五百四十七話 重なって……る?

「マウンテングリズリーに、ホワイトタイガーか……どっちもBランクだが、どっちと戦りたい?」


相談している間に頭領の大男は二体の相棒と共に攻める。


「そう、だね……どうせなら、ホワイトタイガーと、かな!!!」


「オーケー。そういう感じで、いこうか!!!!」


「ごちゃごちゃやかましいぞ!! クソガキ共が!!!!!!」


二人の余裕な会話に苛立ちながら大斧を振り回すも、戦力は見事に分断された。


「頭領さんとそっちのマウンテングリズリーは、俺の相手をしてもらおうか」


「上等じゃ!!! 先にお前からミンチにしてやらあああッ!!!」


「ゴォオオオアアアアアアッ!!!!」


マウンテングリズリーは自身のサイズを元のサイズ以上に大きくすることは出来ないが、小さくすることが可能。


(なるほど……確かにマウンテンだな)


元のサイズに戻ったマウンテングリズリーのサイズは二メートルを完全に越えている頭領の倍はある。


攻撃力は、言わずもがな容易に地面や壁をひび割れするほど高威力。

スピードはミノタウロスよりやや遅いものの、そこは二対一の戦況を活かしてコンビネーションで埋める。


「じぇええああああッ!!!!」


「本当に、なんで盗賊なんて、やってんだか!!!!」


相変わらず笑顔で迅罰を振るい続けるアラッド。


それに対し……口にする言葉全て威勢が良いものの、頭領は明らかに焦っていた。


(このクソガキ! なんて武器を、使ってやがるんだッ!!!!)


頭領が現在使用している大斧は土属性の魔斧。

殺した冒険者から奪った逸品であり、現在は立派な頭領の相棒として振るわれている。


武器の重さや形を考えれば、迅罰はその大斧に敵わない……と思うのが当然だが、明確な刃がない鋼鉄の長物は岩石を纏った大斧の一撃にも……大地を叩き割るマウンテングリズリーの爪撃にも対応している。


二対一という戦況に余裕で対応しているところも驚く点だが、力自慢の頭領とマウンテングリズリーからすれば、自分たちの攻撃を容易に弾いている獲物とクソガキの腕力が第一に恐ろしい。


「マウンダーッ!!!!!」


「ガァァアアアアッ!!!!」


「ふんッ!!!!!」


頭領が指示を飛ばした瞬間、マウンテングリズリーが爪撃スキル、クロスグロウを全力で放つ。

双剣技のクロススラッシュと殆ど同じ技であり、発動者がマウンテングリズリーということもあり、スピードよりパワー重視の一撃。


食らえば吹き飛ぶのは確実な攻撃に対し、アラッドは特に技を使用せず……ただただタイミングを合わせ、思いっ切り袈裟掛けを叩きこむ。

結果……マウンテングリズリーの両爪は弾け飛び、両手の骨はバキバキ。


「死ねやぁああああああああああッ!!!!」


相棒の攻撃力と防御力を信じ、頭領は大ジャンプし……壁を利用してもう一度跳ね、斧技……兜割りを全力で叩きこむ。

振り下ろす際、殆どの魔力を使用した結果……大斧の刃を完全に覆ってしまう程の岩石を纏った。


兜割という技を放ったにもかかわらず、当たれば割るのではなく叩き潰してしまう一撃。


(ッ!! どうだ!!! クソガキがッ!!! 大人を……盗賊を嘗めんじゃねぇぞッ!!!!!!)


土煙などで完全に前が見えない。

それでも、生物の血が噴き出るところが見えた。


「……あれだな。他人事だから言えるけど、残念無念また来週……いや、来世か?」


「なっ!!!??? ど、どういう事だ!!!」


「あんたの強力な一撃をちゃんと避けたってだけだ。んで、ついでにあんたの攻撃を利用して……ほら」


「なっ…………ま、マウンダーーーーーーーーーーっ!!!???」


アラッドは強化された兜割り振るわれる直前に斜め前に跳んで回避していた。

余波こそ受けたものの、少し後ろに押される程度であり、怪我はない。


しかし……攻撃部分の刃に纏う岩石を大きくし過ぎたため、勢い余ってマウンテングリズリーの一部を削り取ってしまった。


原形は留めているが、凄い骨から脳の一部……胸骨なども抉られ、結果としてアラッドの攻撃ではなく頭領の強力な一撃がマウンテングリズリーを倒してしまった。


「……マウンテングリズリーに関してはクロスグロウと勝負することが出来たし、良しとするか」


「っ、っ、っ!! ッ!!!! この、この!! ごのクソガキがァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


アジト全体が震えるほどの咆哮が響き渡る。


(ん? この感じ……)


自分で殺しておいてブチキレるとか、さすがに自己中心的で俺様的思考過ぎるだろ……とツッコみたいところだったが、寸でのところでハイになった状態での暴言が出かけた瞬間……頭領の雰囲気、そして己の相棒である従魔が殺された瞬間……諸々の何かが重るのを感じた。


「……ハッハッハッ!!!!!! おいおい、自己中なことに変わりはないが、それが激アツってやつだろ!!!!!!!」


「ガァアアアアアアアッ!!!! コロス、コロス、ゴロス!!! ブッコロスッ!!!!!!!!」


魔力の残力が残り一割を切り、本来であれば倦怠感が襲ってくるのだが……頭領はこのタイミングで狂化を顕現し、そのまま発動。


まだ、勝負は終っていなかった。

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