五百八十一話 何故変わった?
他国と……戦争が起きる可能性がある。
その可能性は、決して低くない。
それを知った五人は……そこから、訓練や模擬戦に使うエネルギーがいつもより増えた。
(あいつら……急にどうしたんだ?)
普段ガルシアたちが訓練を行っているスペースには、アラッドが購入した五人以外の奴隷もいる。
(ありゃあ、完全に目的を持って鍛えてる眼だ。漫然とした目的じゃなく……確かに目的を持ってる)
「あの……なんか、ガルシアさんたち。いつもより……迫力がありませんか」
「あぁ、そうだな。鬼気迫る、って言葉が合う顔をしてるな」
孤児院で生活し、将来は冒険者になるために元先輩から指導を受けている少年は、先生に対して率直に感じた疑問を訪ねた。
先生の元冒険者も少年と同じ疑問を感じ取っていた。
「五人とも、目標が定まった眼をして訓練に取り組んでる」
「? 普段は、あまり考えずに訓練を行っていた、という事ですか?」
「いや、そういう訳じゃない。なんて言えば良いんだろうな……一日一日、その日に成し遂げたい小さな目標はあったと思う。長い目で見て達成したい目標に関しても、焦りはなかったはずだ」
「今は……ガルシアさんたちに、焦りがあると?」
「焦りというか、必死というか……使命感を持ってる顔、とも言えるな」
だが、それがどこから来ているのか解らない。
(どう考えてもマスター関連なんだろうけど……そういえば、マスターとスティーム君は消えた木竜の調査? に向かったんだよな……そこで何かあったのか?)
少し考えれば、それぐらいの予想は付く。
「マスターの身に、何かあったのかもな」
「っ!!?? な、何かって……何があったんですか!!!???」
「落ち着け」
「あいたっ!?」
「あの五人が一斉に屋敷から飛び出して、街を飛び出てマスターの元へ向かっていないということは、マスターの命に危機が及んだとか、そういう類のことは起こってない筈だ」
「そ、それなら……いったい、何があったと言うんですか」
そこまで細かい事は、人生経験がそれなりにある男でも解らない。
(あの五人だけ、侯爵様に呼ばれた…………アラッド様が関わってるのは間違いない。疑問点は、何故あの五人だったのか………………そこ、か?)
深く考え込んだ結果、男は当たり前過ぎる五人の共通点を思い出した。
それは……強さ。
元々エルフ、虎人族、ハーフドワーフである五人の身体能力は人族よりも長所があり、たゆまぬ訓練と実戦で確実に成長している。
その戦闘力、技術は……ある程度一流と呼べるレベルに達している。
(あいつらに足りない部分なんざ、己と肉迫するほどの強敵との激闘、または死闘。それだけだ。それさえ手に入れ、後は今よりもレベルを下げさえすれば、マジの一流になる)
では、あの五人は今になってその一流を目指している?
であれば……何が理由で?
振り出しに戻ったように思えるが、少しずつ答えに近づいていた。
「……あの五人に何か変化があったってことは、マスターに関する事だ。あぁして眼の色が変わったのは……マスターの力になるため、だろうな」
「それは……納得出来る理由ですね。ただ、何故今?」
勿論、これまで五人が訓練などで手を抜いているとは思っていない。
とはいえ、少年もその違いが判るからこそ、何故という気持ちが消えない。
「マスターの力になりたいから、なんだろうが………………っ!!!!????」
一つ……ある一つの考えに至り、男の表情は急に崩れた。
「ど、どうしたんですか?」
「いや……大丈夫だ。大丈夫なんだが……」
吐き気、気持ち悪さなどはない。
ただ、至った考えに対し……寒感が背中を走った。
(それなら、辻褄が合う? でも、なんで…………って、答えは出てるか)
他国との戦争が起きるかもしれない。
そこまで考えが辿り着いたのであれば、何故そうなるのか……という考えは、直ぐに答えが出る。
(どうなったのか詳しくは解らねぇけど、木竜を消したのはその国で、特大の嫌がらせをしてきた……多分、どこの国の連中がそんな事をしたのか、マスターとスティーム君で発見、もしくはひっ捕らえたんだろうな)
正確には違うが、概ね合っている。
「…………」
「な、何か解かったんですか!?」
「いや、正直頭がこんがらがって結局解らん」
「そ、そうですか」
少年には……表情の僅かな変化から、嘘を見破れるほどの観察眼はまだ備わっていない。
だが、先程の表情と会話の流れから、先生が何かを隠したことだけは分かった。
(……いつ起こるんだ? あの五人がマジで必死で訓練に取り組んでるだけじゃ、いつ起こるのか解らん。あいつらに訊けば、答えてくれるか? そうしてくれたら楽なんだが…………っ! 戦争が早く起こることを望むなんて、普通ならあり得ねぇが…………そう、思わざるをえないな、クソったれが)
この後、夕食後に男はガルシアに声を掛け、何故急に訓練に対する姿勢が変わったのかを訪ねた。
「…………実はだな」
ガルシアは尋ねられた表情、眼から下手な言い訳は通じないと判断し、全ては話さなかったが、大まかな部分を伝えた。
そしてその後……男は自身の考えを会話の中でポロっと零した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます