六百六十話 待つ未来は……

「ねぇ、アラッド。聞き忘れてたんだけどさ、僕たちは付いて行っても良いのかな」


王都へ向かう道中の夜、ガルーレは既に爆睡中であり、二人だけでゆっくりとティータイムを楽しんでいた時、ふとスティームは自分たちが今回の一件に関して付いて行って良いのか否かという問題を思い出した。


「……別に構わないだろ。二人は今、俺のパーティーメンバーだぞ」


「うん、それはそうなんだけどさ。一応国と国の問題ではあるじゃん」


「国際問題と言うほど事は大きくないだろ」


ただの自慢会。

それがアラッドの今回自分が呼ばれた件に対する感想である。


「国王陛下は単純に自慢しただけなんだろう。俺としては嬉しいと言えば嬉しいから、特に文句を言うつもりはない」


会った回数は多くはないが、それでも……少なくとも、アラッドにとっては親戚のおじさんに近い感覚ではある。


「それでも、今回の件の発端に関わっているとは断言出来るだろ。だからこそ、俺のパーティーメンバーが同行することぐらいは了承してもらう」


「僕としては嬉しいし、ガルーレも嬉しく思うはず。でも、その……そんな簡単に国王陛下に意見しても良いものなのかい?」


少なくとも、スティームは自国の王に対して注文することは出来ない。


これに関しては認識、関係性の違いというのが大きく関わっていた。


「駄目だろうな。けどな、スティーム……忘れてないか? 国王陛下は、俺の客だったんだぞ」


「きゃ、客? ……あっ!!!」


「そういう事だ。ついでに、今後俺の客となるかもしれない人物の関係者だ」


かつて、国王はアラッドにキャバリオンの製作を依頼した。


その時に使用した素材は……当然の如く国王が用意したものだが、錬金術師としてはまだ一流に到達していないアラッドにとっては見ているだけで心臓の高鳴りが止まらなくなる物ばかり。


勿論、その高鳴りは嫌な激しさである。


アラッドは見事そのプレッシャーを乗り越え、最高のキャバリオンを完成させた。


(……あの時に重圧、思い出すだけで胃が痛くなるな)


いくらアラッドが転生者とは言え、元はただの高校生。

二十歳にもなっていない若造も若造。


人前でプレゼンをしたことなど無く、商談を成功させた経験などある訳がなく……異世界に転生するまで、物造りに没頭していたわけでもない。


「アラッドは国王陛下にキャバリオンを製作して売ったことがあったんだったね」


「思い出してくれてなによりだ。ガキもガキの頃だったから、俺が多少の無茶を言っても、聞き入れてくれるだろ」


今回の一件、自分が冒険者の代表枠として参加するのであれば、パーティーメンバーも一緒に同行させてほしい。


文面を見ても、さほど無茶な内容ではない。

スティームは他国の冒険者ではあるが、その兄が留学? といった形で現在アルバース王国の騎士団で活躍している。


「だから、そこら辺は心配しなくても大丈夫だ」


アラッドの言葉通り、王都に到着してからアラッドはこの件に関して国王に伝えるが、笑いながら許可して貰えた。



「っ!!! も、もしかしてアラッドさんでしょうか!!!!!」


「っ!!?? あぁ……俺は確かにアラッドですが」


王都に到着するまで歩いてあと数日といったところにある街で、アラッドは門兵の一人に声を掛けられた。


「お願いします!!!! あいつらを……あいつらを、助けてやってください!!!!!!」


解らない……目の前の門兵が何故自分に涙を流しながら頭を下げているのか分からないが、助けを求めていることだけは解る。


「……とりあえず、頭を上げてください。そして落ち着いて、何があったのかを話してください」


「じ、実は……」


門兵は本当に時間がないと感じており、一応落ち着くことは出来たが、それでも早口で何故アラッドたちに助けを求めたのかを伝えた。


「ほ、報酬はギルドが用意してくれます!! な、なんなら自分の貯金も全て差し出すので!!!!」


「……私からも、お願いしたい」


門兵の上司に当たる人物もやって来て、アラッドたちに向けて深く腰を折って頼み込む。


「スティーム、ガルーレ。良いか?」


「うん、勿論だよ」


「強いモンスターと戦えるのは大歓迎よ!!!!」


「っし。それじゃ、直ぐに行きます。方向は……多分、向こうですね」


任せてください。

そう伝えると、アラッドたちは微かに戦闘音が聞こえる方向へと走り出した。


「まさかグリフォンがここら辺に住み着いてるとはねぇ~~~」


「おそらくだが、あの街が有する戦力では、総力戦になるだろう」


アラッドは偶々通ろうとした街について詳しくは知らない。


だが、冒険者として生まれ育った街以外の街を見てきたことで、街の大きさからある程度有する戦力を測れるようになっていた。


「勝てる可能性がゼロとは言わないが、多くの死者が出れば、その分だけ今後の戦力に影響が出る」


戦乱の時代ではない。

他の領からの侵略に怯える必要はない。


しかし、またグリフォンのような強大な力を持つモンスターが住み着くか分からない。

故に……今回グリフォンを討伐出来たとしても、安泰な未来が待っているとは限らない。

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