七百五十四話 多分という予想

「っ、参りましたわ」


「ありがとうございました」


剣先がリエラの心臓部に添えられたところで、模擬戦終了。


順当な勝利ではあったが、フローレンスとしても決して楽な勝負とは言えなかった。


「ね、ねぇアラッド。もう少しこう……ちゃんとしたルールを決めとかないか」


「……それもそうだな」


スティームの強さは、身を持って知っているアラッド。

しかし、ラディア・クレスターの強さも身に染みている。


初見とはいえ、という考えからどちらかの体……腕や脚、指などが欠損した場合、即刻終了というルールが追加された。


「ちなみに、ガルーレやアッシュはどっちが勝つと思う」


「ん~~~……やっぱりスティームかな~~」


「僕も同じです。アラッド兄さんは?」


「俺も二人と同じだよ」


実際にスティームの戦闘力、もっと言うと切り札の強さを知っている二人は、多少迷うも、今回の試合に限ってはスティームが勝つと断言。


「お前たちがそこまで言うか……ふふ、断然俺も戦いたくなってきたな」


「私としましては、良い戦いになるのは間違いないと思うけど、そこまで三人が断言するほど一方的な内容になるとは……」


ラディアから見て、スティームはある程度解り易い強さを有している。


観察眼、視る眼云々の問題と言うよりは、負けたくない……ライバル視せざるを得ない雰囲気を感じ取っていた。

それもあって、スティームの事は一ミリも見下しておらず、全力で戦えば自分の方が上だとも思ってない。


だが、制限ありとはいえ、条件が同じであればそこまで一方的な展開になるとは思えない。


「それでは、二人とも魔力、属性魔力の使用のみ。スキルの使用は控えるように。では…………始め!!!!」


試合開始の合図と同時に、ラディアの視界からスティームの姿が完全に消えた。


「っ!!!!!!!」


姿が消えた。

しかし、一瞬……地を蹴る音は確かに聞こえた。


であれば、地中に潜ったという線は消えた。


一瞬でその思考に至ったラディアはロングソードに水の魔力を纏い、後方に向けて体を捻り、斬撃刃を放つ。


「勝負あり、で良いですかね」


「なっ、ッ……」


放たれた水の斬撃刃がスティームに当たることはなく、開いた脇に雷を纏った双剣の剣先が向けられていた。


直ぐにその場から離脱はしたものの、もし……スティームが声を掛けず、下から双剣を突き上げていればとイメージすると……体が震えた。


開始の声と同時に全身に魔力を纏い、防御面も条件下に限れば万全。

しかし、刃を向けられた部位は非常に防御力が低く……心臓に刃が届かずとも、そのまま片腕が再起不能にされていてもおかしくはなかった。


「っ……っ…………ふぅーーーーーー。私の、負けですね」


どちらかの四肢、指などが欠損した場合、そこで強制終了にする……というルールを決めていた。

まだラディアの体は動く。


ただ、リエラがアッシュと戦った時と同じく……ラディアは自身の負けを受け入れた。


「本当に、見事でした」


「ありがとうございます」


握手を交わす二人。

そんな中、ラディアは一つスティームに質問した。


「……我ながら、さっきは良く反応出来たと思うのですが、何故回避出来たんですか?」


反応出来たから、と言われればそこまでである・

しかし、ラディアがほぼノータイムで……迷うことなく後方に水の斬撃刃を放てたのも事実。


「ラディアさんなら、多分反応すると思っていたので」


「そういう、ことでしたか。であれば、仕方ありません」


負けはしたが、そんな嬉しい返しをされては、納得するしかなかった。



「ッ…………速い、という次元ではなかったな」


二人から離れて、全体が見える位置で観戦していたからこそ、ライホルトは一応スティームが移動した動きを把握出来た。


それはリエラも同じだったが、それでも移動する姿は、ほぼ線と言っても過言ではなかった。


「雷の魔力……ですよね?」


そこはさすがに確認出来ていた。

だが、直ぐに何故それだけであっさりとラディアの背後を取れたのかまでは解らなかった。


「でも、それだけでラディアの背後を取るのは……そういえば、ただの線じゃなかったような」


「うむ。確かに移動した線が……赤かったな。そう、赤かった……っ!! アラッド、つまりそういう事なのだと考えて良いのか?」


「どうなんだ、スティーム?」


一応ラディアと試合を終えた友人に問う。


「そうですね。そういう事なのだと考えてもらって大丈夫です」


「……ふ、ふっふ、ふっふっふ。なるほど……確かに初見で戦っていれば、俺もラディアと同じ結末になっていたであろうな」


ライホルトは自身の攻撃力、そして防御力に自信がある。


しかし、速さに関してはラディアに勝てないと認めている。

そのラディアが……反応こそしたが、その動きは読まれ、明確に自分がやられるイメージを本能に叩きこまれた。


「それで、ライホルト。スティームの強さを見たわけだが、同じ条件で戦ってみるか?」


「ふっふっふ……はっはっは!!!! 当然、戦らないという選択肢はない!!!」


寧ろ闘志が燃え上がっており、今すぐに発散したかった。

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