七百八十三話 平等に訪れる
「せ、やッ!!!!!!!!」
片脚で跳んだガルーレは……パラライズタラテクトが低空ジャンプしたこともあって、跳躍距離は十分。
そして第二の粘々ネットが放たれる前に、渾身の蹴りが放たれた。
(後はお願いします!!!!!)
ペイル・サーベルスが発動してない状態となると、さすがに一撃で仕留めきることは出来なかった。
しかし、その可能性を考えていなかったガルーレではなく……チラッと確認していた方向に向かってパラライズタラテクトを蹴り飛ばしていた。
「ありが、たいッ!!!!!!!!」
ガルーレが蹴り飛ばした方向には、パラライズタラテクトを追っていた討伐隊のメンバー……アラッドに対し、自分たちに任せてくれと伝えたあの男がいた。
ジャストタイミングでとんできたパラライズタラテクトに槍技、一点突きを放った。
「っ!!!!!!! ッ、ッ…………」
渾身の一撃を食らい、体に綺麗な風穴を空けられた大蜘蛛。
数十秒ほどピクピクと脚を震わせるも……そこから起死回生の攻撃、執念の一撃を放つことはなく、そのまま息絶えた。
「ふぅ~~~~~。ったく、この図体であの速さは反則だっての」
「お疲れ様です」
「おっ、アラッドじゃねぇか」
パラライズタラテクトを完全に仕留めた男に、アラッドは労いの言葉を掛けた。
「見事な一撃でした」
「はっはっは!!! ありがとよ。でも、ガルーレの嬢ちゃんがこっちに蹴り飛ばしてくれなかったらヤバかったよ……やっぱ助けられちまったな」
彼としては、現場ではなるべくアラッドたちの助けを借りずにパラライズタラテクトを仕留めたかった。
直ぐに到着した他の討伐隊のメンバーもパラライズタラテクトが仕留められている光景を観て喜ぶも、そこにアラッドたちが居るのを見て……なんとなく状況を察した。
「何を考えてるのか解らなくはないですけど、俺たちは本当に偶々この辺りにいただけですよ。つまり、先輩たちの運が引き寄せたといったところでしょうか」
「運、運、か……ちょっとカッコ付かなくないか?」
「そうですか? 運は、真剣に戦い続けた者たちの元に対して、平等に訪れると思ってます」
「……つまり、偶々パラライズタラテクトが逃げた方向にお前たちがいて、ガルーレが俺の方向に向かって蹴り飛ばしたのは、俺らが真剣に……命を懸けて戦ってたから、ってことか?」
「少なくとも、俺はそう思っています。第一、俺たちはここ最近冒険者ギルドに訪れてないので、いつ先輩たちがパラライズタラテクトとその配下たちを討伐するのか知らなかったので」
これは嘘ではなく、本当だった。
本当はフールから聞かされていたなんてこともなく、冒険者に友人がいる騎士たちの会話からうっかり聞いてしまった、なんて事実もない。
「…………そうだな。確かに俺らは本気で、命を懸けて戦ったな」
男の言葉に、討伐隊のメンバーはこれまでの戦闘を振り返り……確かに自分たちを命を懸け、本当に良く戦ったと思い、笑顔を浮かべた。
「では、俺達はもう少し狩りをしてから帰るんで」
「あぁ……またな」
一緒に戻らないか? とは尋ねず、彼らはパラライズタラテクトをアイテムバッグの中にしまい、配下のスパイダーたちの処理をしている者たちの元へと向かった。
「運は真剣に戦い続けた者たちの元に、平等に訪れる……良い言葉ね~~~」
「……改めて口にするなよ」
討伐隊の面々に伝えた通り、アラッドたちはまだ森の中を適当に散策していた。
「アラッドは元々運に対して、そういう捉え方をしてたの?」
「いや……これまでの人生を振り返ってみて……偶々そう思っただけだ」
前世の記憶がまだそれなりに残っているアラッド。
運が良かった……そう思える記憶は確かにある。
しかし、それは本当に偶々運が良かった……ただ、その運で自分の何かが変わったわけではない。
だが、今世。
アラッド本人にとっては、楽しいという感覚が非常に強いという理由はあれど、人の何倍もの努力を重ね続けてきた。
そしてその努力を発揮するために、実戦を繰り返してきた。
真剣に重ね続け、反省し、行動に移し……そうして前進し続けてきた。
その結果、これまでの人生を振り返ると、その繰り返しがあったからこそ、運が良かったと思える場面が幾つかある。
「勿論、その感覚は人によるだろう。先輩たちも、完全に納得したかは解らない。ただ、パラライズタラテクトが逃げた先に偶々俺たちがいたのは……先輩たちが本気で、命を懸けて仕留めようとした結果だと俺は思ってる」
「……アラッドらしい、良い考えだね」
「運も実力の内って言葉もあるのを考えると、確かにアラッドの言う通りって気がするわ」
この時、スティームとガルーレは偶々同じ考えに至った。
(…………つまり、僕がアラッド出会えた幸運は、これまでの努力があったから、なのかな?)
(楽しいから戦ってきたつもりだけど、アラッドやスティームみたいな強い人と出会えて、尚且つ一緒に冒険出来てるのを考えると、良いタイミングで幸運に巡り合えたと思えるわね)
急に笑みを浮かべる二人を見て、アラッドは当然……何を考えてるのか分からず、首を傾げた。
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