六百八十七話 そっちは悪手

(こいつ、いったいいつまで、糸を出し続けられるんだッ!!!!!)


大剣を振るえば、斬撃刃を放てば糸が斬れる感触は……ある。


しかし、威力は殺されている。

得意な属性魔力である火を纏えばと思って行動に移すが、水の魔力を纏われてしまい、結局は威力を殺されてしまう。


どうすれば良いか、本格的に攻略方法が解らない。

ただ……それでも諦めるという選択肢はソルの中になく、当然ルーナの中にもなかった。


「……もう、十分暴れられただろ」


「っ!? 言い訳の、準備っ???」


「ポジティブな思考だな。でも、そういう意味じゃない」


そう言うと、アラッドは糸の槍を形成し……水の魔力を纏わせ、突貫。


「ぐっ!!!!!!!!」


咄嗟に大剣を盾にすることで直撃は防いだが、折角詰めたのに振出しに戻った。


「なん、だ……あれは」


「いけ、糸竜」


アラッドが生み出したのは……全身糸で生み出されたドラゴンだった。


「チッ!!! っ!!??」


「お前の相手は俺だ」


ルーナが狙われると瞬時に覚り、まずは予想外過ぎる生物? を殺そうと動くが、放たれた鋼鉄の糸がそうはさせない。


(……訳が解らない、とは思わない。属性魔法にも、あぁいった魔法はある。でも……いくらなんでも、手札が多過ぎる!!!!!)


心の中でアラッドの糸というスキルに向けての文句が溢れ出す。


それでも、勝負に理不尽が付きものであることは……これまでの戦闘経験で良く解っていた。

糸竜が自分に向かって来た……この状況から、他の糸を使った攻撃はないと割り切り、糸竜を倒すことだけに専念。


(全部に……全部に反応するんだッ!!!!!!)


さっさと操っている主を倒して相方の援護に、と考えられるほど温い相手ではないことは良く解っている。


相方を信じ、ソルは目の前の男を倒すことだけに全集中。


(こうなった相手は、ここからが怖いものだが……さて、どうだ?)


相変わらずアラッドは糸以外の攻撃を使わない。

当然身体強化系のスキルは使用しておらず、体に魔力すら纏っていない。


いくら強靭な肉体を持っていようと、ソルのパワーで放たれる火の大斬を食らえば……腕が吹き飛んでもおかしくない。


それは本人も解っているが……糸に魔力は纏っても、体には魔力を纏わない。

己が枷た縛りは破らない。


(…………ここにきて更に高まった集中力と野性の勘が合わさって、驚異的な反応速度だ。けど…………そっちを選んでしまったか)


そうなるのも無理はないという思いと、俺に向けると敵意や妬みはその程度だったのかという二つの思いがアラッドの頭に浮かぶも……決し手油断してるわけではない。


もう……既に勝ち筋は見えていた。


「くっ、っ!!!!????」


全てに反応しようと動き続けてきた結果、ソルは避けた場所に粘着性の糸による罠を食らってしまい、動きが止まった。


「チェックメイトだな」


引っ掛かると思っていたアラッドは事前に先程と同じく、水の魔力を纏った糸の槍を生み出し、ソルの頭部に刃先を添えた。


「~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!」


「……どうやら、あんたの相方の方が根性はあったみたいだな」


「どういう、事」


振り返ると、そこには体中に鋼鉄の針が突き刺さり……糸のハサミによって首をロックされているルーナがいた。


「っ……あの糸の、ドラゴン? は、どこにいったのさ」


「糸竜のことか? あれは確かにドラゴンに見えるだろうが、結局は糸……途中で形を変えることは難しくない」


アラッドによって生み出された糸竜は自身の身を削りながらルーナに攻撃を続けた。


ルーナはこのままでは埒があかないと判断し、最低限の部分だけを守りなが鋼鉄の糸が突き刺さる痛みに耐え、通常よりも強大な風槍を放った。


放たれた場所は頭部であり……通常のドラゴン、Bランクのドラゴンなどを倒す場合であれば、その一撃で終わる可能性はあった。

しかし……アラッドが生み出した糸竜は、中身がそこまでない。


翼や爪など、打撃や斬撃として使える部分には支えがあるものの、頭などには殆どなく、思いっきり変形させることで、強大な風槍を回避しながら近づくことが出来た。


「はい、そこまでですね。アラッド、ありがとうございました」


二人が慕うフローレンスが試合終了の宣言を行ったことで、水の魔力を纏った糸槍と糸鋏が消えた。


「正直なところ、色々と驚かされました」


「そりゃどうも」


「彼女たちはどうでしたか?」


この場でそれを訊くのか? と、口には出さないが心の中でツッコむ観戦していた騎士たち。


「糸だけで戦うという条件であれば、かなり面倒な相手と言える。俺とこいつらとの試合だからあり得ないが、奇襲されたら不味いだろうな。それぐらい、糸だけで倒すには集中力が必要だった」


結局、一対二という形でも……勝利したのはアラッド。


ただ……アラッドからすれば、自分のことをある程度知っていても、自分に喧嘩を売るだけの実力はあると認めていた。


しかし、それでも結果としてソルとルーナはアラッドを試合開始時から一歩も動かせずに負けた事に対し、非常にショックを受けており……メンタルに大ダメージを負った。


(可哀想とは思うけど、彼女たちから売った喧嘩というのを考えると……えっと、自業自得? ってやつなんだよね)


スティームからすれば、寧ろアラッドが糸だけで超集中して戦うのは、逆にサービス対応ではと思えた。

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