六百七十八話 頷き辛い
「でもでも、アラッド兄様。ドラング兄様が勝負を挑んできたら、全力で戦うんですよね」
「そりゃそうなるだろうな。その時、俺が全力を出しても良いのか分からないがな」
「アラッド、そんなに余裕ぶっこいてたら、僕の時みたいになるんじゃないかい」
「色の付いた魔力……あいつの場合だと、火の色が変わるってことか?」
結果として赤雷を会得したスティームはアラッドに敵わなかったものの、焦らせて咄嗟に狂化を引き出すことに成功した。
「ギーラス兄さんが黒炎を会得したことを考えれば、可能性としてはあり得なくはない、か………それなら、俺としては望むところだな」
「そっか、アラッドらしい考えだね」
「そういえば、その話本当だったんだな」
「ギーラス兄さんが黒炎を会得した話か?」
「そうそう。いや、嘘なんじゃねぇかって疑ってた訳じゃねぇんだけど、超珍しい力であるのは間違いねぇだろ」
リオの言う通り、ギーラスの黒炎やスティームの赤雷は超超超超珍しい力である。
努力に努力を積み重ね、人から見れば狂気と言える鍛錬を積み重ねたからといって得られる力ではない。
それこそ、得られるか否かは才能が百パーセント言える力だが……実際のところ、どの分野の才能が大きければ得られるのか正確には解っていない。
「それは間違いないな。俺も……初めて見た時は、目を疑った。まぁ、同時にギーラス兄さんならあり得ると納得したがな」
「風竜……噂では、フールさんが昔殆ど一人で倒した暴風竜、ボレアスの子供だと」
「確かに、そう言ってた。実際にギーラス兄さんを攻めると同時に、配下にした大量のワイバーンとアサルフワイバーンとうちの実家に送り込んでた。強いことには強かった。それは間違いないんだが……」
「疑問に残る点があると?」
「……親である暴風竜ボレアスは、一人で多数の騎士を蹴散らし、最後は一騎打ちで父さんと戦って敗れた。性格がどういったものなのかは知らないが、それでも同族を引き連れて人族を襲っていたという話は聞かない」
本人から話曰く、暴風竜ボレアスの周囲には同族どころか、他種族のモンスターすらいなかった。
元々群れる個体ではなく、相手が多数であっても常に戦る気満々状態の暴れドラゴンだった。
「そんな奴の息子が……本当にあぁいった手を使うのかと思ってな」
「言いたい事は解るね。けどさ、ギーラスさんはフール様の息子なのは間違いないよね」
「おぅ、間違いないぞ。隠し子だったらびっくり過ぎて心臓が止まるな」
もしかしたら、そのままあの世に逝ってしまうかもしれない。
「暴風竜ボレアスの子供だと名乗って、ただ暴れるだけなら疑いの余地あるけど、わざわざギーラスさんとアラッドの実家を狙った事を考えれば、一応血が繋がってるのは間違いないんじゃないかな」
「…………納得は出来る。というか、その方が話に筋が通ってるか。けどなぁ……父さんと激闘繰り広げたドラゴンの息子が、戦闘力は一丁前にある小悪党ドラゴン、か」
「アラッド」
「ん? なんだ、ヴェーラ」
「アラッドと、ドラングも血は繋がってる。つまり、そういう事」
「……………………うん、そうだな」
非常に頷き辛かった。
先程までそれなりにドラングの事を褒めていた手前、本当に頷き辛い例えであった。
しかし……アラッドだけではなく、この場に居る殆ど人間が納得出来てしまう例えであるのは間違いなかった。
今のドラングが真っ当に真面目に、必死に前に向かって努力していることはヴェーラも解っている。
ただ、簡単な話……過去の罪? は消えることはない。
もっと深く言ってしまうと、ドラングはその件に関して自分から全力で向き合った訳ではない。
被害者側であるアラッドが「俺転生者なんだし、色々と仕方ない部分はあるよね~」と納得して飲み込んだだけである。
ヴェーラは決してアラッドに好意があるからということではなく、単純に簡単に許したらダメだよね~という気持ちが残っていた。
「とにかく、ギーラス兄さんは本当に黒炎を会得して風竜を倒したんだ」
「なら、あれじゃねぇか。ギーラスさんを狙う女性が大量に現れるんじゃねぇか」
侯爵家の令息。しかも長男で次期当主筆頭。
学生時代、トップクラスの成績を残して卒業後は騎士団に入団。
その後は順調に功績を重ね続け、遂に一人でBランクの属性ドラゴンを討伐し、ドラゴンスレイヤーの称号を得た。
弟がドラゴンゾンビを倒したと知っている手前、Bランクのドラゴンを討伐したぐらいでは騎士の……いや、全男子が一度は憧れた名誉、ドラゴンスレイヤーの称号を名乗れはしないと思っている。
しかし、それはあくまでギーラスの考え。
アラッドが一人でAランクのモンスターという功績に納得してないのと同じく、本人がその功績を納得してないという点は関係無く、事実は事実なのだと認識される。
「……父さんも嫁が三人いるから、そういった部分をギーラス兄さんが引き継いでてもおかしくはないか? 既にただの一騎士ではないってことを考えれば、多分そこら辺も兄さんのやりたいようにやれるだろ」
そこはアラッドがどうにか助けられる点ではないため、即考え込むことを放棄した。
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