七百九十六話 もう直ぐ

(そういえば、二人があの木竜と出会う切っ掛けになったのって……どっかのバカが木竜を異次元? に飛ばしたからだっけ?)


木竜を異次元に飛ばした理由は、結果として解っていない。


ただ、アルバース王国の人間ではない人物がやったというのは確定している。

そして木竜は異次元に飛ばされ、一定の期間を終えて元の場所に戻ってきたが、アラッドとスティームが一番に着いたことで……木竜は冷静さを取り戻し、結果として暴れ回ることはなかった。


仮に木竜を異次元に飛ばした連中の目的が、木竜を怒り狂わせることであれば……アラッドたちに恨みを抱いている可能性は否定出来ない。


(そも森? で、他国の裏の人間も捕らえたんだっけ? つまり……………………はぁ~~~~~~、そういう事ね)


仮定ではあるが、諸々の内容を理解したガルーレは大きくため息を吐いた。


知っていた。

他の人物から今現在、アラッドがリーダーであるパーティーを見れば、そう思われる事に関して……理解は出来なくない。


しかし、ガルーレにとって……それはそれ、これはこれ。

理解は出来ても、怒りが湧かない理由にはならない。


「っ!!!??? ったく、まだ肉を焼いてる途中だってのに」


「「…………」」


毒付きの針を飛ばしてきた二人の覆面黒づくめ。


「私を殺せば、アラッドの動揺を誘えるって思った感じ? 甘い考えしてるわね。自惚れって思われるかもしれないけど、そうなればあなた達の国が亡ぶかもしれないのに」


挑発とも言えるガルーレの言葉に二人は反応せず、冷静に強化系のスキルを使用しながら素早く動き、毒を付与した針や短剣を投げ始めた。


(見た目通り、厭らしい連中ね)


毒にはあまり詳しくないガルーレだが、微かに嗅ぎ取った匂いと本能から、可能であれば絶対に触れない方が良いタイプの毒だと判断。


「クロ、他の連中が来ないか、警戒しといて!!」


「っ……ワゥッ!!!」


クロしては、直ぐに自分も参戦して明らかに自分たちを攻撃しようと、殺そうとしてくる連中を始末したかった。


だが、ガルーレがこういった状況であるにもかかわらず、笑っているのを見て……これは手を出してはいけないと判断。

勿論……何があっても手を出さない訳ではない。


クロにとってもガルーレは大切な仲間であるため、周囲の警戒に集中するのは、ガルーレが危機的状況に直面するまで。


「さぁ、どうしたのかしら!!?? わざわざ、あんな方法で分断したくせに、この程度の実力しか、ないのかしら!!!!」


威勢良くアサシンタイプの二人を挑発するものの、ガルーレは心底余裕がある訳ではなかった。


寧ろ、そもそも数的に一対二と不利ではあり、実力も完全に並ではない。

暗器の扱い、暗殺者らしい動きや戦い方などに関しては、アラッドを上回っている。


(もう、直ぐ。もう直ぐ、来そう!!!!!)


アラッドたちであれば、直ぐに自分たちを発見してくれる……といった流れを期待してるわけではない。


ただ、予感がしていた。

もう直ぐ……求めていた者が手に入ると。


閉鎖的な空間の中で、絶対に触れてはならない飛び道具をメインに戦う二人の強者との戦闘。

数的に不利な状況から、ウィラーナを訪れてから体験した戦闘の中でも、一番神経を尖らせて戦わなければならない。


「「っ……」」


仮面を付けているため、ガルーレに表情の変化がバレることはない。


二人が……全ての遠距離攻撃を躱し続けるガルーレに驚きを感じていることは、まだバレてはいない。


針、短剣、斬撃刃、液体……どの攻撃にも毒が含まれており、ガルーレの判断通り触れれば一気に戦況が一方的に崩される。


だが、ガルーレは死角である筈の位置から放たれる攻撃すら避け、回避が間に合わない攻撃は魔力の弾丸や斬撃刃を飛ばして対応していた。


押されては……いない。

しかし、押しているとは言えない。

数的には有利であり、まだまだ針も短剣も魔力も残っている。


巨狼がアマゾネスの指示通り、周囲の警戒を担当し続けていれば……時機に勝利は確定する。


「き、たッ!!!!!!!!!」


いきなりガルーレが吼えた。

顔に浮かぶ笑みが……輝きが増す。


(感じる、感じる、超感じる!!!!!!!!!)


ウィラーナに到着してから意識し続け、ヘイルタイガーという強敵との経験を得て……ほぼ開花寸前にまで辿り着いていた。


以前までなら……ダメージ覚悟で叩き潰すという選択肢しか取れなかった。


それ程までに、ガルーレを狙った黒づくめ達の戦闘力は高かったが……結果として、開花の最後の切っ掛けを与えてしまったのは……彼等だった。


(今なら……なんだって出来る気がする!!!!!!!)


加えて、黒づくめ達は更に運が悪かった。


クロがガルーレに指示通りに、周囲の警戒に集中しているという状況に甘え、時間を掛けてアマゾネスを潰せば良いと判断してしてしまったのが運の尽き。


これまでの意識の変化や実戦による経験値によって、立体感知のスキルを把握しただけではなく……極限まで神経を尖らせて強敵たちと連戦した結果……ガルーレは一種の極限状態、ゾーンに入った。

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