六百九十五話 ちゃんと伝えている

(クソッ!!! この距離まで気付かなかったとは……夕食中とはいえ、不覚だ!!!)


アラッドだけではなく、クロも同じ気持ちであった。

誰かに言われたわけではない。

それでも……クロの中で、自分の第一の役割は接近者の発見だと思っていた。


(敵意や殺気は、ない? けど、この感じ…………間違いなく強い!!!!)


やはり野営は野営で面倒なことになったと思いつつ、冷静に接近者の出方を窺う。

現在、アラッドたちの役割は接近者を倒すことではなく、国王を第一に守ること。


接近者の殲滅は二の次。


「安心するんだ。争うつもりはない」


「ッ!? その、声は」


茂みの奥から現れた人物は妙齢のダンディな男。

中華風の服装を身に付けており、こう歳を取りたいと思う理想を体現していた。


「も、もしや…………木竜殿、でしょうか」


「うむ、その通りだ」


「「「「「「「「っ!!??」」」」」」」」」」


国王は当然知っており、現在護衛中の騎士や宮廷魔術師たちも話だけは聞いたことがある。


「この間ぶりだな、アラッド、クロ。そしてスティーム、ファルよ」


「お、お久しぶりです」


スティームも木竜の声には聞き覚えがあり、直ぐに万雷をしまった。


「国王陛下。こちらは以前、手紙でお伝えさせていただいた木竜殿です」


「サンディラの樹海を住処とし、一度消えたという……」


「怪しむのは当然であろう。であれば、元の姿に戻ってみようか?」


「いや、大丈夫だ。実際に出会ったアラッドとスティームが認めているのだ。必要以上に怪しむ必要はない」


国王が出来ではない断言したため、騎士たちも得物を一応下ろした。


「同席しても良いか?」


「っ、えっと…………も、勿論です」


この場で決定権があるのは自分ではない。

そう思って国王に視線を向けるが、帰って来た答えはアラッドが決めてくれというもの。


アラッドとしても来客を断れる存在ではないため、同席を許可した。


「それで、木竜殿は何故此処に?」


とりあえずそこを訊かなければ始まらないと思い、交流があるアラッドが訪ねた。


「参加させてらうとなれば、まずはアラッドの上司? とやらに当たる人物に礼を言っておかねばと思ってな。私なりに考えた結果、国王という結論に至った」


「…………っ、なるほど。そういう事でしたか」


この木竜の言葉だけでは、全員が何を言ってるのか理解出来ない。


しかし、ある程度事情を知っているスティームと国王だけは理解出来た。


「なるほど。そうであったか。しかし……話を聞いた限り、あなたは今でもサンディラの樹海を住処としていると聞いているが」


木竜があの一件に関して、直々に礼を言いに来た。


一国の王と言えど、相手はAランクの正真正銘、ドラゴン。

ほんの少し嬉しさがある……だが、明確な住処を持っているドラゴンが移動したとなれば、それだけで騒ぎが起きるというもの。


やはり王としては、まずそこが気になった。


「安心しろ。確か…………クランの名前は、緑焔だったか。そこのトップであるハリスという男に話は付けてきている」


見た目(人間態)通り、猪突猛進ではない。

自分が別空間に消えたことで、人間の世界に及ぼした影響は忘れておらず、出発前にどうやって騒がれず人間に少しの間移動すると伝えようか、しっかりと考えていた。


(良かった~~~~。勝手にここまで来てたら……いや、別に木竜殿は誰かの従魔ではない訳だから、誰かの許可なしにあそこから移動する必要はないんだけども、とりあえず本当に知恵というか人間界の常識があるドラゴンで助かる)


今回、木竜が自分たちに会いに来た一件、特に問題はない。

そう思ったアラッドだったが……一つ、頭の中に疑問が浮かんだ。


(……もし、陛下が相手国に行く予定がなく、王城から出る予定がなかった場合……どうやって会いに来るつもりだったんだ?)


もしかしたら、アラッドの気配を負って見つけ、アラッドを経由して国王に挨拶しようと考えていたのかもしれない。


そうであれば、特に問題はない。

ただ……人間界の常識を持っていれど、ドラゴンはドラゴン。

Aランクの超猛者であるため……面倒な部分は端折る可能性も否定出来ない。


(…………き、聞かないでおこう)


ここで素直に木竜が国王への接近方法を語れば、それはそれで問題になりそうだと予想したアラッドは、大人しく肉料理を摘まむ。


「ところでアラッド、スティーム。お前たちは何故、国王と共に行動してるのだ? 私の記憶が正しければ、お前たちは冒険者として行動していた筈だが」


国王に感謝の気持ちを伝え終えた後、木竜は直ぐに気になっていたことを尋ねた。


「え、えっとですね。実は……」


木竜が相手となれば、特に隠すこともない。


国王ともアイコンタクトで確認を行い、アラッドは何故国王や騎士、宮廷魔術師たちと共に行動しているかを伝えた。


「なるほど。そういう理由だったか…………」


理由を聞いて納得した木竜。


ただ、納得はしたものの、アラッド以外の代表戦に参加した者を見渡し……思わず口にしてしまった。


「その代表戦とやら、やる意味はあるのか?」

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