六百四話 どんな力?

ウグリールを出発してから数日後……従魔たちに乗って移動した甲斐もあり、二人はまだソルヴァイパーが討伐される前に到着した。


とはいえ、油断はしていられない。


「冒険者だけではなく、騎士まで動いてるらしいね」


「仕える家のお嬢様がヤバい状態となれば、通常の業務を放り出しても何とかしないとって思ってもおかしくないだろうな」


そもそもな話として、ソルヴァイパーの心臓を買い取れば良いのではと思われるかもしれないが……それは不可能だった。


侯爵家ということもあり、財力は並以上のものを持っているが、如何せん……ソルヴァイパーの素材は市場に出回らない。

貴族や豪商、一部の冒険者などが参加するオークションであっても中々出品されない。


ソルヴァイパーの強さと……臆病さ、逃走の速さもあって非常に討伐が困難。

討伐という目的を考えれば、Aランクと断定すべきと考える冒険者や騎士も少なくない。


「それで、僕たちはどうやって探し出すんだい?」


「クロの耳と鼻に頼る。申し訳ないが、それしか良い案が思い付かない」


「ワゥ!!!」


クロは「任せて!!!」と上機嫌。

アラッドやスティームも何か方法はないかと考えたものの、これといった内容は一つも思い浮かばなかった。


(主に地中にいるとなるとな……そもそも攻撃手段が限られる。まっ、見つけさえすれば引きずり出す案はあるが)


アラッドだからこそ出来る手段もあるにはある。

ただ……今回の仕事は、地中から引きずり出す……そこまでがアラッドの役割である。


「……白雷って、どんな効果を持ってるんだろう」


「今更ではあるが、そういえばそれについて全く考えてなかったな」


現在二人はソルヴァイパーが現れるという森で探索しており……今、例の白蛇が襲い掛かってくる可能性はゼロではない。


悠長な会話と思うかもしれないが、クロとファルが五感を尖らせている為、まず奇襲は通じない。


「白、白……白なんだよな……もしかして、癒す力を持っているのか?」


色を持つ属性魔力。

その存在こそアラッドとスティームも知っていたが、あまりにも珍しい現象であるため、詳しい知識は二人とも持っていなかった。


「白い雷で癒す、か。白炎なら何となくイメージ出来るけど、雷だと……美味くイメージ出来ないね」


「確かに……そうだな。ん~~~~……では、守ることに特化しているとか? 雷で守るというのもイメージし辛いが、少なくとも攻撃関係の特性がある様には思えない」


「……纏うことで、纏っている間は状態異常の攻撃を受けない、とか?」


「状態異常の無効化、か……相手を状態異常にさせる効果がある攻撃を全て無効化、もしくは弾くことが出来るなら、確かに色を持つだけの特性なだけある……と言えるか」


アラッドたちの勝手な妄想ではあるが、仮にその通りであれば……スティームにとっては、それほど邪魔な力ではない。


雷という攻撃に耐性を持たれていることは厄介だが、それでもスティームが不利になったと決まったわけではない。


「まぁ、そもそも目撃情報、実際に戦ったらしい冒険者たち曰く、白雷を使う光景は見てないらしいけどな」


「……あんまりテンションが下がるような事言わないでよ」


「はは、すまんすまん。でも……Bランク(A)ってのは、その情報が含まれていない状態での見解だ。白雷を使えないからといって、決して弱いわけではないぞ」


「うん、そうだね…………ちょっと、気が緩んでたというか、気持ちが大きくなってた気がする」


また、強者と呼べる敵と戦いたい。

火竜という、本当に丁度良いモンスターと戦う機会を失われたからか、その気持ちは確実に大きくなっていた。


アラッド出会い、共に冒険をし……ガルシアたちと共に切磋琢磨し、強くなった。

強くなった気でいるのではなく、スティームはアラッドと出会う前よりも確実に強くなっていた。


だが……まだ、目標であるアラッドの隣に立つに相応しい実力は手に入れてない。


自分とファルだけで挑んだ場合、あの轟炎竜に打ち勝つことは出来たか?

肉体の一部を抉る事は出来ても、殺し切るイメージが浮かばない。


であれば、Aランクのモンスターであるクロとなら倒せる?

無意味な過程だが……仮に勝てたとしても、それはクロの戦闘力があっての結果であり、雷獣との戦闘時と役目が殆ど変わらない。


(まだ……僕は弱い。まだ、アラッドの様に相手に特別な何かを求められるほど、強くないんだ。それを……忘れるな)


アラッドに比べれば、まだ弱い。

それは間違ってはいないのだが……アラッドに自分が強者の自覚はあるんだよねと言っておきながら、自身が一般的な認識として……強者であることを忘れかけていたスティーム。


「ん? ケルピーか」


「クロやファルに怯えないんだね……アラッド、僕が相手をしても良いかな」


「良いぞ。でも、次は俺が戦るからな」


こくりと頷き、スティームは抜剣し……数分後、ケルピーを相手にパーフェクトゲームを達成。


掠り傷一つ負うことなく、全ての攻撃を冷静に捌き、Cランクのモンスターを討伐。

決してCランクの中でも弱くはないモンスターを一人で圧勝しても……口元が緩まることはなく、まだまだだと兜の緒を緩めることはなかった。

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