七百七十話 偶にある
「ん、っ……朝、か…………昨日は、ちょっと呑み過ぎたか」
記憶はぶっ飛んでおらず、しっかりと知人の冒険者と出会って昼間から呑み、生意気なプライドを持ってるルーキーに絡まれて殴られそうになったので拘束し……説教した後、そのまま夜まで呑んで食って喋り続けたことは覚えている。
「……………………」
「俺より先に起きてないって事は、完璧に二日酔い状態だな」
アラッドの部屋に用意されたもう一つのベッドで爆睡中のスティーム。
用意されたもう一つのベッドにも快眠の効果が付与されてはいるものの、快眠出来はしても……完璧に疲労が回復する訳ではなく、当然ながら二日酔いが寝てる間に治るということもない。
「アラッド様、おきてらっしゃいますか?」
「あぁ、起きてるよ」
返事を返すと「失礼します」と言いながら一人のメイドが部屋に入ってきた。
「……どうやら、スティーム様は完全に酔い潰れてしまってるようですね」
「おぅよ。俺とガルーレとスティームの三人なら、一番スティームが弱いからな。いや、世間一般的には強い方なんだろうけど、なんせ昨日は昼間から呑んでたからな」
「どおりで部屋にアルコールの匂いがするわけですね」
「…………そんなにあれか?」
「お言葉ですが、そんなにあれですね。今すぐ換気してもよろしいでしょうか」
「おう」
まだ冬にはなっていないため、窓を開けたところで寒さで体が震えることはない。
「ところでアラッド様」
「なんだ」
「ガルーレ様はどうしたのですか」
「ガルーレ? ガルーレなら……ガルーレは………………??」
直ぐにパーティーメンバーが昨日どうなったのかを思い出せず、必死で記憶を掘り返す。
「…………あっ、あれだ。良い男を見つけたから、一晩喰いにいったんだ」
「喰いに……そういえば、ガルーレ様はアマゾネスでしたね。つまり、そういう事と捉えてよろしいですか?」
「あぁ、そういう風に捉えてくれて問題無い。一緒に行動し始めてからも偶にあったからな」
先日、運悪くアラッドたちの諸々を知らないルーキーがバカ絡みしてしまったが、ルーキー全員があぁいった問題時よりのタイプではなく、内面も含めて見所がある新人もそれなりにいる。
ガルーレとしては既に成熟している大人も喰い応えがあると感じているが、どちらかといえばあまり経験がないそっつのルーキーを喰う方が……色々と楽しい。
実際にガルーレはまだナルターク王国に滞在していた頃、ラディアを自身のパーティーに引き入れたがっていた赤髪のイケメン冒険者を酒の力も使い、言葉巧みに転がしてパクッと食べていた。
「そうなのですね。であれば、まだ帰ってきてない事に関して、特に捜索などは不要と」
「屋敷までの帰り道は解るだろうから、今日の……昼時までには帰ってくる筈だ」
その後、スティームが頭痛に悩ませられながらも起床し、朝食後は……先日までと同じく子供たちに訓練相手をせがまれ、頭痛に耐えながらも子供たちの相手をしていた。
当然ながら、子供たちは血統云々は別ではあるものの、戦闘関しては文句なしのエリート教育を受けている。
今はレベル差があるため、どう足搔いても勝つことは不可能ではあるが……二日酔い状態によるアルコールダメージが入っている。
そのため、スティームでも対応を間違えれば、良い攻撃が入ってしまう可能性が無きにしも非ずであった。
「それで、ドラングは元気にしていたのかしら」
朝食を食べ終えた後、リーナに呼ばれたアラッド。
メイドたちが手際良く紅茶とお菓子を用意し、リーナも当然……アラッドに対し、敵意など皆無。
「ドラングとは直接会いませんでしたけど、同級生の話によれば、担任の元騎士の先生に良く個人指導をしてもらってるみたいです」
「…………つまり、元気そうと思って良いのかしら」
「そうですね。強くなるという気持ちを行動に移し続けてる間は、元気だと思って良います」
父であるフールを越える前に、同じ歳の兄であるアラッドを倒すことを目標としているドラング。
アラッドが直接ドラングに何かをした訳ではないが、ドラングはアラッドを目の敵にしているため、まず見かけてもアラッドから声を掛けることはない。
「ただ、いつ知る事になるかは分かりませんが、アッシュが学生代表としてナルターク王国の学生最強と戦い、勝利したという話は……なるべく耳に入らない方が良いでしょうね。後、リーナ母さんもその話は知らない体で過ごした方が良いかと」
「っ……そんなに、あの子は凄かったのね」
「なんと言いますか…………俺はあまりこの言葉を軽々しく使いたくはありませんが、戦闘に関しては間違いなく、アッシュは天才です。世間一般的には、ドラングもそう呼ばれる分類に属するかもしれませんが……アッシュは天才の中の……鬼の如き才を持つ鬼才と言うべきでしょうか」
わざわざリーナの気持ちを沈めたい訳ではない。
だが、ここで下手に和らげて伝えることは、最も無意味な事だと思い、ありのまま感じたアッシュの本気について伝えた。
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