五百八十三話 対価?

SIDE アラッド


「……はぁ~~~~~~~~」


「だ、大丈夫。アラッド?」


「おぅ、大丈夫だ」


木竜が消えた一件に関するあれこれは……一応終了した。

ただ、その後……本当にゴリディア帝国との戦争が始まった場合、木竜がアラッドの従魔となって活動して良きか否か……その判断が国から帰ってきた。


結果…………その方向でよろしくといった内容だった。

当たり前だが、国王や騎士団の多くの者たちがアラッドの実力を知っており、立場も今は冒険者として活動しているが、侯爵家の三男と……全く問題無い。


「……決まったことは、ちゃんと伝えないとだよな」


「そ、そうだね……それじゃあ、行く?」


「おぅ。さっさと報告してしまおう」


アラッド宛に届いた手紙の内容をギルドに軽く説明した後、一番伝えなければならない人物……木竜の元へと向かう。


「そうか。正式に許可されたか」


「はい。国王陛下から、直々に許しを頂きました」


「ふっふっふ……これでその時になれば、遠慮なく力を振るえるというものだな」


「「…………」」


雷獣という超強敵に対しても果敢に挑み、間違いなく若手の中では多くの修羅場を潜り抜けてきた二人が……今、目の前のドラゴンに対して、ハッキリと怖さを感じていた。


(向こうさんの考えが実現されたら、最高に最悪な嫌がらせが実行できただろうけど……結果として、目の前の木竜を見ると……選ぶ相手を間違えたんじゃないかと思えるな)


木竜は殺気を撒き散らしているわけではない。

だが、それでもアラッドは以前対峙したAランクのドラゴンゾンビよりも強い恐ろしさを感じた。


「さて……アラッド、スティーム」


「「は、はい!」」


「何が欲しい」


「「……え?」」


全く予想していなかった言葉に、変な声が零れた二人。


「契約は結ばれた。であれば、私が対価を払うのは当然だろう」


全く解らない。


確かに……木竜はアラッドやその他の者たちに迷惑を掛けないようにと、アラッドの従魔として一時的に戦うと申し出た。


だが、そもそもな話として……ゴリディア帝国と戦争が起こった際、木竜という線路欲が手に入った。

これだけでアルバース王国として有難過ぎる。

Aランクのドラゴンが自分たちの味方として戦ってくれる……これだけで勝てる!!! という気持ちが昂ってしまうというもの。


それはアラッドやスティーム、ハリスだけの話ではなく、報告を聞いた国王や宰相も同じだった。


「そ、そうですか……え、えっと」


完全に得をしているのはこちら側。

なのに何故木竜が自分たちに対価を支払うのか? 全く理解出来ないものの……断れば、それはそれで面倒に発展するかもしれないと判断。


とはいえ、欲しい物などパッと出てこない。


(え…………えっ!!!??? あ、アラッドはまだしも……ななななんで僕まで!!!???)


アラッドが対価として何か受け取る……そこまでならまだ理解出来る。

だが……何故自分まで? という疑問が大きいスティーム。


しかし、木竜の考えは至って単純だった。

スティームも面白い存在だから。

それだけの理由で、スティームにも何か与えようという考えに至った。


「す、すいません。今すぐこれといった物が出てこなくて」


「ふむ……それも仕方ないか。それでは、見ていくと良い」


「へ?」


木竜は……自身の住処である大樹の中に二人を案内。


「気になった物を選ぶと良い」


木竜もドラゴン。

ぱっと見温厚そうな見た目と態度だが、ドラゴンらしく……財宝の収集といった趣味は持っている。


(……な、なんだ、これは……)


まさに壮観。

そんな感想しか出てこない程……目の前には大量の財宝が綺麗に並べられていた。


(………………こ、これって)


気になった……というわけではなく、スティームを目を留めざるを得ない獲物があった。


それはスティームが、ホットル王国の貴族であれば殆ど者が知っている家門が記されたバスターソード。


「むっ、スティーム。そのバスターソードを気に入ったか? それは確かに悪くない獲物だが、お主のスタイルには合わないと思うが」


「へっ!!?? い、いや! き、気に入ったという訳ではなく、気になっただけと言いますか……は、ははは」


訊けない……訊けない。

なんでこの家門が入ったバスターソードをあなたが持っているのかと。


それは、スティームの親族が有していた獲物ではないが、ホットル王国の貴族であれば、殆どの者が知っているであろう戦闘者が扱っていた得物。


その家門が入ったバスターソードとなれば、真っ先にその人物が思い浮かぶ。


「…………っ、木竜殿。このバスターソードは、どういった経緯で、手に入れられたのですか」


訊いてしまった。

知ってどうこうなる話はない。


それでも……ホットル王国の貴族として、訊かないという選択肢はなかった。


「ふむ……何時だったか? ここ手に入れた記憶があるが………………数十年ほど前、だったか? とある高齢の騎士? が挑んできてな。あの顔は……名誉を求めたり、復讐を遂げる者の顔ではなかったな…………確か、私の魔石を必要と言っていたな。何はともあれ、あれは良い勝負だった。そう思ってしまう程、私もやはりドラゴンなのだと自覚するほど、良い戦いだった」


「そ、そうでしたか……教えていただき、ありがとうございます」

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