七百五十八話 実は前科あり
「いやぁ~~~~、強い強い。やっぱり普通の状態じゃあ、勝てないね」
「それは互いに本気でやってみなければ解らないだろう」
ダスティン対ガルーレの模擬戦は、ペイル・サーベルスが発動した時点で、ガルーレが自ら降参宣言をした。
(本当に……解らないだろうな)
今回、ダスティンはメインウェポンである大剣を使わなかった。
しかしリエラとの戦闘光景を観た限り、対武器の戦いには非情に慣れている様に見えた。
そして最後に放った掌底。
打撃を内部に浸透させる技術の高さがあれば……たとえ巨人の怒りによって防御力が上昇しても、完璧に防げるとは思えなかった。
「二人ともお疲れさん。全員それなりに戦ったし、少し休憩にしよう」
地べたに腰を下ろし、アラッドは休むと言いつつ、直ぐにガルーレに何故降参宣言をしたのか尋ねた。
「だってさ~~、あのまま戦ってたら、絶対にヤバいと思ってさ~~」
「ヤバい、なぁ……そういう展開を考えられるのはなによりだが、俺からすれば先程のリエラ嬢との試合も中々ヤバかったと思うんだが、それについてはどう思ってるんだ?」
「あ、あっはっは。そ、それは……ほら、良い感じにテンションが上がってしまったと言いますか~」
サッと眼を逸らしながら理由を口にするあたり、それなりにやらかしてしまった自覚はあるようだ。
「ったく。リエラ嬢はちゃんとお前が模擬戦ではなく試合をしましょうと伝えてくれてたからっていう理由で、特に文句はないみたいだが……あれは普通にヤバいからな」
勝ちたいという欲を行動に表す。
そこに関しては否定するところはない。
狂化というメリットはあるが、デメリットもごりごりにあるスキルを使用しているため、アラッドもそこに関してはあまり強く言えない。
ただ、物事には限度がある。
「なんかいけるな~って思っちゃってさ」
「思っちゃってさ、じゃないぞ。いや、あぁあいった選択肢を臆さず取れるのは、ある意味ガルーレの強さなんだとは思うが……とりあえず、次はさすがになしで頼むぞ」
「分かった分かった。さすがに私も反省してるって」
かる~く返事をするガルーレだが、割と本気でやってしまったな~と反省している。
(そういえば前にも似た様なことやっちゃったような……気を付けないとな~~~)
似た様な事というのは、ロングソードによる斬撃を……腕の筋肉でガードするというもの。
この場で口に出すことはなく、脳内で思い出すだけに留めるものの、仮に口に出していれば、アラッドでさえ引いてしまう。
勿論、状況は同じ冒険者との真剣勝負。
リエラとの試合と比べて、多少の違いはあれど……対戦相手が自分に殺意を持って襲い掛かってくるモンスターではない。
「でも、ライホルトもよく巨人の怒りを使わなかったね」
「ラディア、俺をなんだと思ってるんだ」
「割と人と戦うこと大好き騎士」
「…………否定はしないが、線引きは出来る」
そう言うライホルトだが、何度か予想以上に気持ちが昂ってしまう場面があった。
「ところでアラッド、お前は素手や剣だけではなく、他の武器も使えると聞いていたが」
他の武器、という言葉を聞き、ソルとルーナの体がピクリと震えた。
「もしかして、糸の事を言ってるのか?」
「そう、それだ。やはり、糸という武器を使うとなると、がらりと戦闘スタイルが変わるのか?」
「あぁ、かなり変わるな。とはいえ……ライホルトとやるなら、慎重に使わないといけないだろうな」
「そうなのか?」
情報として多少知ってるだけで、実際にその眼で見たことはない。
糸を使う人間と戦ったこともないため、ある程度は想像出来ても、実際にどういった攻撃方法があるのかは知らない。
(まず、魔力を纏った普通の糸だと……速攻で無理矢理引き千切られるだろうな。スレッドチェンジで鉄製の意図にしたとしても……そもそもな話、岩や鉄を纏えるのを考えると、切断とかも無理だろうな)
過大評価が過ぎる、とも言えない。
ソルとルーナには糸だけで、その場から一歩も動かず倒したが、フローレンスと激闘を繰り広げていたライホルトの姿を思い浮かべると……絶対に無理だと断言出来る。
「……そうだな。便利ではあるが、最強のスキルという訳ではない。出来る事と出来ない事は当然ある。当然、出来る事に関しても限度がある」
「…………」
糸に関して苦い思い出があるフローレンスとしては少し反論したいところだが、何故苦い思い出なのか、詳細を思い出すと……出来る事にも限度がある、という言葉に納得するしかなかった。
「けど、アラッドは魔法も凄いよね」
「それ、ラディア嬢が言うか?」
「うん。私が言っても、全くおかしくないと思うよ」
この後、試しにとアラッドは武器や体技の使用を禁止し、魔法だけで戦うという縛りで何度も戦わされたが……結果として、ライホルトたちから逆に何が出来ないのだ? と尋ねられることになった。
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