八百九十七話 前借しても返せない?

「……アラッド、いったい……いくら、したの?」


「…………聞きたいか、スティーム?」


ニヤッと悪そうな笑みを浮かべるアラッド。


「っ……や、止めておくよ」


「そうか。まっ、基本的にはヴァジュラたちがばくばく食べてるから、あの値段まで膨れ上がったって感じだろうから、別にスティームたちが気にする必要はない。勿論、ヴァジュラたちもな」


アラッドからすれば端た金……ではない。


冷静に対応していたアラッドだが、多少の衝撃は受けていた。

それでも、キャバリオンで儲けた金、リバーシなどで儲け大金がある。


「スティーム、これまで俺たちが討伐してきたモンスターを思い出してみろ」


「…………結構、色々と、倒してきたね」


「そうだろ。別に素材を全部自分たちの物にせず、要らない俺たちじゃ使えない素材は売却してるだろ」


「そうだね」


スティームの頭の中に浮かんだのは、雷獣やホワイトタイガーにマウンテングリズリー、エルダートレントやクリムゾンビートルや轟炎竜に……ソルヴァイパー、ディーマンバにプロミネンスコブラ。

ここ最近であれば、ヘイルタイガーにスノウジャイアント、ブリザードパンサー等々。


アラッドの言う通り、それらのモンスターたちの素材の中でも、自分たちには必要ない扱えない、全部持っていても仕方がないといった素材は素直に冒険者ギルドに売却している。


(……だ、だったら尚更僕も、出さなきゃダメだったんじゃないかな?)


ガルーレよりも付き合いが長いスティームの懐は、当然の様に暖かい。


武器や防具、マジックアイテムの購入費、買い換え費なども対して掛かっていないため、本当に暖かい。


「今日は誘ってくれてありがとうございます」


「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」


自分たちのリーダーであるフローレンスが頭を下げた……というのもあるが、さすがにソルたちであっても……自分たちが食べた量。

そして自分たちの人数などなどを考えると……いったいアラッドがいくら支払ったのか。


考えるだけで冷や汗が止まらず、仮に自分の財布から出すとなれば、当然破産。

スティームの兄であるディックスの様に給料を前借しても借金が残るという、悲惨過ぎる状態となる。


故に、アラッドが嫌いであるソルとルーナも、この時ばかりは素直に頭を下げ、感謝の言葉を伝えた。


「あぁ。それじゃ、また何か解ったら教えてくれ。こっちも何か解ったら教える」


「えぇ、それではまた」


別れた後、ガルーレはニヤニヤしながらアラッドに声を掛けた。


「ねぇ、アラッド。さっきさ、フローレンス様を誘おうとしたでしょ」


「ガルーレ、もう少し言葉を追加してくれ。それだけだと、違った意味に聞こえるだろ」


「あっはっは!! それもそうだね」


言葉足らずではあったが、ガルーレはそちらの意味でアラッドがフローレンスを誘ったとは思っていない。


「……そうだな。一応誘おうと思った。俺たちなら、大抵のモンスターは余裕を持って倒せる。仮に闇竜が進化して……暗黒竜? っといった感じでAランクのドラゴンに進化していても、全員で挑めば討伐は不可能じゃないと思ってる」


相棒の、仲間たちの力を信じているからこそ、俺たちなら殺れると断言出来る。


「ただ、支配下に置いているモンスターは複数、それも質が揃てるなら話は変ってくる」


アラッドの言葉に、スティームは険しい表情で……ガルーレも珍しく真剣な表情で頷く。


闇の力を持ったサラマンダーと戦ったのはヴァジュラではあるが、ラバーゴートの焼肉を食いながらも、二人はヴァジュラとバチバチに戦り合うサラマンダーをしっかりと観ていた。


当然、二人とも負けるつもりはない。

ただ……楽に勝てる相手だと、余力を残して勝てると断言するほど、ぱっぱらぱーな頭をしてない。


「ソルたちが弱いとは言わない。ただ……おそらくという曖昧な判断にはなってしまうが、あいつらは足手纏いになってしまう」


厳しい言葉ではあるものの、現時点で割と最悪な展開になりつつあるが、本当の本当に最悪な状況になっていると確定した場合……アラッドの判断通り、ソルたちは間違いなく足手纏いになってしまう。


「だから、フローレンスだけならとは思ったが、他の騎士たちまではな…………無理だ」


「…………アラッドってさ、やっぱり優しいよね」


「……今の会話の中で、優しいところがあったか?」


「バリバリあるじゃん。だって、仮にソルたちも参加して、最終決戦? みたいな戦いが始まった時に、ソルたちの内誰かがヤバい攻撃を食らいそうになったら、間に入って対処するって決めてるからこそ、今の時点で足手纏いになるって言ってるんでしょ」


変なところで女の勘力を発揮してくるガルーレに対し、瞬時に返せる言葉が出てこないアラッド。


「まっ、アラッドがそういう優しい奴だってのは、前から知ってたけどね。ねっ、スティーム!!」


「だね。アラッドがなんだかんだで、あぁいった人たちに対しても一定の優しさを持ってる事は知ってたよ」


実はツンデレだよね~~~……なんて事を言われたアラッドは恥ずかしさ故か、これ以上喋ってもニヤニヤと笑みを浮かべながら返されるだけだと悟ったからか、急に話題を変えて難を逃れようとした。



※本日から、サポーター様限定で、近況ノート三話先行公開を行います。

理由としては、トロフィーが欲しくなったからですw。

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