七百六十話 早く移動した方が
ライホルト達と別れの挨拶を済ませた翌日、アラッドたちは予定通りアルバース王国へと帰宅。
「お疲れ様、アッシュ」
「改まってどうしたんですか、アラッド兄さん」
馬車の中で、アラッドは改めて弟に労いの言葉を掛けた。
「いや、今回の代表戦、対価があったとはいえ、お前が一番思うところがあったと思ってな」
話が来た時こそ、物凄く乗り気ではなかったアラッド。
しかし精霊剣を持つラディア・クレスターとの戦いでは狂化を使わざるを得ない状況にまで追い込まれ、後日ライホルト・ギュレリックとの試合では互いに狂化、巨人の怒りこそ使用しなかったが、満足のいく力勝負が出来た。
フローレンスはアラッドと違い、最初から代表戦に対して乗り気であり、自分を慕う者たちに正解の広さを教えることも出来た。
ライホルトとの代表戦も非常に満足感のある戦いを行えた。
そんな中、アッシュだけは戦いという行為に対し、価値を見い出してはいなかった。
「……確かに僕は戦いに対して特に思うことはありません。でも、こうしてアラッド兄さんたちと国外に旅行出来たのは楽しかったです」
「ふふ、嬉しい事言ってくれるじゃないか、アッシュ」
兄に気を遣っての言葉、ではない。
錬金術師の道にアッシュにとって、アラッドと共に旅行などする機会は基本的にない。
冒険者兼錬金術師という道に進めば、その機会もゼロとは言えないが……アッシュの中で、まだ完全にそちらへ揺れてはいない。
「ところで、アラッド兄さんはこれからどうするんですか?」
「ふむ…………全くもって考えてないな。スティーム、ガルーレ。何かここに行きたいって場所はあるか?」
今現在、アラッドはクロとだけで行動してるわけではないため、勝手に次の目的地を決めることはない。
「ん~~~~、今のところ特にこれといった場所はないかな」
「私はやっぱり、強い敵がいる場所かな!!」
「ガルーレらしいな。まっ、ってな感じで特に場所は決まってないな」
「そうですか。それなら、なるべく王都からは直ぐに移動した方が良いかもしれませんね」
「ん? なんでだ」
次の目的地へ向かえば、妹のシルフィーや友人のレイたちとは当分会わなくなるため、もう少し話して模擬戦したりしたいと考えていた。
「うちの学園の教師の一部は、アラッド兄さんが代表戦に参加したことを知ってます。他の学園はそれを知らなくても、アラッド兄さんが去年のトーナメントで優勝して冒険者として活動を始めてから、どれほど功績を積んできたのかは知ってます。是非とも、臨時教師として雇いたい人材の筈です」
アラッドを雇うことになれば、Aランクのモンスターである従魔だけではなく、既にBランク相当の実力があると噂されている有望な若手も臨時教師として雇える。
学園側としては、これ以上ない臨時教師である。
「パロスト学園は理解出来るが、他の学園もか? 俺は一応、パロスト学園の卒業生だぞ」
「他学園の卒業生だからといって、雇ってはいけないというルールはないでしょう。もしかしたら暗黙のルールがあるのかもしれませんけど、アラッド兄さんは現在冒険者なので、おそらく問題はないかと」
しっかりと学園を卒業したフローレンスの方に顔を向けると……本当に良い笑顔で頷かれてしまった。
(パルディア学園の卒業生としては、是非とも在校生の方々にはソルとルーナの二人と同じく、世界の広さを知って欲しいですし、良い機会になるでしょう)
勿論、フローレンスはアラッドと険悪な仲になりたくはないため、パルディア学園の学園長にあれこれ言葉巧みに唆す様な真似はしない。
ただ……卒業生として、それはそれでありだと思ってしまうのは、彼女の自由だろう。
「あれだね。一つの学園で指導を行ったら、他の学園も遠慮なく頼み込んで来そうだね」
「……一学園だけを差別するな、っといった感じでか」
「言い方が悪いと、そういうことになるかな」
スティームは特にそういった依頼が来たとしても、反対するつもりはなかった。
冒険者として上に登るのであれば、そういった教育面に関する依頼で高評価を残すことも重要になる。
(指導、指導、か~~~~。あの先生……アレク先生だっけ? あぁいう先生とか試合出来るなら、ありかな)
逆に、ガルーレとしては魅力的な報酬がなければ、あまり受けたいとは思えないでいた。
「仮に全部の学園で臨時教師をしてたら……軽く数か月は王都に滞在することになりそうだな」
王都は王都で多くの冒険者が滞在しており、活動する場として悪い場所ではない。
ただ……権力が密集してる場所とも言える。
「………………そうだな。シルフィーやレイ嬢に軽く挨拶をしたら、直ぐに王都から出るか」
その後、王都に到着して報酬を受け取ったアラッドは予定通りシルフィーやレイ嬢たちとナルターク王国での出来事を話し終えた翌日、面倒な人達に捕まる前に王都を出発した。
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