七百三話 ただ強いだけではなく

「ごめんごめん!! 一緒に行動してるってのもあるけど、アラッドはこう……貴族の枠にハマってないタイプの人間って感じだからさ」


(そりゃまぁ、前世は本当にただの一般人だからな)


この世界では、自分は貴族という一応特別な部類に入る立場の人間だということは解っているものの、それでも根っこが一般人……平民であるため、全く世間一般的な貴族というイメージを持つことはなく、染まることもなかった。


「けど、それでもオーラとか格? そういうのがないわけじゃないんだよね」


「冒険者という戦闘者であはあるからな。オーラや格で言えば、二人にもあるだろ」


「そう? アラッドにそう言われると自信になるわね!!!」


「ガルーレの言う通りだね」


スティームはアラッドのやや強面な見た目、雰囲気が羨ましいと思っていた。


容姿が悪いわけではないが、スティームはイケメンの中でも優男の部類。

それが要因で、これまで面倒に絡まれてきた。


「でも、なんて言うか……アラッドはそれだけじゃないって言うか……武人? ってやつかも」


「武人、か……武人???」


アラッドは自身が有する手札を全て思い返し……ガルーレの自分を表現する言葉に嬉しさを感じたものの、それは違うなと思い、首を横に振った。


「嬉しい言葉だが、武人ではないと思う。俺は多くの事に手を伸ばし過ぎているしな」


「それはあんまり関係無いんじゃないの?」


「さぁ…………どうだろうな。ただ、個人的には違うと思う」


武人という言葉は、この世界でも前世と似た様な意味を持つ。


しかし、アラッドには漢字という言葉で表された武人のイメージが強く残っており、やはり自分には合わないなと、再度首を横に振った。


「では、求道者でしょうか」


「……求道者か」


「ただ大きな力を持っているだけではなく、何かを求め続け、道を歩み続ける。確かにアラッドは多くの事に手を伸ばしていますが、それでも上を目指し……求め続けているかと」


ただの強者、猛者ではないからこそ持つ、独特な雰囲気。


「あっ、気に入ったみたいね」


「まぁ……そうだな。悪くはないと思った」


ここで否定しても、本心では気に入ったとバレているため、特に隠そうとせず認めた。


「っ、少しあの店に入っても良いか」


「えぇ、勿論ですよ」


気になった店に入ったアラッドたち。

そこはマジックアイテムが売っている店であり……ダンジョン産のマジックアイテムもそれなりにショーケースの中に置かれていた。


(っ……良質なマジックアイテムが、多いな)


アラッドが錬金術で造る物の中で一番得意なのは、勿論キャバリオン。


それ以外のマジックアイテムも造れることには造れるが、目の前に並んでいるマジックアイテムほど良質な物をコンスタントに造れない。


「何か買うのかい、アラッド」


「……絶賛悩み中」


「そうなのかい? アラッドの財力なら、確かにショーケースに並べられているマジックアイテムたちは良い値段がするけど、買えないことはないだろ」


「そうだな。ただ……こういうのは、ダンジョン探索とかで手に入れた方が楽しいよな~と思ってな……それに、今入り用って訳でもない」


従業員たちからすれば冷やかしかとツッコみたいところだが、店内にいる冒険者たちはアラッドの言葉に同意できる部分があった。


「けど、それでも見ていたいもんだ……ガキだからな」


少年がトランペットを眺める、という表現は古いだろう。

少年が高額なポ〇モ〇カードを眺めるといった表現が相応しいだろう。


そういった感覚に近いアラッドはゆっくり……ゆっくり歩きながら、マジックアイテムを一つ一つじっくり見ていく。


(……そういえば最近、普通のマジックアイテムとかは造ってなかったな。久しぶりに、何か造ってみるか)


数十分、じっくりと商品を眺め続けたアラッド。

結局何も変わらず、従業員からすればクソ客に値するが、接客のプロフェッショナルである彼らは当然、顔に出さない。


「そろそろ出るか」


「うん、そうだね。ところでアラッド、あれ助けなくて良いの?」


「ん? ………………ふぅ~~~。あのバカタッグを連れてこなくて正解だったな」


視線の先には、おそらく貴族の令息である男たちに絡まれているフローレンスとガルーレがいた。


(あの感じ、フローレンスは自分の正体を明かしていないのか? 確かに明かせば、それはそれで面倒に思うか……クソ馬鹿野郎であれば、それならばと更に欲しくなるのかもな……理解出来ないが)


一応……アラッドはフローレンスに、お前なら一人でなんとか出来るだろ、とアイコンタクトを送るが、フローレンスはニコニコと笑顔を返すだけだった。


(…………チっ)


なんだかんだで絡まれている二人の元へ行き、助け舟を出すアラッド。


「あんたら、悪いな。そっちの二人は俺の連れなんだ。ナンパならよそでやってくれ」


今年で十六のアラッド……雰囲気だけを見るならば、多少の幼さはあれど、体格は完全に大人。

加えて、容姿も強面寄りの良い男であり、面倒なナンパ男たちが後退りながら去っていく可能性はゼロではないのだが……今回のナンパ男たちは、残りの割合に含まれる話が通じないタイプの野郎どもであった。

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