六百十二話 対なる存在?
(そういえば、侯爵家の令嬢のリミットは……後一週間ぐらいか)
本日も糸を使用してソルヴァイパーを探しているが、もう半分は諦めていた。
(それにしても……やっぱり、モンスターなのに戦闘を好まない。戦闘を初めても切りの良いところで逃げるというのは、本当に珍しいな。もしかして、モンスターではなくユニコーンのような聖獣の類に近いのか?)
それならそれで納得出来る部分がある。
聖獣の心臓であれば、薬の材料としても申し分ない。
「考え事? アラッド」
「あぁ、ちょっとな。ソルヴァイパーは、実はユニコーンみたいなモンスターと言うよりは、聖獣に近い存在じゃないのかと思ってな」
「……よく逃げるから?」
「そうだな。他にも理由はあるけど、モンスターって基本的に人間がいれば襲うし、戦闘が始まれば……よっぽど自分が不利にならないと逃げようとはしないだろ」
「それは……そうだね。ユニコーンよりは遭遇出来てる冒険者は多いみたいだけど、攻撃よりも逃走や防御技術が高いなら、そう思えなくもないね」
「だろ」
とはいえ、運良く遭遇出来れば……仮に聖獣だろうと、戦いのチャンスを逃すつもりはない。
「っ!? 今のは……スティーム!」
「うん!!」
糸を地中に伸ばしながら捜索を行っていたアラッドの糸が、異変を察知。
何かに触れた……と思った瞬間には、複数の糸が衝撃によって破壊された。
(高速で移動してたから、って感じの衝撃じゃなかった。もしかして……何かと戦ってるのか?)
これまでも地中を移動するモンスターとは何度か戦ってきた。
モンスター同士で戦うことは珍しくなく、ソルヴァイパーに喧嘩を売るモンスターがいてもおかしくはない。
(だとしたら、千載一遇のチャンスってやつだな!!!!)
ようやく自分たちに運が回ってきたと思った瞬間、地中から二体のモンスターが出現。
「「っ!!??」」
一体は……噂の白蛇であり、もう一体は……対になる? と思われる黒蛇だった。
「っし!!! スティーム! あっちの白蛇はソルヴァイパーだ!! もう片方の黒蛇は俺たちが相手する!!!」
「ありがとう!!!!」
先程まで争っていた二体の大蛇も自分たちの争いに割って入って来た第三者の存在に気付き、一時争いを中断。
ただ、一時的にタッグを組んで乱入者たちと戦うということは出来ず、そのまま分断されてしまう。
「お前の相手は俺たちだ、ディーマンバ」
「ッ!!! シャァァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ははっ!!! 良い咆哮じゃないか!!!!!!」
黒い鱗を持つ黒蛇、ディーマンバ。
Bランクのモンスターであり、ソルヴァイパーの宿敵的な存在……ではないが、蛇系モンスターの中でも特に好戦的な存在。
一応毒は使えるが他の蛇系モンスターほど毒を戦闘中に使うことはなく、主に咬みつきや尾を使った打撃を好んで使用する。
「ワゥ!!!」
「ん? どうしたんだ、クロ…………あぁ、そういう事か」
相棒が何を伝えたいのか、アラッドは数秒で把握。
(……確かに、轟炎竜との戦いでは俺の方が楽しんでたし、別に構わないか。こいつは元々狙ってたモンスターでもないしな)
アラッドは特に悩むことはなく、相棒からの頼みを了承した。
「オッケー、分かった。クロ、存分に楽しんでくれ」
「ワフっ!!!!」
「……シャアアアアアアッ!!!!」
ディーマンバからすれば、二人で来ようが一人で来ようが、どちらでも構わない。
何故なら……どちらも確実に強個体だと本能で把握しているため。
(ディーマンバもソルヴァイパーと同じくBランクの個体みたいだが…………こいつ、魔力操作の技量が並じゃないな。そこら辺の冒険者よりも断然上手い)
尾を薙いで攻撃する際、当然のように魔力を纏って攻撃を行うディーマンバだが、その魔力は非常に薙ぎ払う……もしくは切ることに特化した形状に変化しており、確実に切れ味が増加している。
(既にクロもそこら辺の攻撃は警戒してるみたいだな。それに、嚙みつきからの尻尾による攻撃に無駄がない…………っ、それしかないと油断させてから、魔力による斬撃刃か……ただ強くて好戦的だけじゃなく、戦闘知能がかなり高いみたいだな)
攻撃力という点に限れば、Bランクの枠を超えているかもしれない。
ただ、それが解ったからといって、アラッドはやっぱり自分も一緒に戦おう!! とは思わない。
(ふふ……良い顔するじゃないか、クロ)
長年共に行動してるからこそ、一目見ただけでどれだけ相棒がディーマンバとの戦いを楽しんでいるかが解る。
(それじゃ、俺を本命のあっちが逃げないように見張っておくか)
ディーマンバはあくまで偶然、偶々見つけられた個体。
クロが十分熱い戦いを楽しめたから逃がしても良いと判断すれば、アラッドは特に無理に仕留めようとは思わない。
ただ、ソルヴァイパーはここで逃がしてしまった場合、もう追跡が完全に不可能になるかもしれない。
そのため……当然、友人の戦闘に関わるつもりはない。
しかし、もし逃げ出そうものなら、そうはさせない。
そんな気を一切起こさせない為にも……普段以上の威圧感を放ちながらスティームたちの戦闘を観察し続ける。
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