五百六十六話 観察者
(バイキングタイガーを一人と一体だけで倒してしまうか)
遠く……遠く離れた場所で、一人の男がスティームとファルのタッグ対バイキングタイガーの戦いを観ていた者がいた。
アラッドやスティームは当然気付かず、クロの鼻をもってしも気付かない場所から、双眼鏡のマジックアイテムを使用しながらその戦いを観戦していた。
(直ぐ近くには巨狼と、強面面の若者……あの男が、ニ十歳以下であればアルバース王国内、最強と呼ばれる男、アラッドか)
本人の耳には入っていないが、男が考えている通り……アラッドはニ十歳以下という条件に限定すれば、アルバース王国の中でも最強なのでは? と噂されている。
どの分野でも誰が一番なのか、最強なのかという議論は平民であっても冒険者であっても、騎士や貴族であってもよく行われる。
そんな中で……まず、アラッドは十五歳で……高等部の一年生でありながら、王都で開かれた大会で現最強の学生だったフローレンス・カルロストを撃破した。
途中まではアラッド勝利するのか、それともフローレンスが勝利するのか……誰から見ても解らない状況が続いていた。
しかし決勝戦も終盤、半端な状態とは言えど、フローレンスは光の精霊であるウィリスと精霊同化を行った。
その時点で多くの者がフローレンスが有利な戦況に変化したと判断。
だが、アラッドはその不完全な精霊同化を見逃さず、冷静に対処。
そこから決定打を与え……最後は圧倒的で深く、濃密な戦意でフローレンスの闘争心をへし折った。
以前からフローレンスは並の騎士より強い……どころの話ではなく、並み以上の騎士が相手ですら打ち勝てる実力を秘めていた。
そんなフローレンスを打ち破ったことで、アラッドの名は急速的に広まった。
そしてそこから更に名が広まる快進撃が続き、更には父親と同じくほぼソロでのAランクドラゴンの討伐を達成。
本人がその事実を否定しているという話も広まってはいるものの、やはりドラゴンゾンビを討伐したという事実は事実であるため、更に評価が爆上がり。
その後は仲間と共にとは言え、結果として二体の雷獣を討伐。
ニ十歳以下と限定すれば、彼は最強だと呼ぶ声が高まり……徐々にアラッドという名が国外にも広がり始めていた。
(スティームという男と、その従魔であるストームファルコンだけで戦ったということは、スティーム本人が申し出たからか? であれば、やはりあの男も危険だな)
正確なところは解らない……しかし、一部では雷獣を討伐する際に立役者となったのはスティームだという噂もある。
その男は知らないが、バイキングタイガーと比べて格は下がるものの、スティームにはソロでBランクモンスターを討伐出来るだけの総合的な戦闘力がある。
決して……赤雷や強力な武器だけに頼る男ではない。
(それにあの巨狼……いったいどういったモンスターなんだ?)
クロ……デルドウルフは非常に珍しいウルフ系のモンスターであり、その外見自体があまり知られていないことが多い。
とはいえ、その見た目だけでその他大勢のモンスターとは格の違いを示すほど力強さを有している。
(……なんとかして、早めに消しておきたいな)
男は気付かれる前にその場から動き、どうやって二人を始末するかを考え始めた。
「あいつら、絡んで来なかった」
「そうだね……追放はせずとも、ハリスさんが何かしらの対応はしたのかもしれないね」
探索と調査を終えた二人はギルドで換金を行ったが、先日絡んで来たうちの二人はギルド内にいたものの、再度アラッドとスティームに絡んでくることはなかった。
ただ……悔し気な目線だけを向けていた。
(俺たちに絡んでくることがなかったってのを考えると、スティームの言う通りハリスさんが何かしらの対処をしてくれたか……いや、そういえばこの前あいつらを潰した時に、一応これ以上俺たちに絡むなとは伝えたけど……もしかして、ちゃんとそれを守ってるのか?)
五対一という戦いに勝ち、アラッドは上から高圧的に見下しながら、勝利の対価として要望を伝えた。
契約などはしておらず、強制的な縛りはない。
今度ダルい絡みをしてきた場合、本当に骨をバキバキに全身骨折させるか耳を引き千切るかを考えていたが、本人達が復讐? をしようと思えば、それを実行することは出来る。
「俺たちに絡んでこなくなったという事は、丁度良い対応をしてくれたんだろうな……というか、そろそろまた何か手掛かりを見つけたいな」
「そうだね……けどさ、アラッド。正直さ……僕も木竜がどこかに消されたという可能性は解るけど、最悪の可能性を考えると、殺されたの方が良いんじゃないかな」
「ふむ……………そう、だな」
後十日も経てば、殺されたのか……どこかに消されたのか、明確では無いにしろ答えが出る。
(依然として、サンディラの樹海ではモンスター同士の争いも活発。低ランクのモンスターは冒険者を見つければ容赦なく襲い掛かってくる……支配者が必要なのか、それとも上位の連中が全て消えれば良いのか……明確な答えがない問題を解くのは中々にきついな)
それでも、二人はその問題から目を逸らして無視することは出来なかった。
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