七百三十一話 例えるなら

(……まぁ、この世界の常識に照らし合わせれば、一番おかしいのは俺か)


別世界の魂を持つ転生者、という要素がそもそも未知過ぎる存在であるのは間違いなかった。


「未知の宝石、ねぇ…………そもそもな話、俺は宝石なんて可愛い存在か?」


まだ納得がいかないといった表情を浮かべるアラッドに対し、フローレンスは既に返す言葉を用意していた。


「では、幾千の戦場を越えてきた業物、と言えば良いでしょうか」


「…………止めてくれ。とりあえず、自分で言い表すのは憚られる言葉だ」


悪くない、と思ってしまう男心はあったものの、それはそうとしてクソ恥ずかしいのも事実だった。


「ふふ、そうかもしれませんね。ですが、宝石よりも似合う例えではありませんか?」


「……チッ、分かった分かった、俺の負けだ」


周囲を見渡す限り、弟もパーティーメンバーも一切フローレンスの言葉を否定しようとはせず、寧ろ各々満足気な顔を浮かべていた。


「ったく…………フローレンス、お前も似合ってんじゃねぇのか?」


「あら、それは……ふふ、珍しいこともあるのですね」


アラッドに褒められることはあっても、それは基本的に戦闘に関する事だけだと思っていたフローレンス。


「俺も一応貴族の令息だからな。社交界で放っておけば、永遠に囲まれ続けるぐらいには、華やかになったんじゃないか」


普段のフローレンスに華やかさがない、とは思っていない。

ただ、そこまで説明するのは面倒であり、そこまで説明する理由もない。


縁が薄いソルとルーナは解っていなかったが、フローレンスは……そこまでアラッドが考えていることを理解しているからこそ、殆どの令息……いや、野郎たちが見たいであろう笑みを零した。


「とても、嬉しい褒め言葉ですね」


「そりゃどうも」


これまで何度も言われてきただろ、という言葉をそっと飲み込んだ。


何故なら……それを口にすれば、また自分が褒められてしまうような気がしたから。


何を嫌がるのだ? と疑問に思う者が殆どだろう。

寧ろフローレンスほどの美人に褒められるのを、何故渋るのだと……多くの野郎たちが、アラッドの考えを理解出来ず、こいつはバカなのかという顔を向ける。


「アラッドを武器に例える、か……ん~~~~~、かなり難しいね」


「アラッドなら、やっぱりどっしりとしたロングソードじゃないの?」


「メインで使ってる得物だけど、アラッドの強さはそれだけじゃない気がして……」


「…………輝きと不透明さを併せ持つ、糸?」


アッシュの言葉に、二人とも納得のいった表情を浮かべるも……それだけではないという思いがまだ残っていた。


「そうだね。アラッドはあまり普段から使わないけど、糸もアラッドの立派な武器…………でも、なんだろうな」


「ん~~~…………あっ!! ほら、アラッドは糸もあれだけど、やっぱり狂化の印象が強い気がする」


「っ!! うん、確かにそうだ。そうなると…………先日、ショーケースを割ってアラッドの前に移動した、刀という武器が合う、のかな」


スティームはそこまで刀という武器に対して知識がある訳ではないが、それでもいきなり自身を覆う結界? を破り、持ち手として相応しい者の前に動いた。


荒々しく、自分の意志を曲げない。


刀という武器のイメージではないものの、あの武器はまさしくアラッドを現した得物ではないか? と思い始めた。


「お前らな……人のイメージ? を勝手に玩具にするなよ」


「ごめんごめんって。でも、宝石で表されるのは嫌なんでしょ」


「嫌というか、俺には合ってないと思うだけであって…………はぁ~~~~。まぁ、そうだな。誰が俺をどうイメージしようと、そいつらの勝手か」


自分に似合うイメージの武器はなんなのか。

そういった事に関して考えられるのは……悪い気はしない。


悪い気はしないが、できれば自分の傍で話し合うのは止めてほしいアラッドだった。



「こちらでございます」


王城で働く自分に案内された場所は、よくパーティーに使われるホール。


「ありがとうございます」


アラッドが先頭になって会場に入ると……中には、既にアルバース国王を含め、それなりの人数がいた。


(……祝勝会って、アルバース王国の人間だけじゃなくて、ナルターク王国の人間とか関係無しに行うものだったのか……それは、良いのか?)


今更色々とツッコむことは出来ず、パーティーの主役であるため、速攻で抜けるわけにもいかなかった。


「ふっふっふ、来たか。おっと、堅苦しいのは抜きにしてくれ。祝勝会の場だからな」


「かしこまりました」


「………………」


「えっと……顔に、何か付いているでしょうか?」


やはり自分が礼服を着て、更に普段はしない髪のセットまでしてしまうと、馬子にも衣裳感が強過ぎるかと思ってしまうアラッド。


しかし、アルバース国王は全くそんな事は思っていなかった。

寧ろアラッドの姿が似合っていたからこそ、少しの間無言になっていた。


「いや、そういった服装も似合っていると思ってな。無論、三人ともな」


三人とも似合っている。

その言葉に嘘偽りはないが、アルバース国王の頭には……アラッドと共に並ぶ娘の姿が大半を占めていた。

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