七百六十三話 仮に決まったとして
「ねぇ、アラッド」
「ん? なんだ、スティーム」
アッシュに関する話が終わり、シルフィーはアラッドのあれこれも話し終え、ようやくフールとエリアと別れた三人。
「アッシュ君、本当にリエラさんに興味が無いように思えるんだけど」
「スティーム……それに関しては話して話して話しまくっただろ。基本的に、アッシュは相手が誰であろうと、関係無いんだよ」
好きになった人が好きなタイプ、といったありきたりな結論しか出なかった議題。
他にもアッシュが守りたくなる人など予想は上がったが、結局それは好きになった人がそうなのでは? という結論に至る。
「まっ、問題がないわけではないけどな」
「リエラさんがアッシュ君より歳上なこと?」
例がない話ではないが、基本的に貴族の令息が、自分より歳上の令嬢と婚約し、結婚するケースは殆どない。
二、三歳程度の差であればまだしも、アッシュとリエラの差は約四歳。
たかが一歳差ではないか……と平民であれば思ってしまうが、貴族界ではその一つ一つの差が大きい。
「ガルーレ、今更父さんとエリア母さんがそんな事考えると思うか? アッシュが告白されたって知って、無茶苦茶嬉しそうな顔をしてただろ」
「それは……うん、そうね」
「つまりそういう事なんだよ」
フールとエリアもそれが解らない訳ではない。
社交界に出れば、本人達が心の底から愛し合っていたとしても、陰口を叩く者は叩く。
だが、そもそもアッシュは学園を卒業してしまえば、まず社交界に出ることはない。
「俺が少し心配なのは、リエラ嬢は来年卒業するだろ」
「えっと……あっ、それか」
「そう、それなんだよ」
来年卒業。
つまり、リエラは卒業すれば……現在の予定通り、内定が確定している騎士団に入団する。
だが……仮にアッシュとの婚約が確定すれば、別の選択肢が生まれる可能性がゼロとは言えない。
「????? アッシュ君が卒業するまで、ナルターク王国の騎士団で活動を続けて、その時期になれば退職してアッシュ君と結婚すれば良いじゃない」
間違ってはいない。
ガルーレの言う事は全く間違ってないのだが、貴族の令息であるアラッドとスティームには、そう簡単に事が運ばない未来が容易に想像出来てしまう。
「四年ちょいも待つなら、絶対に他の人と婚約すれば良いと考える輩が現れるだろうな」
「だろうね。もしかしたら、カルバトラ侯爵家の中で、そういった考えを持つ人が現れるかもしれない……というか、婚約が決まる前から現れてもおかしくないかと」
「あぁ~~~、リエラさんは美人でおっぱいも大きいもんね~~~」
そういう話ではないとツッコみたいが、なんとなくスルーする二人。
「あれ、でもさ。本当に婚約して、じゃあリエラさんが騎士団に入団しないってなったら、どうするの?」
「それは……それは………………どうするんだろうな」
ナルターク王国内であれこれ言われるのであれば、アルバース王国に来れば良い。
(……待て待て、仮にこっちに来て……どうするんだ?)
アルバース王国に来る、だけでは何の解決にもならない。
「……パーシブル家に来て、アッシュ君が卒業するまで待つとか?」
「それは、無きにしも非ず……なのか?」
「無きにしも非ずなんじゃないの? リエラさんって割と戦うのが好きそうなタイプだし、パーシブル家の人たちと結構気が合うと思うけど」
なんとなく、想像出来なくはないと思えたアラッド。
だが、婚約者がウェルカムな状態で四年と少し待たせ続けるのは、いかがなものかという考えも同時に湧き上がる。
「アルバース王国の騎士団、今フローレンスさんが所属してる黒狼騎士団に在籍するというのはどうかな。あの人なら、事情? も解ってるだろうし、リエラさんも居心地が悪いことはないと思うんだけど」
「……スティームの兄さんがギーラス兄さんが所属してる騎士団に現在所属してることを考えれば、ありではあるか」
全くもってアラッドの一存で決められる事ではなく、仮にこの話をフローレンスに通したとして、黒狼騎士団の団長がフローレンスでもないため、結局関係者だけで決められる話ではない。
「あの、アラッド様」
「ん? どうした」
歳若いメイドがアラッドに声を掛けてきた。
「あの、アッシュ様に婚約者出来るかもしれないという、その話はほ、本当なのですか」
(し、しまった。普通の声量で話してしまった)
絶対に漏らしてはいけない秘密事項ではない。
ただ、気軽に誰にでも話して良い内容でもない。
「いや、可能性は低いと思うぞ」
「そ、そうですか」
当然の事ながら、アッシュはパーシブル家に仕えるメイドたちからも、その辺りの将来を心配されている。
そのため、アッシュに婚約者が出来た、もしくは気になる異性が現れたというだけでも、嬉しさで涙が零れるかも……といったレベルのビッグニュース。
可能性は低いと告げられ、肩を落すのも無理はなかった。
「ただ、どうなるか分からないとだけ言っておくよ」
「っ!!!」
「でも普通に話してた俺が言うのもあれだけど、あまり広めないでくれると嬉しい」
「わ、解りました!!!!!」
若いメイドは深々と頭を下げ、ルンルン気分で仕事へと戻って行った。
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