八百二十四話 今後の答え

「あれだな、スティームの場合は生まれながらに背負ってしまった罪ってところだな」


「そんなに重いものなの?」


森に入っても、スティームが受付嬢のハートにイケメンスマイルが刻んでしまった話について続いていた。


「どうだろうな。ただ……母さんから聞いた話だが、知り合いの冒険者が勘違いさせてしまった女性冒険者に結構本気にされてしまった結果、全く知らないその女性に好意を抱いていた男性冒険者に絡まれ、喧嘩に発展したことがあったらしいぞ」


「……………………」


「ん? もしかしてスティーム……既に経験済みか?」


「一応ね。あれは……いつだったかな。まだ、冒険者になって一年経ったか経ってないかぐらいの頃だったかな。今、アラッドが教えてくれた内容と同じ様な内容が降りかかったんだ」


全く買った覚えのない怒りをぶつけられ、ただやられる訳にもいかず、応戦するという選択肢しか取れない。


その当時の何とも言えないモヤモヤ感を思い出すスティーム。


「俺の方が先に好きだったとか、あいつに色目使ってんじゃねぇとか…………全くそんなつもりがなかったから、こっちはこっちで結構怒っちゃったよね」


ふふっ、っと乾いた笑みを零すスティームの顔を見て……二人は思わず震えた。


(そ、そんな顔も出来るんだな、スティーム)


(トラウマとかじゃないぽいけど、相当その当時、ガチギレしたみたいね……それはそれで見てみたいわね)


もう過ぎた事と捉えているスティームだが、それでも当時を思い出すと、ほんの少しではあるが怒りが湧き上がる。


「……顔が罪って、辛いね」


「理不尽な怒りをぶつけられるのを考えれば、そう思うのが当然だな。ただ、スティーム。それ、他の同業者たちの前で言うなよ」


「それは解ってるよ。僕は一応、アラッドより冒険者生活が長いからね」


「そうだったな。ただ……うん、そうだな。身に覚えのない怒りをぶつけられるのと、どう頑張っても変えられない顔による苦労…………理不尽に怒りをぶつけて良い理由にはならないな」


この世界では、自分の姿や見た目を一時的に変えるマジックアイテムは存在するが、永続的に……永遠に外見を変えるマジックアイテムは……今のところ、存在しない。


加えて、アラッドの前世ほど美容に関する情報は出回っておらず……そもそも冒険者として活動するような野郎たちが、美容などに気遣うことなどまずない。


そんな金があれば、酒と娼館に使ってしまうのが、一般的にモテない部類の男性冒険者たちである。


(とはいえ、そういった者たちの気持ちが解らなくはないんだよな………………まぁ、前世の情報の広まりを考えれば、俺が怠惰だったのは間違いないが)


しかし、アラッドは今でこそ強面タイプではあるが、イケメンと呼ばれる部類の顔ではあるが……前世では可もなく不可もなしといった、特徴と言える特徴がない顔だった。


当然ながら、マイナスがないとはいえ、プラスもないため異性から好かれるタイプの顔ではない。


(今思えば、スマホで調べるなりして頑張れば良かったんだろうが…………学校のテストの様に、頑張ればある程度結果が出るとは限らないから、渋っていたのか?)


自身の怠惰を正当化するのは良くないと思いつつも、過去にスティームに理不尽な怒りをぶつけた人物の事を考えると……前世も含めて、そういった考えを持つ者が多いのかもしれないと思えた。


「つまり、スティームの顔の良さは罪じゃないってことになるの?」


「…………結果として惚れるか否かは相手次第。その思いを本気にしてしまうか否かも、女性次第というのを考えれば……まぁ、無罪ではあるか?」


スティームは元が感情の起伏がないタイプではないため、そこを宣言されるのは当然の様に苦痛である。


「昔はどうか知らないけど、今のスティームは私やアラッドと一緒に色んな場所を冒険してるんだから、大丈夫なんじゃないかな」


「……そういう冒険者スタイルを取ってるにもかかわらず、自分に縛り付けようとはしない……ってことか」


「よっぽどバチバチにスティームに惚れて心を奪われてなかったら、大丈夫なんじゃないかな。スティームの子供を産みたい、ずっと子宮がうずくとかレベルの人はどうかしらないけど」


ガルーレが上げた例を聞いて、野郎二人はほんの少し引いていた。


(つ、付き合いたい、結婚したいという思いを吹っ飛ばして、子宮がうずいたり子供を産みたくなってしまう場合もあるのか…………多分、嘘ではないんだろうな)


そういった考えを女性が持つかもしれない可能性に対して、アラッドはどうこう言うつもりはない。


ただ、ほんの少し恐ろしさを感じた。


「世の中は広いってことだな……とはいえ、スティームに惚れた女性がそこまで感情が爆発した場合、逆夜這いされそうだな」


「………………僕、他の冒険者とそういう話題になった時、後十年はアラッドたちと冒険に生きるって答えるよ」


無意識にアラッドとガルーレを巻き込もうとするスティーム。


しかし、二人からすれば、後十年はスティームと共に冒険出来るのは、願ったり叶ったりであった。

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