六百三十一話 意外な事実?

散策を終えた翌日、宿の豪華な朝食を食べ終えた三人は直ぐに半ダンジョン化した鉱山に向けて出発。


「ねぇ、ギルドには寄らなくても良いの?」


「一応この前依頼を達成したばかりだからな……特に、行かなくても良いと思うが、ガルーレは何か依頼を受けておきたいか?」


「二人が受けなくても良いなら、私も別に構わないよ」


ガルーレは強い相手との戦いを非常に好む性格であり、ギルドに居れば何かしらそういった出来事に繋がるイベントが起こりやすいと……経験上理解している。


それはアラッドとスティームも理解している。

二人も強者との戦いは望むところだが、二人の経験上……満足出来る戦いが出来ることよりも、特に興味がない連中に絡まれることが多い。


今よりも上のランクを目指したいという向上心はあるが、急いで目指しているわけではないため、特に焦ることはなかった。


「そうか…………」


「アラッド、少し緊張してる?」


「まぁ、それなりにな。いつかダンジョンに挑もうとは思ってたが、まさかその前に半ダンジョン化してる場所に挑むことになるとは思ってなかったからな」


半ダンジョン化してるエリアに挑むのが先ではないのか? と良く知らない一般庶民は思ってしまうが、そもそも半ダンジョン化してる場所が極端に少なく、全体的に見て一般的なダンジョンの数の方が圧倒的に多い。


「はは! 確かにそうだね。僕もまだダンジョンには挑んだことがないから、これから半ダンジョン化してる場所に挑むのは……それなりに緊張するね」


「……そういえば二人とも、ダンジョンに挑んだことがなかったんだね」


ガルーレからすれば意外も意外な事実。


アラッドとスティーム、この二人のコンビがまだダンジョンに挑んだことがない……二人の冒険者歴を考えれば驚くことではないが、その強さを身を持って体験したガルーレにとってはかなり衝撃の事実だった。


「まだ冒険者になって一年程度だぞ」


「僕もまだ三年と少し……四年目ぐらいだから、特に珍しくはないよ」


「いやいや、二人ぐらいの実力があれば挑んでみようって思うでしょ」


それはそうである。


アラッドとスティームは実質二人ではなく四人に近い。

従魔にデルドウルフとストームファルコンがいるため、彼らが自分たちだけで挑みます! と言っても、そこら辺を理解している大人たちは全く止めようとしない。


「まだ早いというか……他にも興味が引かれる事とかあるからな」


「ふ~~ん? あっ、もしかして木竜がいきなり消えた事件とか?」


「あ、あぁ。そんな感じだ」


「あれね~~。確かに私も興味を引かれたというか、超びっくりしたよ。普通、そんな事ある? って感じで。だって、あそこの……サンディラの樹海だっけ? あそこに住み着いてる木竜って、確かAランク並みの木竜なんでしょ」


「そうだな。実際に会ったが……これまでの人生の中でベストファイブに入る衝撃だった」


今改めて思い出しても、アラッドの人生で確実に上位に入り込む衝撃だったと断言出来る。


(轟炎竜に遭遇した時よりも、恐ろしさや脅威……そういった意味では、木竜の方が圧倒的な……芯の太さ? があったからか、総合的に見てあの轟炎竜よりもサンディラの樹海にいる木竜の方が上なんだよな)


結果として木竜とは実際に戦うことはなかったが、それでも戦力は木竜の方が上に感じたアラッド。


「良いねぇ~~。羨ましい冒険者人生を送ってるね」


「そうだな……とはいえ、それなりにヤバいと思った瞬間もあるけどな」


「えっ、マジ!?」


「あるに決まってるだろ。俺をなんだと思ってるんだ」


「恐怖すら楽しく感じる狂人?」


「…………それ、俺の事じゃなくて自分の事じゃないのか」


絶対にあり得ないと言えないあたり、完全否定は出来ない。


だが、ヤバいと思った瞬間があるのは事実だった。


「あれだっけ、確かアラッドが初めて一人でAランクのモンスターと戦った時」


「よく覚えてるな。倒せたのは良かったが、それでも倒し終えた後、クロの声が無かったら、元に戻れてなかったかった」


「? クゥ~~ン」


良く解らないが主人に褒められ撫でられ、とにかく嬉しい感情が声に出るクロ。


「狂化の代償ね。でも、あんたはそういうのが解ってても構わず使うタイプでしょ」


「あぁ、勿論使う。デメリットはあるが、その感情も俺の武器だ……それを使ってこそ、俺の全力だ」


「…………かぁ~~~、カッコいいこと言うじゃ~~ん。でも、私としてはあの試合でその全力を出させたかったわね」


「あれは一応制限ありの試合だっただろ……まぁ、スティームとの試合ではほんの少し、狂化を使ったけどな」


「ッ!!!!!」


「ちょ、アラッド」


強者も好きだが、その強者の全力を引き出す挑戦者も非常に好みであり、ギラリと輝く目を向けられたスティームはアラッドに助けを求めるが……ニヤニヤと笑うだけで、アラッドは全く助けず……全力を引き出した青年は目的の場所に到着するまで、アマゾネスに根掘り葉掘り質問され続けた。

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