五百七十五話 返答は決まっているが……

「アラッドよ、名案を思い付いたぞ」


「名案ですか」


木竜が名案と言うのだから、さぞかし良い案なのだろうと少し期待するアラッド。


「短期間の間、そこの従魔と同様、私もお前の従魔になれば良い」


「……………………」


アラッドの思考は完全に停止した。


木竜の言葉が聞こえなかったわけではない。

寧ろちゃんと聞こえており、じっくり考えれば……いや、じっくり考えずともそこが妥協点であることは解る。


ただ……その未来を想像してしまい、思わずフリーズ。


「……おい、アラッド」


「はっ!!?? す、すいません。少しお、驚き過ぎたと言いますか……その、本当にびっくりして」


「構わん。それで、私の名案はどうだ」


「そ、そうですね……」


木竜が本格的に参戦するにはどうするべきかと考えれば、まさに名案だった。


アラッドは基本的に誰も知らないような村から現れた超スーパールーキーなどではなく、身元がしっかりしており、侯爵家の令息に加えて騎士の爵位を持っている。


立場という点に関しては申し分ない。

加えて、冒険者界隈では未来のAランク冒険者候補に挙げられており、ただ立場があるだけのボンクラではない。

その他の要素も加えて……アラッドは木竜を従魔にするだけの要素が色々と揃っている。


「……あの、それは本当に自分でなければ駄目ですか?」


「自分の実力に自信がない、という事か?」


「い、いえ。そういう事を言葉にしてしまうのは、嫌味になると解っているので……ですが、その……」


既にアラッドはクロ……デルドウルフというAランクのモンスターを従魔にして活動している。


これまでの行動から、もっと穏便に目立たないように行動したいんですよぉ~~~~……なんて言おうものなら、友人たちからであっても白い、もしくは冷たい目を向けられる。


それはアラッド本人も理解しており、そもそもそういった生き方は無理だと自覚している。

いきなり方向転換しようとも考えていない。


しかし……Aランクのドラゴンを一時的にとはいえ、従魔にする。

それがどれだけの事なのかも理解出来る。


従魔と共に戦う冒険者の中に、ワイバーンやBランクの属性ドラゴンを従魔にしている冒険者は……多くはないが、一定数存在する。


そしてアルバース王国や、他の国にもワイバーンに乗って戦う竜騎士は存在する。


だが……Aランクの高位ドラゴンを従える者は、まずいない。

歴史を遡ったとしても、両手両足の指の数を越えることはない。


「……木竜殿は、一時的にとはいえ人間の下で行動することに、不満などはないのですか」


「不満があれば、このような提案はしない。まず、お前は私と同じ次元のドラゴンと親交がある」


「そ、そうですね」


疑問解消の質問の中で、既にオーアルドラゴンと交流があることは伝え済み。


「加えて、その歳にしては圧倒的な強さを持っている。そっちの巨狼と組めば、十分私の首に刃が届くだろう」


「ど、どうも」


「強ければ誰にでも従うという訳ではない。アラッド……お前だからこそ、その価値があると判断した」


「っ……光栄です」


人の言葉を話せるからか、それとも高い知性があるからか……そう評価されることに嬉しさすら感じる。


(…………寧ろ、今回の件に関わった人間以外に従った場合の方が、色々と問題になるかもしれない、か)


また十数秒ほど瞑目して悩んだ。


しかし、悩んだところで……どちらにしろ結果は変わらない。

ただ……それでも、この場でアラッドが勝手に決める訳にはいかなかった。


「……木竜殿。おそらく答えは決まっているとは思いますが、一度この件に関しては持ち帰ってもよろしいでしょうか」


「ふむ……………力の強さだけで序列が決まらない事を考えれば、当然か。分かった、上の返事というのを待とう」


「ありがとうございます」


本題はこれで終了……だが、この後結局アラッドはオーアルドラゴンの時と同じく料理を造ることになり、結局ジバルに戻ってくるのは夕暮れになってからだった。



「なるほど…………とりあえず、大丈夫かい」


戻って来たアラッドから木竜との会話内容を聞いたハリスは、まずアラッドの心労具合を心配した。


ハリスはアラッドが目立たないように、なんて生き方を強く求めていない事は分かっている。

単純に目立つ、意外の目立ち方をすることも受け入れていると……直感で解かっている。


だが、今回の件がそのまま……木竜の提案通りに進めば、眉間を抑えたくなる目立ち方をするのも解る。


「……もう、仕方ないと思ってます。というか、ここまで関わっていて今更無理だと言うのは……逃げになります」


変なプライドの話でも、男らしい……ほんの少し子供心が混ざっているプライドでもない。

責任という単純な話である。


「問題が問題なだけに……貴族出身の自分が、この件から逃げることは出来ません」


「無理をしてないかい、という言葉は愚問だね」


「心配して頂き、ありがとうございます」


貴族だから…………代われるなら、その責任を代わりに背負いたい。


(っ……そう思うなら、この先起こり得るであろう戦争で、一人でも多くの仲間を救うのみ)


ハリスもハリスで、アラッドと同じく覚悟を決めた。

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