六百八十九話 あちらの国にもいるのか?
「やっぱり、アラッドはフローレンスさんの事を認めてたのね」
「……そりゃどういう意味でだ」
「勿論、一人の戦闘者? としてよ」
学園に向かう途中、ガルーレはニコニコと笑いながらアラッドをほんの少しからかおうとした。
だが、アラッドはガルーレの言葉に対し、一切照れることなく返した。
「当然だろ。あの決勝戦……最後は、俺の方が気迫で上回っていた。クロがまだ戦えたっていう細かい点はあるが、それでも互いにギリギリだった」
「……その気迫の差が、実際のところ大きな差……とは思わないんだね」
「そう考える人もいるだろう。俺自身、その考えは解らなくもない。けど……あの戦いでは、本当に最後のその点でしか、勝っているとは思えなかった」
(身を削って相手の骨を断つ覚悟、ってやつかな? …………やっぱりそういう点を考えると、その時点ではアラッドとフローレンスさんには、それなりに大きな差がある様に思えるけど……でも、実際に戦ったアラッドにしか解らないところもあるんだよね)
本人が僅かな差しかなかったと言うのであれば、本当にその通りなのだろうと納得するしかない。
(……当然だけど、やっぱり嫉妬もするね)
一人の戦闘者として認めつつも、一人の貴族としては苦手なのだろうという思いが本当なのは間違いない。
それでも…………戦るなら真剣で、命懸けで。
そんなぶっ飛び過ぎている、あるいは非常識とも思える熱を、闘争心をフローレンスには持っている。
「けどあれだよね~~~。こっちにはアラッドがいて、フローレンスさんがいて、アラッドの弟のアッシュ君が居て…………ってなるとさ、正直勝負にならなくない?」
言ってはいけない事を言ってしまった……と思ったスティーム。
スティーム程では無いにしろ、ガルーレの発言に「こいつ言ってしまったよ」という顔になるアラッド。
「??? 二人共顔大丈夫???」
「あぁ、大丈夫だよ………まぁ、そうだな。俺も天狗になってる訳じゃないが、同じ二十歳以下の冒険者でと考えると…………いや、スティームやガルーレの様な冒険者がいると考えれば、向こうの国が自信満々で選出できる冒険者がいてもおかしくはないか」
「「…………」」
スティームとガルーレも、同年代の中では頭一つ二つ抜けた実力を持っている自覚はある。
今更そういった点に関して謙遜するほど悪い意味で天然な性格ではない。
ただ、仮に自分たちがアラッドと本当に互角の勝負をするなら、自分たちの身体能力やスキル、力を合算させてようやく本当の意味で互角になれる……と考えている。
(十年に一人、百年に一人の怪物…………そう呼ばれるほどの若手冒険者と若手騎士。そりゃ他の国にもそう呼べる人がいるのかもしれないけど……アラッドに限っては、一人でAランクのモンスターを倒してるしなぁ……)
(そういえば、アッシュ君ってまだ中等部の子で……他の高等部の子たちが、レイが納得して学生代表に選ばれたんだよね…………戦闘にあまり興味がないだけで、戦闘センスだけなら自分よりも上だってアラッドが言ってたよね)
改めて考えると、やはり本当にわざわざ戦う必要があるのかとツッコみたくなる。
そんなもやもやを抱えながら母校に到着したアラッドはレイたちと合流し、昼間に何があったのかを伝えた。
「…………もし、今アラッド兄さんとフローレンスさんが戦ったら、どちらが勝つんですか」
アラッドは、最後に自分がフローレンスさんに軽く手合わせしないかと提案され、それを断った理由まで伝えた。
それを踏まえた上で……アッシュは純粋に疑問に思った質問を投げた。
「向こうもそれなりに修羅場を潜って来たっていうのを考えれば……互いの手札を全て使った場合、差が生まれるとしたらまずクロとウィリスの差がどれだけ埋まっているか、だろうな」
当然だが、アラッドは精霊についてあまり詳しくない。
なので契約した人物が成長することで、契約した精霊まで強くなるのか……そこら辺を詳しく知らないため、もしあの時からウィリスの強さが変わっていないのであれば、例え完璧な精霊同化を使われても負ける気はしない。
「でも、少しでもアラッド兄さんとフローレンスさんのタイマン勝負の時間が生まれるんだよね。そうなると、どうなるの」
「……以前は、狂化を使えば聖光雄化に対応出来たが…………おそらく、そっちも何とかなるだろうな」
手合わせはしなかった。
それでも向き合うだけで、フローレンスがあの決勝時の時よりも強くなっているのは解った。
聖光雄化の効果が以前までと比べて強くなっている可能性は……十分にあり得る。
(全体的に身体能力を向上させ、聖光を纏う強化スキル。練度が上がったりすれば……爆〇的なことが出来るようになるのか? いや、それはレイ嬢の領分か…………ただ、技術よりも力に特化した一撃が飛んできそうだな)
全力で戦えば、最悪どちらかが死ぬかもしれない。
そう考えているアラッドだが……それでも、成長の兆しは己にもあるという実感があった。
「フローレンスさんの聖光雄化も成長しているかもしれませんのよ」
「エリザ……それは、俺にも言える事だ」
その瞳に、自身の力を疑う色は……一切なかった。
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