六百六十五話 無理には食べない

「頼まれ、助けに行ったのに武器を貸すだけという選択肢を取った俺がこう言うのは……少しよろしくないとは思うが、良いものを見させてもらったよ」


「お、おぅ……ありがとな」


俺と君は対等。

そう伝えてくれたからこそ、なんとか敬語を使わずに対応するが……これが精一杯であった。


「アラッドの言う通りだね。正直、僕は無理にでも参戦してグリフォンを倒すことに賛成だった。でも……最終的には、君の戦いを観れて良かったと思ったよ」


当初の考えが覆るほど、心にくるものがある戦いだった。


そんなスティームの言葉は本物であり、一切の過剰表現はない。

寧ろ……アラッドがここまで褒める相手がいた、その戦いを観れた。


アラッドの横に並び立つことが当面の目標であるスティームにとって、良い着火剤となった。


「私もクラートの戦いを観れて、本当に良かったと思ったよ!!!」


「あ、ありがとう」


「ねぇねぇ、ところで好きな人とか彼女とか今はいない、大丈夫?」


「へっ!!!!????」


とりあえず褒められた……そこは解る。

だが、いきなり美女に詰め寄られ、後半……何を伝えられたのか直ぐには理解出来なかった。


「ガルーレ、少し落ち着け」


「そうだよ。クラートがびっくりしてるじゃないか」


すかさずアラッドとスティームが止めに入って引き剥がされるが、ガルーレの眼はまだそのまま……そう、捕食者の眼のままである。


「え、えっと……」


「あぁ~~~、安心してくれ、クラート。ガルーレは君の彼女になりたいとか、そういう訳じゃないんだ」


「?????」


ガルーレもそれを否定しなかったため、余計に訳解からなくなる。


「ガルーレはな、君を食べたくなったようだ」


「……へ?」


冒険者として数年以上活動しており、言葉の意味は解る。

意味は解るのだが……目の前のスタイル、容姿共にずば抜けている美女が自分をそういう眼で見ている、という状況に対してまだ初心さが残るクラートは自分にそういった興味を持たれた理由が解らなかった。


「あれだ、今は止めたけど、もしクラートにその気があるなら、後で声を掛けてみたら良い」


「いつでも待ってるよ!!!!」


「あ、はい」


ガルーレとしても、アラッドが英雄と評する漢を……無理矢理食べるのは気が引けるため、一応ブレーキはかけていた。


「それで……どうだ。グリフォンとの戦いを得て、何か一皮むけたという感覚があったりするか?」


「……なんと言うか、まだ体に疲れが残ってるのは間違いないと思うんだけど、同時に軽さを感じると言うか……不思議な感覚では、あるかな」


当たり前の話だが、クラートは明日までに回復する筈だった体力、魔力を無理矢理引き出した。


殆どグリフォンを一人で討伐したこともあり、レベルアップはしたものの……ドラ〇エの様にレベルアップすれば、体力と魔力も最大回復するわけではない。


脅威的な回復力でひとまず動くことは出来るが、今すぐフルスロットルで動くことは出来ず、魔力の回復速度も……普段と比べて遅くなっている。


万全の状態とは言い難いが、それでも今まで以上の動きが出来る……という確信に近い感覚があった。


「大きな大きな壁を越えたって感じだね~。アラッドも、似た様な体験したことはあるの?」


「…………多分だが、初めてBランクモンスター、トロールと戦った時だろうな。色々あったからそういうのを自覚する間がなかったが、おそらくあの戦いを終えた後は……今のクラートに近い感覚を得ていたと思う」


「っ! も、もっと詳しく聞いても、良いか」


「ん? 別にそんな面白い話じゃないぞ」


それでもと頼み込むクラート。


アラッドはクラートに対して、君がグリフォンに一人で挑む姿に惚れたと伝えてくれた。


だが、クラートにとって……アラッドも似た様な存在だった。

街を守る剣に、盾になると誓ったクラートからすれば、アラッドは冒険者になってから国内で活躍し続けている超新星。


歳下、後輩、貴族の令息。

そんな事、一切関係無かった。

自分よりも歳下の冒険者が命を懸けて何度も冒険している。


正直なところ、それが励みになったこともあった。


いつも耳に入ってくる話題の人物が目の前にいる。

是非とも、超新星が体験してきた激闘を、本人の口から聞いてみたかった。


「って、感じだ。あの時は……ふふ、ちょっと今日のクラートと考えが似てたかもしれないな」


「護衛の人たちからすれば、止めてくれって叫びたかっただろうね」


クロを殺されかけたアラッドが止まれる理由はなかった。

それでも、護衛の騎士やガルシアたちからすれば、せめて一緒に戦わせてほしかった。


相棒を殺した(実際は生きていた)相手は、絶対に自分が殺すと誓い、同時にその時得たスキル、狂化を発動したアラッドは止まらずに最後まで振り切った。


「我ながら無茶というか、バカなことをしたと思うよ……っと、そういえばクラートが起きたら渡したいと思っていた物があったんだ」


「渡したい、物?」


パッと頭に浮かんだ物は、自分が倒したグリフォンの死体。


しかし、アラッドが亜空間から取り出した物は……何かの骨だった。

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