六百八十二話 条件は満たしていた

(クソ目立ったな)


茶会の申し出を受け入れたアラッドたちはフローレンスのお気に入りの店に移動。

フローレンスたちは王城まで場所で来たわけではなかったので、その店まで徒歩で移動することとなった。


クロとファルがいる。

それだけでどうしても目立ってしまうというのに、あの歴史に残る決勝戦を演じた二人が共に移動しているとなれば、どうしても更に注目が集まってしまう。


(前世だと、有名人とかはスマホによる撮影とかを一々気にしないといけなかったんだよな……そう考えると、ストレス半端なかっただろうな)


メニュー表を見ながら適当に注文を決め、店員に伝える。


「活躍は色々とお聞きしていますよ」


「そうか、それはどうも。悪いが、俺は自分の冒険に夢中過ぎて全く知らない」


本当に知らないため、隠すことなく堂々とお前の活躍話は知らないと伝えた。


当然のことながらフローレンスを慕う二人の女性は鋭い視線をアラッドに向けるが、フローレンスからすればその遠慮ない言い方に好感を持てる。


「ふふ、アラッドらしいですね。冒険者生活はどうですか」


「楽しんでるよ。元々そのつもりだったが、気の道に進まなくて良かったと思ってる」


騎士に向ける言葉ではないのだが、フローレンスは全く気にしていない。


アラッドもどれだけフローレンスの舎弟? から睨まれようとも、今はフローレンスとしか話していないため、全く気にする必要がなかった。


「冒険者として活動していなかったら、俺はスティームやガルーレと出会えなかった。それだけでも、冒険者の道に進んだ価値があると思っている」


流れ的に、冒険者としてどういった活躍をしたのか……そういった内容を伝えるのかと思っていたところで、まさかの自分たちの株を上げてくる発現。


当然、二人は笑みを浮かべながら照れる。


「アラッドは固定のパーティーを組まないと思っていましたが、お二人……スティームさんとガルーレさんであれば、諸々と納得出来ますね」


決勝戦で負けて以降、フローレンスの頭の中にはいつもアラッドという存在がいた。

当然、彼が今何と戦っているのか、どんな相手に勝利したのか、気にならない訳がなかった。


そんな中で、スティームの名は少し前から耳にしていた。

ガルーレの名前は初めて聞いたが、実際に戦わずともある程度の強さは把握出来る。


(ガルーレさんはアマゾネスの様ですが……やはり、アラッドに対してそういった気持ちは持っていないようですね)


アラッドが固定パーティーを組んでいる事には驚いたが、一定の強さを持っており……女性であれば、アラッドに対して恋愛的な好意を抱いていない。

この条件が揃っているのであれば、驚きはすれど納得は出来る。


「色々と縁あって、な」


「短期間の間に、三体のドラゴンに出会ったようですが、どうでしたか」


「……気迫だけで言えば、三体とも恐ろしくはあったな。どれが一番かと尋ねられれば…………木竜か」


「ドラゴンゾンビや、轟炎竜ではないのですね」


アラッドの答えに少し疑問を持ったフローレンス。


耳にした情報が正しければ、木竜とは対面しただけで実際に戦ってはいない。


「ドラゴンゾンビは殆ど理性が無いに近かった。轟炎竜に関しては戦闘力こそAランクなのは間違いない。ただ……若さが強かった、といったところか」


こいつは何を言ってるんだ? と、フローレンス信者の二人は首を傾げる。


ただ、アラッドと共に行動しているスティームとガルーレは、この歳より感……ベテラン感増し増しのセリフを、アラッドらしいの一言で受け入れていた。


「それに対して、木竜はまさに歳月が積み重なった強さを感じた」


「……戦わなくて良かったと」


「元々木竜とは戦うつもりはなかったがな。それで、そっちの騎士生活はどうなんだ? 噂じゃあ、王都所属の騎士団からの勧誘を蹴ったと聞いたが」


「噂通りで間違いありませんよ。卒業してからは黒狼騎士団で活動しています」


「確か、辺境や危険地帯をメインに活動している騎士団だったか」


アラッドは自国の騎士団であっても、基本的に興味がない。

だが、黒狼騎士団の名は僅かに聞き覚えがあった。


「その通りです」


「公爵令嬢のあんたには、暮らし辛いとこじゃないのか?」


勝手な想像であるが、間違ってはおらず……今は舎弟ではある接近戦タイプの女性騎士は、当時フローレンスに喧嘩を売った自分を思い出し、予想外のタイミングでボディーブローを食らい、苦い表情を浮かべる。


「そうですね。一般的にはそう思う環境かもしれませんが……強くなる為には、悪くない環境です」


「っ……そうか」


フローレンスの体から圧が零れたのではない。

その環境で得た経験が、間違いなく彼女の自信になっていた。


「完成させた、みたいだな」


「お陰様で、というべきでしょうか」


「…………それで、俺を越えたと、思ったと」


「……私が騎士として経験を積んでいる間、あなたも同じく冒険者として経験を積んでいた……そんな強者を既に越えたと思えるほど、愚かではありませんわ」


「そうか…………」


やはりやり辛い。


そう思いながら紅茶を口に入れる。


(……美味いな)


その美味しさが、今は何故か少し悔しかった。

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