八百三十三話 なんとなく、駄目

「ぬぅありゃああああああああああッ!!!!!」


「ウキャアアアアアアーーーーーーーーッ!!!!!!!」


両者、全力で殴り合い、蹴り合い、互いの力と技をぶつけ合う。


ガルーレの体には既に多くの青痣が生まれていた。

そして先程アラッドからポーションを貰い、殆ど傷が治っていたハヌマーンも同じく青痣が多数刻まれていた。


負った怪我の数、深さなどから……ガルーレの方がやや不利な状況。

しかし、不利な状況に追い込まれてからがガルーレにとって本番。


「ッシャアアアアアッ!!!!!」


「っ!!!!」


強烈なハイキックをぶちかまし、ハヌマーンはガードに成功するものの、数メートルほど押されてしまう。


「……ねぇ、ガルーレって多分、骨にひびが入ってるよね」


「そうだな。骨折はしてないだろうが、ひびぐらいは入ってるだろうな」


「…………はぁ~~~。そうだよね、ツッコむだけ無駄なんだよね」


骨にひびが入っている状態で攻撃するのは、いかがなものかとツッコみたいスティーム。

だが、現在スティームがダメージが重なった結果、既にペイル・サーベルスを発動していた。


身体能力が爆発的に向上し、更に痛覚が麻痺した状態となっている。

アドレナリンなど関係無く、骨にひびが入ったぐらいで止まることはなく攻撃を続けている。


対して、そんなガルーレの猛撃に対応しているハヌマーンだが……最初から伸縮効果が付与されている棒を使わず、素手で戦い始めた。


「それにしても、やっぱりと言うか……棒を使わなくても、素手だけで十分強いね」


「みたいだな。上から効かされてるだろうが、それはガルーレも同じ。しっかり素早いガルーレに当てるだけの技量を持ってる」


「……なんだか、アラッドに似てるね」


「そうか?」


「そうだよ。棒っていう武器をメインに使うけど、その武器がなくたって、素手で戦うことが出来る。加えて、珍しい武器が使えて……戦いを凄く楽しんでる」


ざっとハヌマーンの特徴を揃えると、アラッドと似ていると言えなくもなかった。


「…………そう言えなくもないか。さて、そろそろ終わるな」


元々スティームとの戦闘で疲労が溜まっており、空元気を爆発させて動いていたハヌマーン。


棒がなかろうと、それはそれで強いハヌマーンとの真正面から殴り合い、ペイル・サーベルスを使っても、疲労は回復出来ないガルーレ。


「「ッ!!!!!!!!!!!」」


結果……最後は両者共に相手に顔面に渾身の一撃を入れ……ダブルノックアウト。


本当に二人ともその場から起き上がれない状態となった。


「引き分け、だな」


「引き分けか~~~~……でも、ハヌマーンは、私と戦う前に、スティームと戦ってたしな~~。それに、棒もあの金色の炎? も使わなかったし」


「それでも、引き分けって事実は変わらないだろ。それで、こいつと戦ってみてどうだった」


ポーションを渡しながら、ハヌマーンとの戦闘はどうだったと尋ねるアラッド。


その問いに、ポーションを一気飲みして多少は動けるようになったガルーレは……満面の笑みを浮かべて答えた。


「最っ高だったね!!!!! 超楽しかったよ!!!!!!」


ガルーレは、モンスターが戦う時に向けてくる殺意も、高揚する一種の要素だったが……殺意を持たず、純粋な戦意をぶつけてくるハヌマーンとの戦いは、これまで体験してきたどの戦いよりも楽しさと高揚感を感じた。


「ウキャッキャッキャ!!」


ハヌマーンもガルーレの言葉に同意するように豪快に笑った。


(さて………………はぁ~~~~~~~~、今更だろ。その為に、ガルーレに戦わせたんだ)


責任は、リーダーである自分が背負えば良い。

そう覚悟を決め、ガルーレにある提案をした。


「ガルーレ」


「なに?」


「こいつを、ハヌマーンをお前の従魔にしないか」


「…………えっ?」


「ハヌマーンを、お前の従魔にしないかって言ったんだ。ハヌマーンが不利な状態だったとはいえ、結果として引き分けまで持ち込んだ。傍から見ても、ハヌマーンの主として悪くはないと思った」


アラッドが何を言っているのか解らなくはないものの、ハヌマーンと純粋に戦闘を楽しんでいたガルーレにとって、まさかの提案だった。


「とはいえ、ハヌマーンにも訊いておかないとな。どうだ、今しがた戦った人間の従魔……仲間、みたいになるのは」


「……ホキャッキャッキャ!!」


ある程度アラッドがどんな言葉を自分に伝えてるのか理解し、ハヌマーンは爆笑した。


これまで自分が遭遇した人間たちとは、どこか違う気質の人間だということには気づいていた。

だが、自分を仲間に勧誘するとは全くの予想外だった。


「ウキッ!!!」


「了承してくれた、ってことで良いんだな?」


「ウキャッ!!!」


どこで見て覚えたのか、ハヌマーンはグーサインをつくり、満面の笑みを浮かべてガルーレの従魔になることを了承した。


「よろしく、ハヌマーン!!!」


「ウキャキャ!!」


ガルーレの差し出された手に、どうすれば良いのか何となく察し、ハヌマーンは握手を交わした。


「けど、あれね。ハヌマーンってそのまま呼ぶのは……なんか変よね。アラッドはクロ、スティームはファルって呼んでるし」


「呼び名か……」


それは確かに必要かと思い、アラッドだけではなくスティームも一緒に考え始めた。


(ハヌマーンの名前、名前……名前……………………いやいやいや、さすがに駄目だよな。別にこの世界では関係無いとは思うが…………期限となった方の猿もいるわけだし、問題はない……か?)


アラッドが真っ先に思い浮かんだ名前は、悟空だった。

悪くないのでは? と思うも、やはり……なんとなく駄目だと思い、却下。


「…………ヴァジュラ、っていうのはどうだ」


ハヌマーンが持っていた棒を見て、アラッドはこれか? と頭に浮かんだ名前を口にした。


「ヴァジュラ……なんか良く解らないけど、良い響きね!!!」


「ウキャッキャッキャ!!」


どうやらハヌマーンも響きがなんとなく良いと感じ、ヴァジュラという名前を受け入れた。

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