七百十一話 炎上するぞ
「そこまで!!! 勝者、アッシュ・パーシブルっ!!!!!!!!!!」
審判がアッシュの勝利宣言を行うと、直ぐにアラッドとアルバース国王が拍手を行い、他の観客たちもそれに続いて両者に拍手を行った。
「やったねアラッド!! 弟君の大勝利、圧勝だったね!!!」
「そうだな…………ぱっと見は、圧勝と言えはするか」
相手の攻撃を一度も食らうことはなく、自分はいくつもの斬撃を与えて肌を……肉を刻んできた。
そして最後は首を斬るのではなく、首筋に剣先を添えるという余裕までみせた。
(首を少しでも斬るのではなく、剣先を添えたのは確かにアッシュの余裕と言えるかもしれないが、もし……あのまま勝負を続けられたとしたら、危なかっただろうな)
アラッドは弟が本当は結構ギリギリだという事を見抜いていた。
アッシュの人間のリミッターを無理矢理外す荒業も、永続して使い続けることは出来ず、時間制限付き。
あれ以上戦闘時間が伸びていれば、結果は逆だったかもしれない……そんな可能性まで考えるも、それでもアラッドのアッシュに対する超高評価は変わらなかった。
「待ちなさい」
「? なんでしょうか」
呼び留められたアッシュは気だるげな顔をしながらも、振り返って立ち止まった。
「名前は……アッシュでしたね」
「はい、そうですが」
「あなた、今婚約者はいるの?」
「????? いえ、いませんが……何故???」
頭の上に大量の疑問符が浮かぶアッシュ。
「では、アッシュ。私と婚約しましょう!!!!!!」
「めんどくさそうなのでお断りさせていただきます。では」
「………………えっ」
予想外過ぎる返答に固まってしまうリエラ。
だが、それは観客席にいる両国王やアラッドたちも同じであり……ツッコミどころが多過ぎて、数秒間の間……完全に空気が凍り付いてしまった。
「……ぷっ、ふ……ふっふっふ。や、やっぱり……さすが、アッシュ、だな」
小さな笑い声を零したのは、兄であるアラッド。
それを皮切りに、笑い声だけではないが、会場にいるそれぞれ目の前で起きた光景に関して言葉を交わし合う。
「ま、待ちなさい!!!!!!!」
リエラは顔を真っ赤にしながらアッシュを追いかけようとするが、ナルターク王国側の騎士にがっしり両肩を掴まれ、無理矢理リングから降ろされ……反対方向へと消えていった。
「おつかれ、アッシュ」
「勝ったよ、アラッド兄さん」
「あぁ、ちゃんと観てたぞ。ナイスファイトだった…………ぷっ、でもお前……あれどうするんだよ」
リングへ向かう途中で、観客席に向かっていたアッシュに遭遇。
良い笑顔で短時間ではあったが、見応えのある試合だったと伝えるも、そのあ谷リエラから「私と婚約しましょう!!!!」と伝えられた光景を思い出し、思い出し笑いが零れる。
「私と婚約しませんかというやつですか? おそらく、試合でテンションが変な方向に振り切れてしまったのでしょう。落ち着けば、自分がどれだけ意味不明な発言をしたのか理解するかと」
「アッシュ、お前…………まぁ、それがお前らしいと言えばらしいんだが…………俺の予想では、多分激しい試合でテンションが昂ってしまったからという理由ではないと思うぞ」
「そうなのですか? しかし、僕にあの人が婚約を申し込む理由が特にないかと」
自分の事に関しては中々に無頓着であり、碌に考えようともしないアッシュ。
代わりに兄であるアラッドが、どれだけアッシュ自身に価値があるかを伝えた。
「よく考えてみろ。まず、第一にお前はあの令嬢を一人で倒した。騎士の道を目指し、代表戦に出たことを考えれば、将来の相手に強さを重視するのは当然だろ」
「ふむ……言われてみれば、それは確かに納得出来ますね」
「加えて、まだ身長はそこまでないが、まだまだこれから成長期ってことを考えれば、身長は伸びていく。そして面も良い」
「……そうなんですか?」
(………………前世だったら、絶対にネットで炎上した会話内容だろうな)
ダウナー気味ではあるが、アッシュの容姿は間違いなく美男子に分類される。
全くもって本人にその気がなくとも……モテない男子の前で面が良い、顔のレベルが高いという言葉に対して疑問を感じる言葉を口にすれば、完全に喧嘩を売っていると思われてしまう。
「アッシュ。お前の父さんと母さんの見た目はどうだ?」
「…………なるほど。アラッド兄さんが何を言いたいのか解りました。確かに、客観的に見ればそれなりの部類に当てはまるかもしれません。しかし、あちらの方も侯爵家か公爵家のご令嬢ですよね? でしたら、もっと良い方を選べると思うのですが」
「そこにさっき言った様に、強さが絡まってくるんだ。あのご令嬢がそこら辺の令息に負けると思うか?」
「あまり多くの方と模擬戦をしたことはありませんが、おそらく負けないかと」
「だろ。そういった理由も含めて、あのご令嬢はアッシュと婚約したいと思ったんだよ」
「……でも、僕断りましたよね?」
「ふっふっふ……それで諦めてくれると良いな」
アラッドの予想では、全く諦めるようには思えなかった。
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