五百三話 利用されてる?
レイピア使いの青年に襲われてから数日後、アラッドとスティームは重要参考人として、ルドルスの騎士団に呼ばれた。
「どうだ、口に合うかな」
「……はい。正直、ちょっとびっくりするほど美味しいです」
「はは、それは良かったよ」
重要参考人とはいえ、騎士団の者たちにとって……二人は適当に扱える人物ではないため、テーブルの上に紅茶とお菓子が置かれていた。
「それで、俺たちはここに呼び出したという事は、あのレイピア使いにクスリを渡した人物……組織が解ったんですか?」
「まだ明確には解っていないけど、候補は絞れてきてるんだ」
候補の組織名を聞き、アラッドの表情が歪む。
スティームも聞き覚えがある組織が少しあったため、まさかの組織名に驚く。
「……結構、ヤバい感じかな?」
「ヤバいと言うか……いや、とりあえずヤバいだろうな。それでめんどくさいことになると思う」
「鋭いね。今回の事に関しては既に国に報告してる。狙われてるのが未来ある若者たちであれば、国もそれなりの力をこの件に貸してくれると思うからね」
国が全力で調査に当たらないのには、戦力は避けるのが今回の一件だけではないから、という単純な理由。
「アラッド、面倒というのは……そういう事、なのかな」
「あまり考えたくはないことだけど、有名どころの裏組織だと、お偉いさんが関わっててもおかしくないからな」
アラッドの言葉を否定出来ず、騎士も苦い顔になる。
当然のことながら、貴族は敵対関係が強い相手に対して堂々と攻め込む様な真似をするのはアウト。
それ故に裏の人間などを雇ってあれこれ暗躍することが多い。
「騎士として、あまり推奨出来るやり方ではないんだけどね」
「堂々とぶん殴ることが出来ないからこそ、ですよね。まぁそもそもバカな真似をしなければ良いって話なんですけど…………全員がそういう考え方を出来たら、騎士団の存在意義が薄れますよね」
「はっはっは! 確かにそうだね。でも、そうなれば僕たちもモンスターの討伐などに集中出来るね」
他愛もない会話を行いながらも、互いに得た情報を共有し合う。
「やっぱり俺たち……いや、俺が狙われるようになりますかね」
「そうだねぇ、正直なところ……僕はあのクスリをバラまこうとしてる連中は、君を利用しようとしてるんじゃないかと思ってるんだ」
「??????」
騎士の予想を聞き……頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
「ほら、アラッド君はとんでもなく強いだろ。あのトーナメント、仕事があって観れなかったけど、実際に観ていた知人からは観戦したことを一生自慢出来ると言ってた」
「そ、そうですか」
ややオーバーな感想であっても、そう感じてくれた人がいると思うと、やはり嬉しいものがある。
ついでに対戦相手だったスティームも釣られて照れる。
「でも、確かアラッド君が学生時代の時、襲ってきた人物はアラッド君の力に嫉妬していたんだよね」
「……後でそういう話を聞きました」
「嫉妬というのは、人を闇に突き落とす一つの要素だ。僕たちみたいな大人であればある程度仕方ないって気持ちで、そういう醜い部分を抑えられるけど……若い子供たちはそうもいかない」
必ずしも大人は子供より優れているとは限らない?
確かに実力といった点に限れば、アラッドは大抵の大人より強い。
だが、全ての点において勝っている訳ではない。
逆も然りではあるものの、心の強さ……制御力に関しては、全体的に大人の方が上手と言える。
「えっと、つまりアラッドに敗れた若い人たちを利用して、将来有望な人を潰そうとしてる、ということですか?」
「その可能性が高いという話だね。今回のケースはちょっと特殊だったかもしれないけど、一応アラッド君も関わってる訳だしね」
「…………」
先日、勝手に闇落ちする者たちを面倒な存在だと思っていたが、自分が利用されているかもしれないと告げられ……色々と複雑な思いが湧き上がる。
(俺が悪い、のか? 確かにギルみたいな奴を追放まで追い込んでしまったことはあるけど……けども、それは元々俺に絡まなければ良い話ではないのか!?)
絡まれて喧嘩を売られれば、ついつい買ってしまうアラッドではあるが、買うも買わないもそれはアラッドの自由。
ぶっちゃけた話、そこまでアラッドが気にする必要はない。
だが、結局問題に大きく関わっているということもあり、完全に頭から離れることはない。
「……そもそも俺に絡むなよって考えは、傲慢というか我儘が過ぎるんですかね」
「いやいやいや、そんな事はないよ。原因を辿ればそういう話なんだ。決してアラッド君が悪い訳じゃない」
「ありがとうございます。そう言ってもらえると少し楽になります……でも、だからといってそういった人がいなくなるとは限りませんよね」
アラッド的には自身にバカ絡みしてくる人物は、前世のバカ〇ターの様な存在だと考えている。
そんな事をすれば破滅という未来しか待っていない、今後の長い長い人生を全て潰しかねないよう行動を平気で行う。
そいつらは自分たちと別の人種、故に消えることはないと思っていた。
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