そうなると噂が広まらない可能性が高そうですね」
普通の体色とは異なるモンスターが現れた。
それは確かに珍しい。
珍しい事に違いはないが……それでも、過去にそういった特異的なモンスターが現れた例はいくつかある。
故に、多くの者が突然変異で生まれた個体なのだろうと、深く考ええることなく片付ける。
「それと、これも俺たちの想像の域でしかないが、闇竜がアンドーラ山岳に生息しているという話は元々あったが、体色が黒いモンスターに関しては、それらしい噂がなかった」
「っ!! ……つまり、闇竜はもう……これ以上他のモンスターに力を与え、支配下に置く必要がなくなったと」
フローレンスの言葉に、アラッドは重々しく首を縦に動かした。
「…………元々、何故そんな事を始めたのかを知れれば良いのですが……まず、私たち人間が住む街を襲おうとしている。そう考えるのが、妥当ですね」
「そうだな。それと、最悪闇竜がワンランク上のドラゴンに進化してると考えておいた方が良い」
そんな標的側にとって都合の良い話があるかと、誰もツッコむ者はいなかった。
「その話を私たちに伝えてくれたという事は、これから……私たちと共に行動して闇竜とその配下を討伐する、という事ですね」
流れから、アラッドがその為に自分たちにあれこれ伝えてくれたのだと解る。
アラッドもなんとなく、自分が伝えたい本題がバレてるだろうとは解っていた。
ただ、それはそれとして、考えを先に読まれるのは……なんとなく気分が良くなかった。
「まぁ、そういう事だ。何体、Bランククラスのモンスターがいるか解らないが、お前の相棒も……相性的に、一人で一体を相手にすることは出来るだろ」
「えぇ、一個人の戦力としてカウントしていただいて構いません」
リーダーであるフローレンスが了承するのであれば……という気持ちだけではなく、ソルたちも事の重大さは理解しているからこそ、アラッドたちと共に行動することをすんなりと受け入れた。
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