五百九十五話 ありがとう
「っ!!!!????」
最高の闇爪を気高い轟炎竜に捧げたクロ。
その痛烈な一撃は見事轟炎竜が纏う炎気を吹き飛ばし、強靭な肉体を貫き……風穴を空けた。
「……最高の一撃だ、クロ。そして…………ありがとう」
自分の言葉を理解しているのか解らない。
Aランクになったことで、もしかしたら理解しているかもしれないし、まだ理解出来ないかもしれない。
(っ…………どう、なんだろうな。でも、確かに楽しかった)
クロに風穴を空けられ、絶命した轟炎竜は当然、そのまま飛び続ける事が出来ず……地面に落ちた。
その前に……アラッドには、轟炎竜が薄っすらと笑みを浮かべた様に見えた。
「………………」
何はともあれ、火竜から轟炎竜へと進化した強敵を討伐することが出来た。
アラッドは落ちた場所へと向かい、遺体を回収した。
そして………………両手を重ね合わせ、眼を閉じた。
(気高き轟炎竜。あの瞬間に、逃げず……最後まで俺たちを相手に戦ってくれて、ありがとう)
クロは主人に何か言われたわけではなく、その場にお座りの体勢でゆっくりと目を閉じ……轟炎竜との戦いを振り返っていた。
「…………あなたと戦えて、良かった。心の底から感謝している」
「それは良かったね。僕もそう思える相手と、純粋な戦いというものをしてみたいよ」
激闘を終えた共に声を掛けるスティーム。
だが、その心には僅かに怒りの色が含まれていた。
「それはそうとアラッド、祈る前にまずは自分の身を心配してほしいな。勿論、クロもね」
「……っと。はっはっは、すまんすまん。戦いに夢中で、すっかり忘れてた」
自身の肌がどうなってるか気付き、ようやくポーションを飲んで回復。
クロにも渡し、切り裂かれて焼けた肌だけではなく、チリヂリになっていた毛先まで元通りになった。
「ふぅ~~~」
「全く……本当に、戦ってる最中は気にならなかったのかい?」
「…………心の底から熱さを感じた。その熱が強過ぎたのか、肌が焦げるぐらいは気にならなかったな」
実際のところ、アラッドの体には裂爪も刻まれていた。
骨が見えたりなどはしていなかったが、薄皮一枚程度の怪我ではないのは確かだった。
「それに、狂化を使ってる最中だったからな。そういう感覚も麻痺されがちだ」
「……それは良かったね、とは言い難いね」
「良く解ってるじゃないか。そうなんだよ。あんまり過信してると、取り返しのつかない事態になる」
「アラッド自身が解ってくれてるなら、もうこれ以上僕から言うことはなにもないよ」
そう……スティームから言うことは、何もない。
ただ、その後ろには何か……何か言いたげな同業者たちがいた。
(ここで、先日の様に知らない、関係無いといった表情で通り過ぎるのは、なしだろうな)
仕方ない。逃げてはならない場面だと思い、真っすぐ……リーダーであろう人物の元へ向かった。
「…………勝手に突っ走っておきながら、今更言うのは遅いと解っているが、それでも言わせてもらう。相談もせず、轟炎竜の相手をして申し訳なかった」
「っ!!?? い、いや…………こちらこそ……こちらこそ、私たちの不始末を押し付けてしまい、済まなかった」
アラッドが今は冒険者として活動しているが、貴族出身……しかも侯爵家の人間であることは知っていた。
そんな人物が頭を下げてくるとは思っておらず、対応に困るアリファ。
(そうだ……ただ、私たちが完璧に二体の火竜を討伐出来ていれば、彼が頭を下げることもなかった……戻れば、正確に伝えないとな)
どうせならと、水蓮のメンバーとアラッドたちは一緒に下山してウグリールへと戻ることにした。
「あれだな。俺たちの不始末を片付けてもらっておいてこんな事を言うのはあれかもしれないが、本当に凄まじい戦いだった」
「そうね。大人として、先輩として情けないけど……あれは、お金を払ってでも観る価値がある戦いだったわ」
まず、今回の討伐の為に派遣されたメンバーの中で、数少ない大人組がアラッドとクロの戦いっぷりを絶賛した。
「どうも……ただ、そう思えたのはあの轟炎竜が打算ではなく、本能で動いてくれたからです」
進化はしたが、万全な状態ではなかった。
それを考えれば、轟炎竜が逃走という選択をとっても、決してあり得なくはなかった。
「……ドラゴンの誇り、プライドを優先したってことか。ってのを考えると、気高い奴……いや、奴らだったってことか」
「打ち負かされた相手を褒めるのはあれだけど、そうなるわね」
それから、二人はアラッドに自分たちが火竜と戦た時の戦況を話した。
尻拭いをしてもらったからということもあり、多少の情報になればと思っての対応だった。
「火竜に、炎で…………凄いっすね」
素直な感想だった。
それは結果として水蓮のメンバーが敗走に追い込まれた切っ掛けなのだが、それでも炎の攻撃で火竜にあと一歩までの痛手を負わせた。
その功績をアラッドは変に盛って褒めることはなく、心の底から生まれた本音を零した。
アラッドの言葉に悪意がないと解っている為、アリファは嬉しいと思う気持ちと……それでも、といった悔しい気持ちが混ざり合い……お陰で変に顔が緩むことはなかった。
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