五百九十一話 考え込むには、まだ若い

水蓮のメンバーが火竜の討伐へ向かう前夜、夕食を食べ終えたアラッドはバーへと向かった。

スティームは特にその気はなかったものの……宿に戻っても特にやることはないため、相棒と共にバーへと向かい、酒を呑んでいた。


(二体の火竜に匹敵するモンスター、か…………とはいえ、倒しても良い相手であれば、既に競争相手がいてもおかしくないよな)


強いモンスターに挑めば、当然……死のリスクが付き纏う。

しかし、それがあるからこそ討伐に成功した時に得られる名声や功績が大きい。


冒険者になろうという人物など、大抵は成り上がりを目的にする者ばかり。

クランの長などになれば、自身の冒険よりもクランの評価や名声などを気にしなければいけなくなる。


後は、物語に登場するような英雄と称される冒険者に憧れ、自分もその英雄のようになるのだと、憧れを持って冒険者になる者も少なくない。

大半はその憧れる英雄などになれずに終わるが、極稀に本当に憧れに手が届きそうな突出した戦闘者が現れる。


仮にアラッドが新しい標的を見つけたとしても、現場に到着した時には全く予想してなかった誰かが討伐していてもおかしくない。


(……強敵を探して旅をする、っていうのがミスなのかもな)


アイスボールをカランと鳴らしながら、そもそも自分たちの行動理由が間違っていたのか? と考え始める。


(でも、それなら名声を求めて、成り上がりを目標にしてる冒険者の行動理由自体も…………違うか。そうだな、俺たちの場合は違うな)


成り上がりを目的として冒険者になる者はいる。

そして実際に成り上がることが出来る者もいるが……そこに辿り着くまで、いったいどれだけの月日が掛かるか……人によっては、これまでアラッドがこの世界で生きてきた年月以上の時間が必要になる。


だが、アラッドとスティームの場合は……既に名声を、功績を得られるだけの実力と移動力が備わっている。


(別に悪い行動理由ではないと思うが、運には恵まれないのかもな……)


ならどうしようかと考えながら、別のカクテルを頼む。


「難しい顔が続いてるね、アラッド」


「…………まっ、あれだ。俺たちは運が悪いのかと思ってな」


「行く先々で同世代の冒険者に絡まれるから?」


「それはもう仕方ないというか、どうしようもない世の摂理だと一応受け止めている」


受け止めているだけであっても、決してそんな彼らの感情や行動を受け入れるつもりはない。


「雷獣との戦いも、一応はクソイケメン優男先輩に譲る形になっただろ」


クソイケメン優男先輩はあと一歩のところで一体目の雷獣には敵わなかった。


ただ……たらればの話ではあるが、もう少し最後の一撃深く刻み込まれていれば、討伐に成功……その場で倒せずとも、出血多量でいずれ倒せていたかもしれない。


「それで、今回も先客がいた」


「なるほど。確かに、僕たちとしては運が悪いと言えるね」


「そうだろ…………だからな、そもそもとりあえず強い奴をぶっ倒す為に動く、って考えがよくないんじゃないかと思い始めてな」


「……安定に大金を稼ぐために騎士になる、みたいな感じ?」


「多分そんな感じだな」


アラッドが何を言いたいのかスティームはある程度把握。


把握出来たが……だからと言って、何か出来るとは思えない。


「ん~~~~~……けどさ、アラッドは強いモンスターと戦うのが好きなんだよね」


「まぁ、そうだな。俺もクロも、そこに戦りがいを感じてる」


「それなら、そういった目的で動くのは何も悪い事だとは思わないかな。アラッドがそれ以外に目的があるなら、その目的の為に動いて、ついでに強いモンスターと戦うのもありだと思うけどね」


強敵と戦う以外で、冒険者として活動する理由。


(……趣味って話になると、錬金術になるな。とはいえ、そうなると結局はモンスターの素材や云々となる……そうなると、結局は目的の鉱石やモンスターの素材を探すことが目的になるな)


やはり悪いことではない。

特に他人から非難される様な目的ではないが、また運に恵まれないのではと思ってしまう。


「ほら、雷獣の一件に関しては結果として、僕達が尻拭いをすることになったでしょ。それに、その戦いを遠くから見ていたもう一体の雷獣と戦うことになった」


「結果だけ見れば……そうだな。なんだかんだで、運が良かったと言えるか」


「そうだよ。ただ、今回は偶々運が悪かった。これからずっとそんな不運が続くとは限らないよ」


「…………まだ落ち込んで考え込むには早すぎる、か」



翌日、水蓮のメンバーが火竜の討伐に向かったことは解っている為、二人は昼過ぎから良い情報はないかと探し始め、夜には互いに得た情報を伝え合い、吟味する。


そして二日後の昼……離れたウグリール山から一つ後轟音が鳴り響いた。

それまでも何度か戦闘音が微かに響いたものの、その轟音はまさに落雷の如き勢いで街に届いた。


「っ……決着の一撃、か?」


「そうかもしれないね」


だが、昼が過ぎてから数時間、水蓮のメンバーが……ギルドに戻って来た。


そして……タイミングが悪く、そこに「そもそもギルドで情報を集めた方が早いような?」と思った二人が訪れ……負傷者が多く、沈んだ空気を察する。


「っ!!! ま、待ってくれ!!!!!!」


今回の討伐でエースとして重要な役割を担っていた女性が声を上げるも、アラッドはその制止の声に一切耳を貸すことはなかった。

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