七百九十四話 切り裂く
「戦闘スタイルを変えてから、あっという間だったね」
「そうだな。あのヘイルタイガーも相当強かったが、ギアがマックスになったガルーレが相手だと……少し、足りなかったかもな」
「そうかな? 割とガルーレも傷を合ってるんだし、今のレベルを考えるとヘイルタイガーぐらいの相手が丁度良いんじゃないかな」
「……確かに、怪我のことを考慮してなかったな…………あん?」
見事、ソロで雪原の虎、ヘイルタイガーを仕留めたガルーレに賞賛を送っていると、アラッドは視界の奥の奥の……奥にいる二体のモンスターに気付いた。
(大きい……よな。多分だが、あれがスノウジャイアント、か?)
スノーグリズリー以上にもさっとした毛皮を持ち、スノーグリズリー以上に大きな体を持つ巨人。
(こっちを見てる、よな?)
今から自分たちの方に向かってくるのかもしれない。
そう思って身構えるアラッドだったが……二体の目的は違った。
「「「「「っ!!!???」」」」」
二体が両腕を地面に叩きつけた直後…………雪崩が起こった。
(待て、待て待て待てっ!!!!!!!!)
雪崩が起きれば、全力の攻撃をぶっ放せば良いと口にしていたアラッド。
それは決して冗談ではなかった。
冗談ではなく、アラッドやスティームであれば出来なくないのだが……大量の雪が迫るスピードが、あまりにも速過ぎた。
その想定外の速度に、アラッドだけではなくスティームも戸惑いを隠せなかった。
「ッ!!!!!!」
そんな中、二人から少し離れていた場所で戦っていたガルーレの元へ、クロが全速力で駆け付けた。
「クロっ!!!」
「アラッド、こっち!!!!」
「……クソッ!!!!!」
スティームの言葉に反応せざるを得ず、アラッドは差し出された手を取り、ファルに乗って雪崩から逃れた。
「っ!!!??? チっ!!!!! こんな時に限って吹雪……っ!!!!????」
一瞬、ほんの一瞬ではあるが、魔力が膨れ上がった。
アラッドが感じ取った方角は……先程、二体のスノウジャイアントがいた方向。
(そういえばさっき、爆発音? が微かに聞こえた…………あの雪崩は、スノウジャイアントだけが起こした雪崩、ではないのか?)
ガルーレには、クロが付いている。
生死に関しては、さほど心配していない……現段階では。
「アラッド、さっきの雪崩って」
「…………個人的な意見だが、人為的な作為を感じる」
「僕も。スノウジャイアントは、確かに複数体で敵に対して雪崩を起こすという行動を取るらしいけど……どう考えても、普通じゃないよね」
「あぁ、本当に……その通りだ。おそらく、この吹雪も」
ファルの背中に乗ることで雪崩に巻き込まれることを回避した。
だが、結果としてガルーレとクロと離れることになった。
(あの時、クロに糸を付けていれば。いや、そもそもあのタイミングで間に合ったか? ……違う。そもそも間に合う間に合わない云々以前に、やらなければなかった…………クソッ!!!!!!!!!)
現在、天候は間違いなく最悪と言える悪天候。
その影響もあって、即座にクロが戻ってくることはなかった。
「アラッド、さすがに一旦街に戻った方が良い。ガルーレにはクロが付いてるし、ガルーレもアイテムバッグの中に色々と入れてあるから…………あ、アラッド?」
現在の天候はBランクモンスターのストームファルコンであっても、長時間飛行するには厳しい。
吹雪が収まるまで街に戻り、待機するのが最善……そんなスティームの判断は間違っていない。
だが……アラッドの耳に、スティームの言葉は入っていなかった。
今のアラッドの頭にあるのは、あのタイミングでイレギュラーな災害が起こったとはいえ、咄嗟に反応出来なかった自分自身に対する怒り。
(誰がやったのか知らないが……ふざけた真似してくれるじゃないか)
無意識にアラッドは渦雷ではなく、剛柔でもなく……羅刹を亜空間から取り出した。
「スティーム、少し離れてろ」
「あ、アラッドっ!!!!????」
ファルの背中から飛び降りたアラッド。
一切勢いが衰えることなく振り続ける吹雪の中、下手に降りれば一気に雪の中に埋もれてしまう。
だが……アラッドが雪の上に着地すると同時に……周囲の雪が解けていった。
「ふぅーーーーーーーーーー…………ッ!!!!!!!! 斬り裂けッ!!!! 羅刹!!!!!!!!!!」
アラッドは抜刀同時に、全ての身体強化系のスキルを発動。
勿論……狂化も同時に発動した。
(あ、あれは……つ、角っ!!!!!!??????)
スティームの見間違い、ではなかった。
アラッドが羅刹を抜刀し、同時に狂化やその他の強化系スキルを発動した途端、額の右側から……一本の角が生えた。
「オオオオオォォアァアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!!!!」
刀技のスキル技を発動しなかった。
ただ……ただ、羅刹に魔力を纏い、天に向かって斬撃刃を放ち続けた。
お前は邪魔だと……消えろと言わんばかりの怒号を張り上げ、アラッドは天を切り裂き続けた。
「う、う……う、そぉ…………」
アラッドが殆どの魔力を使い果たし、額の角も消えた頃……先程までの悪天候が嘘だったかの様に止んでいた。
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