七百四十二話 ときめきもクソもない

「やぁ」


「……うっす」


代表戦が終わり、高級宿の超快眠ベッドでぐっすり寝ていると……眠気が冷めて一回の食事スペースに降りると、何故かライホルトたちの姿があった。


「それで、朝からいきなりどうしたんだ?」


「アラッドたちは、まだ王都に滞在してるのだろ」


「そうだな。アルバース王国に戻るのは三日後だ」


アルバース国王としても、他国に来て用事が終われば速攻帰るというのは……色々と難しく、これを機にやらなければならない仕事もある。


勿論、国王の護衛はいるものの、本音を言えばアラッド達もいてくれると嬉しい。

追加で報酬も出るということなので、アラッドはその頼みを快諾した。


「それなら、俺たちが王都を案内しよう」


「……そっちの二人も一緒でか?」


そっちの二人というのは、リエラ・カルバトラとラディア・クレスターのこと。


「うむ、そうだが……何か問題でもあるか?」


(……堅物そうに見えて、割と女と一緒に行動するのに慣れてるタイプか…………一部の男子からは、意外と妬み嫉みを買ってるか?)


アラッドからすれば、問題大ありである。

先日、なんとかソルとルーナは宿に置いてきて、アラッドとアッシュとスティーム、ガルーレとフローレンスの五人と観光していたが、結局懸念通りバカ共に絡まれてしまった。


その日に起こった問題は決して二人だけのせいではないが、美女は爆弾と一緒だと認識している。


「…………分かったよ。せっかくだしな」


しかし、今回は目の前の岩男、ライホルト・ギュレリックが同行する。


(こいつがいれば、大抵のバカは近寄ってこないだろ)


アラッドは一応高身長と言われる部類に達しており、見た目からしてある程度の筋肉があることは解る。

だが……一人だけでは、やはり色々と心配に思うのも無理はない。


「つっても、ライホルト。俺らは演劇とか、美術展? とか、そういうのは見ないぞ」


「ふむ……そうなると、やはり冒険者らしく武器屋か」


「そうだな」


「なんですって!!」


ナルターク王国の王都に来てから、武器屋やそういった場所しか巡っていない。

その言葉を聞き、リエラの顔に怒りが浮かんでいた。


「……急にどうした?」


「王都を訪れて、そういった場所しか訪れないなんてあり得ませんわ!! ガルーレ、フローレンスといった逸材がいるのよ! もっと服やアクセサリーを見るべきでしょう!!」


言われてみればと思わなくはない。


しかし、二人も武器屋やマジックアイテム店を巡ることに賛成している。


「分かった、分かったから落ち着いてくれ……とはいえ、二人はどうしたい」


「ん~~~~………………まぁ、なしじゃないかなとは思うかな」


「私もせっかく他国に来たのですから、そういった商品を見たくはありますね」


「……そうするか。じゃあ、案内はライホルトたちに任せるよ」


朝食を食べ終えた後、早速アラッドたちはライホルトたちに王都を案内されるのだが…………観光が始まって数十分後、早速アラッドは案内をライホルトたちに……正確には、リエラに任せたことにかなり後悔していた。


「ふふふ、やはり二人とも似合う服が多いわね! ほら、ラディア。あなたはこっちに服を着てみなさい!」


「……分かった」


(…………テンション高いな~~~)


一応一緒に観光している体なので、勝手に何処かに行ってしまうのも、という思いがある。


「ライホルト……これ、あと何分続くと思う」


「アラッド、何時間の間違いではないのか?」


「……あまり、こういう時にため息を吐くのはよろしくないんだろうな」


入店した店にはいくつもの休憩用の椅子があり……店内には、アラッドたちと同じく、買い物に付き合わされている野郎たちが複数いた。


「アラッドはあまりこういった経験がないのか?」


「実家で生活している時は、基本的に好きな様に鍛えてモンスターと戦ってという生活を送れていた。特に買い物に付き合わされる経験はなかったんだ」


次女であるシルフィーは言わずもがな、長女であるルリナも……他の令嬢たちと比べて、そこまで強い興味はない。


その為、買い物にアラッドが付き合わされることは殆どなかった。


「スティームは?」


「僕は何回かはあるから、全く慣れてないって訳じゃないかな」


「そりゃ羨まし…………いや、全く羨ましくないか」


三人ともやれやれといった表情を浮かべており、アッシュに至っては……昼間もゴロゴロと寝るタイプではないが、早くもシャットアウトしかかっていた。


(本当の良い男ってのは、こういった時に気の利いた感想でも口にするんだろうが、全くそんな気力は起きないな)


ガルーレとフローレンス、ついでにリエラとラディアの事は美女だと認めている。


ただ、だからといって心の底からドキドキすることはない。

前世では決してモテて女性に困ることがないような学生ではなかった。


寧ろ飢えていた側ではあったものの……生まれた時から容姿のレベルが高い者たちが周囲に多く、アラッド自身も前世と比べて容姿のレベルが格段に上がったこともあり、特別そういう関係ではない美女たちと共に行動していても……やはり甘酸っぱい何かを感じることは、一切なかった。

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